人と植物が共生する空間を提案し、自身もそれをこよなく愛する森井奈津子さん。植物を暮らしに取り入れたくなるのは、「普段の生活ではなかなか感じ取れない自然の摂理に沿って生きる植物の姿に、癒やしをもらえるからでは」といいます。
そう考えると、植物のあり方と似ていると思います。植物は人間の営みとは関係なく、土や水の中で着実に成長し、最適な時季になったら芽を出し、陽の光を浴びて力強く育つ。人間はそんな植物の姿になんだかほっとさせてもらっています。
今回1冊目に紹介したい『多肉植物生活のすすめ』は、まさに植物の個性に愛情と尊敬を寄せて、一緒に生きていこうとする筆者・TOKIIROさんの姿勢が素晴らしい本です。多肉植物の育て方や増やし方、飾り方も網羅した、初心者にもわかりやすい「栽培HOW TO本」ではありますが、根底にはその小さな植物から「学ばせてもらう視点」と哲学があります。多肉植物は小さくかわいらしい姿が人気の植物ですが、過酷な環境で生きてきた結果、形になったもの。自然樹形に近くなった、いわゆる「かわいい」とは離れた姿のものもありますが、それも美しいと思ってもらえるはずです。
『造花自然』も、できるだけ自然な植物の姿に真摯に向き合うことが大事だと違う切り口で表現している本だと思います。銀閣寺の花方教授を務めた珠寳さんの生け花の写真とその考え方が綴られているのですが、花の本ながら最初に「目的に向かって正しく進むために慎みを第一とする」と書かれていることに、はっとさせられました。ほかにも流れに逆らわず、自然に沿って生きていると自分の生活も整ってくるということなどが語られていて、仕事で疲れたり、息苦しさを感じたときに開くと、気持ちがあるべき場所に落ち着いていく気がします。
人が、あえて家の中に植物を入れてお世話をしながらともに生きるのは、自然のリズムに少しでも触れて共生することが心地よく、そして必要だとどこかで感じているからかもしれません。植物を家に入れるのが難しいという方は、絵本『はるにれ』を開いてみてほしいです。北海道にある一本の大きな「はるにれ」の木の季節ごとの写真が載っているだけの本で、文はいっさいないのですが、ただただ移り変わっていくだけの姿に何ともいえない感動を覚えます。私にとってはこの感動が、植物と共に暮らしたい気持ちの原点だと思うのです。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。