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特集 | 道の駅入門

『フリーペーパー道の駅』編集部と見つめる、道の駅のおもしろさとこれから。─『道の駅なみえ』探訪編─

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『フリーペーパー道の駅』を編集・制作する二人に、道の駅の基本の「き」を教えてもらいながら、オープンして1年が経つ福島県・浪江町の『道の駅なみえ』と駅長を訪ね、まちと道の駅の関わりを語ってもらいました。

一般道路にも休憩スポットを。1993年に道の駅が誕生。

 全国にある道の駅を紹介する『フリーペーパー道の駅』。今回、その編集者である内海健人さんと金子隼也さんが、福島県・浪江町にできて1年が経つ『道の駅なみえ』を訪れ、駅長の東山晴菜さんに取材するが、その前に、「そもそも道の駅って何?」という素朴な疑問に二人が答えてくれた。

 昭和生まれの読者ならご存じかもしれないが、昔の一般道沿いにはドライブインやオートレストランと呼ばれる、食堂や土産物店、自動販売機などを備えた食事・休憩施設があった。しかし、時代の流れのなかでそれらは減少。新たに台頭したコンビニエンスストアがドライバーの人気を呼び、さらに、地域の魅力を発信する道の駅も現れる。「1990年頃、道の駅をつくろうという動きが建設省(現・国土交通省)で起こりました。高速道路にはサービスエリアなどの休憩スポットが存在しますが、一般道路にはなかったから。お腹が空いたり、トイレ休憩や仮眠をとりたくなったとき、24時間無料で利用でき、地域情報も発信される施設があればドライバーにも喜ばれるので」と内海さんが教えてくれる。91年に山口県、岐阜県、栃木県の3地域・12か所で道の駅の社会実験が行われ、「その成果として、『地元のコミュニティが活性化された』『地元の特産物をPRできた』などの意見が報告され、道の駅に必要な施設やサービスの検討が行われたのです」。

 そして、93年。全国103か所に道の駅が誕生したのだ。

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『道の駅なみえ』駅長の東山晴菜さん(中)を訪ねた、『フリーペーパー道の駅』編集者の金子隼也さん(右)と内海健人さん(左)。ロゴは浪江の海、太陽、山、駅の字のなかに鮭を表現。

道の駅の3つの機能と、地域でのあり方。

「道の駅に登録されるには、3つの機能が必要です」と、金子さんが道の駅の機能について教えてくれる。「1つは、休憩機能。24時間、無料で利用できる駐車場とトイレが設置されます。2つ目は、情報発信機能。道路情報や地域の観光情報、AEDなど緊急の場合の医療情報を提供します。3つ目は、地域連携機能。文化・教養や観光・レクリエーションが実施できる地域振興施設を設けること。さらに、2004年に起きた新潟県中越地震で、道の駅が防災拠点として見直されたことから、災害時に防災機能を発揮できる施設を設けることも必要とされています」。

 道の駅は自治体などが申請し、国土交通省によって登録される。自治体は道の駅を第三セクター方式で運営したり、法人に指定管理を依頼したりする。ただ、自治体には公共性や公平性が求められるため、商売っ気を出しすぎると、地域の商店と競合することになり、公平性が保てなくなる。さらに、地方創生の政策が推し進められると、道の駅は地域おこしの一手としても注目されるようになり、ますます集客や売り上げに目が向きがちに。「地域の商店や農家と競合せず、地元の人たちをいかに巻き込み、ともに発展していくかが運営の大きなポイントです」と、『フリーペーパー道の駅』を発行する『RSP道の駅』の企画運営部長・大池高史さんは民営化が進む道の駅の現状と課題を考察する。

 また、国土交通省は、20年から道の駅は「第3ステージ」に向かうと提唱。道の駅の世界ブランド化、「防災道の駅」の認定制度の導入、子育て応援施設の併設など、これまで以上に役割が求められる。大池さんは、「多様な情報が集まり、都会の人と地域の人の交流拠点になっていくと思います。道の駅に立ち寄ったことがきっかけで、その地域の関係人口になったり、移住したり。さらに、企業と道の駅のコラボレーションも活発化するなど、これからの道の駅は人とのコミュニケーションに価値を置くユニークな場になるでしょう」と、道の駅の可能性を語った。

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『RSP道の駅』企画運営部長の大池高史さんも道の駅の取材に応えてくれた。

『フリーペーパー道の駅』とは?

 21年6月現在、全国に1193か所ある道の駅から、対象となる道の駅を取材し、紹介する『フリーペーパー道の駅』。09年に栃木県版からスタートし、14年から全国的に広がりを見せ、19年からは岐阜県と東京に拠点を置く『RSP道の駅』が発行している。現在、27都道府県版・14媒体が季節ごとに発行され、道の駅に配置されている。
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27都道府県・14媒体のバリエーションで制作。基本は1冊24ページ。
 第1特集は、キャンプブームを楽しむアウトドア企画など世の中のトレンドに合わせた取材記事が14媒体すべてに掲載される。第2特集は、自治体や企業のタイアップ記事に道の駅を絡めた記事広告が掲載される場合が多く、地域や媒体ごとに制作される。内海さんと金子さんは主に、第2特集や注目の道の駅を紹介する「道の駅クローズアップ」を担当し、記事の企画から取材、撮影、編集、そして広告営業まですべて一人でこなしているそうだ。「例えば、埼玉県秩父市。道が狭い地域もあり、車より自転車のほうがアクティブに走れます。そんな地域のサイクリングスポットを、第三セクターが運営するレンタサイクルに乗って走る周遊企画を組み、市とのタイアップ記事として制作し、協賛をいただくという誌面もあります」と、金子さんは話す。

 二人は入社して2年ほどの若手編集者だが、道の駅への思いは強い。内海さんは大学時代に「緑のふるさと協力隊」隊員として長野県・泰阜村で1年間暮らす中で、道の駅が地域活性化に欠かせない存在だと知った。以来、入社後も含めて300か所以上の道の駅に足を運んでいる。金子さんは、前職場がIT系の商社だったこともあり、「道の駅は地域の商社とも捉えられ、六次産業化の出口としても地域創生の拠点になると思います」と、別の角度から道の駅に関心を寄せ、入社した。そんな二人が福島県・浪江町の『道の駅なみえ』に向かった。

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金子隼也さん(左):『フリーペーパー道の駅』編集者。神奈川県出身。大学時代は海外のホテルでインターン。埼玉・東京・神奈川県版と群馬県版担当。
内海健人さん:『フリーペーパー道の駅』編集者東京都出身。前職場は地方創生のイベント会社。福島・宮城・山形県版と青森・秋田・岩手県版担当。。
目次

『フリーペーパー道の駅』 編集部・内海さん、 金子さんに聞く、 道の駅の楽しみ方 ─『道の駅なみえ』編─

『道の駅なみえ』に到着した内海さんと金子さん。ゆっくりと見て回りながら、道の駅の楽しみ方や隠れた感動ポイント、浪江町ならではの特色を見つけ出した。

「らしさ」にあふれた、『道の駅なみえ』を歩く!

 道の駅の楽しみ方として、まず内海さんが挙げたのは、道の駅に向かう道中。「道の駅には基本、一般道路で向かいます。農・山・漁村の風景や、集落の人たちの暮らしを眺めながら車を走らせると、心が躍ります。畑仕事をしているお年寄りに話しかけた際、採れたばかりの野菜をくださることもあって」と目を輝かせる。

 こんな地域にある道の駅なんだと意識しながら、『道の駅なみえ』に到着。車を降りて駅舎へ向かう途中、「停まっている車のナンバー」も見る。地元客と県外客の割合を目算で調べるところは、さすが編集者。入り口で手指の消毒と体温計測を行うと、トイレへ向かった。「『フリーペーパー道の駅』で特集をしてという要望があるほど、トイレは評価ポイント。重要です」と内海さん。『道の駅なみえ』のトイレは建物内にあり、24時間利用できる。とくに、女性は夜の外トイレに怖さを感じたり、嫌な虫が入ってきたりして、「使いたくない」という声も。掃除が行き届き、広くて明るく使いやすいトイレは欠かせないスペースだ。

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子育てママを応援しようと自動販売機でおむつを販売。授乳室も完備。隅々まで掃除が行き届いた清潔で明るいトイレにはトルコギキョウが飾ってある。みんなのトイレは人工肛門を造設したオストメイトの方も利用可能。
 人気の産直コーナーへ向かう手前にインフォメーションがある。開口部が広く、中の様子もうかがえて気軽に案内を請うことができる。「スタッフはピンクのポロシャツを着ていて見分けがつきやすく、声もかけやすいです」と内海さん。さっそく、フードテラスで食べられるおすすめの地元メニューを尋ねていた。また、「レジがキャッシュレス化されているのも先進的」と金子さん。「道の駅第3ステージを実現されています」。

 金子さんは伝統工芸にも関心を持ち、別棟の『なみえの技・なりわい館』で販売されている大堀相馬焼や陶芸体験、浪江の老舗・『鈴木酒造店』の近代的な蔵に目を丸くしながら浪江の歴史を学んでいた。「道の駅の楽しさは、地域らしさを感じること。『道の駅なみえ』にも浪江らしさがあふれています。東日本大震災で甚大な被害を受けた地域であるという背景も心に留め置きながらスタッフと話し、食事や買い物、体験を楽しみたいです」と、二人は興味深げに駅舎を見て回っていた。

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インフォメーションと駅舎内の案内板。聞きたいことやわからないことがあれば、インフォメーションでスタッフに気軽に声をかけよう。駅舎のことはもちろん、浪江町のことも教えてくれる。
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内海&金子の「道の駅往訪時」の注目POINT10
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道の駅に向かう道中の町並み/駐車場に停まっている車のナンバー/全体の動線/什器の置き方、陳列物/インフォメーションコーナー/地元ならではの食事メニュー/路面店の有無/道の駅のスタンプや切符、カード/トイレの利用しやすさ、綺麗さ/オリジナル商品、体験エリアの有無
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内海&金子の『道の駅なみえ』の注目POINT10
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トイレが室内に。そして広く、明るい/敷地内にまちの巡回バスのバスストップやサイクルスタンド/主に町の人が使うパブリックな施設が充実/統一されたスタッフさんの服装が見つけやすく、話しかけやすい/オール電化・自家発電/WiFi完備、電子決済可能/天井が高く、ガラスが多用された開放的な空間/売れ筋TOP10の展示あり、POPがわかりやすい/ピクチャーレールがしっかりある展示エリア/無印良品が入っている

『道の駅なみえ』駅長・東山晴菜さんに内海さん、金子さんがインタビュー!

『フリーペーパー道の駅』ではまだ紹介していない『道の駅なみえ』。浪江町ならではの施設や取り組みを案内してもらいながら、町民や東山さんの思いを伺った。
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東山晴菜さん:『道の駅なみえ』駅長。京都府生まれ、滋賀県出身。東日本大震災後、福島県内で支援活動を行い、地域づくり支援専門員として浪江町へ。2020年に駅長に。

まちの人が誇れる、道の駅になりたい。

内海 『道の駅なみえ』はとても個性的ですね。
東山 どこが個性的でした?
内海 談話コーナーです。地元の方も観光客もゆったりできそう。
東山 「浪江に帰ってくるのはお墓参りのときぐらい」と避難されている方がおっしゃいます。「家も解体してしまったから、ゆっくり話せる場所がほしい」というお声を多くいただいたので設けました。体操教室を終えた女性たちのお茶飲みの場にもなっています。
金子 地元のみなさんの声を大切にされているのですね。
東山 道の駅を建てるときに、町内と避難先の数か所で10回ほど井戸端会議を開き、どんなものがあればうれしいか聞かせていただきました。みなさんが口を揃えておっしゃったのは、浪江にあったあるお店のコッペパンが食べたいと。それで、『まちのパン屋さん ほのか』を開き、そのお店のコッペパンの味を勉強して焼いています。
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町民の声から生まれた『まちのパン屋さん ほのか』。
内海 『いろどり産直 いなほ』の野菜もおいしそうです。
東山 浪江産の新鮮な野菜を食べてほしいという思いで販売していますが、居住人口が現在(2021年8月)は1717人というなか、開業当初は棚に野菜を充実させることが困難でした。それでも50軒ほどの方が登録し、丹精込めて育てた野菜や米、そして花などを持ってきてくださり、感謝しています。私たち自身が手がける自社農園もありますよ。
内海 充実する産直売り場こそ、復興のシンボルかもしれません。
東山 復興のシンボルって、まちの方が誇れるものがあることだと私は思っています。『鈴木酒造店』のお酒、大堀相馬焼の器、『柴栄水産』のお魚、もう一度浪江の土を耕して食べ物をつくろうと汗水流して育てられた産直の野菜、浪江の女性たちの手芸品「チクチク」。全町民が数年間も避難していた浪江がここまで変わってきたことを道の駅に来て知ってほしいです。避難先から通うスタッフもいますが、きっとまちとのつながりを保っていたいのでしょう。すべての商品を、町の誇りとして販売しています。
内海 福島の道の駅はすべて訪れたことがあるのですが、横のつながりが強いと感じました。
東山 東日本大震災があったからだと思います。プレオープンのとき、一部店舗の準備が遅れたのですが、「空っぽのままオープンさせるわけにはいかない」と、県内10か所ほどの道の駅が特産品の販売をしてくださいました。
内海 連携の力ですね。『道の駅なみえ』がオープンして1年が経ちましたが、駅長としてうれしい瞬間はどんなときですか?
東山 『いろどり産直 いなほ』に並ぶ浪江産の農産物を町民の方が手にしながら、「これ、○○さんがつくったトマトだ。頑張って野菜を育てているんだね」と、つくり手の顔を思い出している姿を目にすると、本当にうれしくなります。以前は知り合いだった町民同士も、町外へ避難をしているため顔を会わせる機会がめっきり少なくなってしまっていますが、農作物をはじめ、道の駅に並ぶさまざまな商品を通して町民の存在を感じとり、気持ちがつながる瞬間に出会えることが、駅長として一番うれしいことです。産直売り場だけでなく、『道の駅なみえ』のいろいろな場所で、地域の方々のつながりが生まれることを願っています。金子 今後はどんなことを計画されていますか?
東山 移動販売をやってみたいですね。やがて買い物が難しくなるお年寄りが増えると思うので、そんな方々に向けて産直の野菜やフードテラスのお弁当、日用品に日本酒など、商品を車に積んでまちを巡り、元気な顔を見ながら販売したいです。
金子・内海 新しい道の駅の役割かもしれませんね。そのときはぜひ取材させてください。
東山 ええ、喜んで。
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産直の野菜売り場。スタッフが段ボールで手づくりしたPOPに、「産直感があって、野菜や加工品への愛情を感じます」と内海さん。
『道の駅なみえ』
福島県双葉郡浪江町幾世橋知命寺60
https://michinoeki-namie.jp
photographs by Yusuke Abe text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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