先進的なAI技術・サービスを通じて、社会や産業の課題解決に挑戦する-。そのためには、さまざまな技術分野および産業分野に強みをもつ企業・団体同士が手を取り合い、“共創”を前提としたビジネスモデルが求められる。NTTPCコミュニケーションズ(以下、NTTPC)の「Innovation LAB」がなし得ようとするビジョンだ。同社が「Innovation LAB」を立ち上げた背景、狙い、今後の目標を、プロジェクトリーダーである庄司洋一郎氏に聞いた。
多彩なパートナーと“共創”する、AIコラボレーション。
先進的なAI技術・サービスを活用して社会や産業にイノベーションを-。そんな想いを抱く各分野の企業・団体が参加するAIコラボレーションプログラムが、NTTPCの「Innovation LAB」です。
最大の特長は、多彩なパートナーとのビジネス交流を通じて、共同開発・検証や共同マーケティングなどのコラボレーション活動を展開できること。2021年3月時点でパートナー加盟数は約40社。AI開発/コンサル事業者、メディア/マーケティング事業者、官庁/自治体、学術研究機関、メーカーなど、さまざまな領域で活動する多様なパートナーが参加し、その数は増え続けています。
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「Innovation LAB」のプロジェクトリーダーであるNTTPCの庄司洋一郎氏は、「パートナープログラムと聞いてイメージする一般的なパートナー制度とは異なり、固定のプログラムやコミットメントは存在しません。パートナー各社の参加目的に応じて取り組む活動はさまざまで、『Innovation LAB』を通じて“やりたいこと”は何か?について自由に意見交換しながら企画立案しています」と語ります。
例えば、技術分野なら新サービスの開発や概念実証(PoC)、ベンチマーク/検証など。マーケティング・プロモーションにおいては、共同イベント/セミナーの開催、メディアとのタイアップ企画などさまざまな取組み実績があります。
加えて、先進的なAIシステムを利用できるのもユニークな特長です。「Innovation LAB」では、研究開発やPoCの基盤として最新のGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)プラットフォームを無料で利用することができます。
「NTTPCは、第3次AIブームのきっかけとなったディープラーニング隆盛当時から、GPUプラットフォーマーとして学術研究機関やAIスタートアップ、一般企業などへ多くの提供実績とナレッジを積み重ねてきました。その当社の都内データセンターに、『Innovation LAB』専用のGPU環境を構築しており、学習や推論、ビジュアライズなど、さまざまな演算用途に適したGPUリソースをパートナーの皆さまに無料で提供しています。よく最初は驚かれますが、少しでもパートナーの皆さまの研究開発や共創活動の基盤として利活用いただければ、という思いです」と庄司氏は続けます。
このGPUプラットフォームを活用し、すでに多くのパートナー企業が効果を上げています。
例えば研究開発分野では、株式会社Archaicが新型コロナウイルス感染防止に向けたソーシャルディスタンスAIや健康モニタリングAIを、音×AIのスペシャリストである株式会社Hmcommが異音検知プラットフォーム「FAST-D」を、画像処理AI技術に強みをもつ株式会社モルフォが画像領域分割&レタッチ技術「Morpho Semantic Filtering」を、といった具合に続々と新たなサービスを開発・リリースしています。また、他にも数多くのパートナー企業が、音声解析や物体検出、自然言語処理、異常検知、エッジ処理など、さまざまな技術領域において研究開発を推進しています。
マーケティング/プロモーション分野の活動も活発です。パートナー企業とAI導入側である一般企業が一堂に会したミートアップイベントや共催セミナーをはじめ、オンラインメディアへのタイアップ記事掲載、慶応義塾大学の「AI・高度プログラミングコンソーシアム」における学生向けイベントなど、年間を通じてさまざまな取組みが実施されました。
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新たなチャレンジを受け入れる社風がプロジェクト推進を後押し ~パートナーシップで日本の社会・産業イノベーションに貢献~
「Innovation LAB」という新たな取り組みは、周囲の理解と協力が大きな推進力になったと庄司氏は振り返ります。「費用対効果のような分かりやすい指標で評価できる取組みではないため、企画当初は理解が得られるか不安でした。しかし、上司はもとより、関連部署のスタッフや経営陣に至るまで、このプロジェクトの目的や意義を理解し、共にゼロから立ち上げてくれました」(庄司氏)と言います。
幅広い産官学パートナーとの「ヒト・モノ・コト」のコラボレーションを通じて、新たな価値ビジネスを“共創”する―。「Innovation LAB」が掲げるこのコンセプトのもと、今後のさらなる展開にも意欲的です。「優れた技術やビジネスアイデアをもつ企業とのパートナーシップをさらに発展し、日本の社会・産業におけるAI実装を後押しできるようなコミュニティを形成したいと考えています」と庄司氏は語ります。
NTTPCでは2021年1月に、大分県および公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所と、GPUの利用促進を目的とした三者協定を締結しました。これに先駆け、ハイパーネットワーク社会研究所が「おおいたAIテクノロジーセンター」の設立を宣言し、GPU最大手のNVIDIAをテクノロジースポンサーとしたGPU活用促進の取組みを開始している経緯があります。
「GPUプラットフォームを活用して、大分県の地場産業におけるDX促進を支援するのが目的です。地方は人手不足や高齢化などの課題が深刻化しており、あらゆる産業でAIによる省人化や無人化、技術承継が必要不可欠な要素となっています。『Innovation LAB』ではGPUの提供はもちろん、パートナー各社によるAI技術も大きな強みになると考えていますので、まずは大分県での取り組みを通じて地域貢献のモデルケースを作れればと思います」と庄司氏は意気込みます。
SDGsの観点からも、技術革新やパートナーシップは重要なアジェンダのひとつ。市場で競合他社と争うのではなく、それぞれの強みを融合しながら、企業単独では成しえない自由で豊かなビジネスモデルを目指す-。“共創”がコンセプトの「Innovation LAB」の今後にますます注目です。