餃子と言えば、東京2020オリンピックの選手村で海外アスリートに好評を博したという話題が記憶に新しい。世界に日本の餃子の魅力が伝播するなか、メッカ・宇都宮と首都・東京の界隈で、新しい餃子のムーヴメントが……。企画・開発を担当したみなさんに、その内容を詳しく聞いてきた。
目指すは年商1億円。 新聞社が餃子を販売するワケ。
インターネットで「東スポ餃子」を検索してみると、『業務用おかず・食品通販ギョームー』という通販サイトから、東スポ餃子が食べられる飲食店の案内を発見。東京ではおもに渋谷の居酒屋で、栃木県では『牛一頭うしわか丸』(居酒屋)のほか『福田屋百貨店(FKD宇都宮店・FKDインターパーク店)』や『だいまるストアー双葉店』などで中食用として購入できる。東京・渋谷のセンター街にある『渋谷肉横丁』では、品切れになるほど人気で、売れ行きも好調と聞く。そこで今回、人気の秘訣と企画のきっかけを探りに、東スポと卸売会社『大和フーズ株式会社』へ取材を試みた。
「ニンニクマシマシ」でつくる、 愉しい時間を彩る東スポらしい餃子。
東スポのネタを楽しむなら、 ビール片手に餃子が一番。
佐藤さん(以下、佐藤) うちの編集局長・平鍋の閃きです。
S 閃き、ですか?
佐藤 はい(笑)。東スポっていわゆる、エキサイティングな行動をして、忖度なしの独自路線の報道をしている新聞なんですけど、このコロナ渦と新聞不況っていわれている中で、紙面展開だけで東スポらしさを出すにはなかなか限界も出てきています。会社の動きとして意外性のある、独自の新業態を打ち出すにはどうすればいいかなって考えていたとき、「食だ!」となったんです。昨年から続くコロナの影響で飲食業界は深刻なダメージを受けていますよね。そこで国産の食材にこだわった東スポらしい"食"を企画し、プロデュースすることを思いつきました。
S なるほど。でも数ある食品の中で、なぜ餃子だったんですか?
佐藤 東スポらしい食とはなんぞや? と考えたときに、やっぱり、東スポを読みながら酒を飲む、酒を飲みながらつまむ。となると、「餃子にビールだ!」と(笑)。東スポはいわゆる娯楽紙なので。ガヤガヤとした飲食店で、東スポの独自性のある記事をネタに「ああでもない、こうでもない」と盛り上がってもらいたい。そのイメージにぴったりハマるのが餃子だったんです。
国産の素材にこだわった、おいしい餃子をプロデュース。
佐藤 そうです。コロナの影響で首都圏の飲食店はアルコールの提供ができなくなるなど、娯楽にも制限がかかりました。サラリーマンにとって仕事帰りの楽しみだった「のれんをくぐってちょっと一杯」もできない状況が続きましたよね。餃子は読者に元気になってほしいというアピールでもあります。だから、ただの餃子じゃない「ニンニクマシマシ」です。にんにくは言わずと知れた滋養強壮食材ですから。
S そうですか(笑)。納得しました。ほかにも何かこだわりが?
佐藤 東スポならではの要素として普通っぽくない意外性、独自性は必要でしたけど、それだけじゃなくて、おいしさも伴っていないといけません。製造をお願いすることになったのは餃子のメッカ・宇都宮にある『大和フーズ株式会社』です。国産の食材を使い、地域密着型で堅実な商売をされている大和フーズさんなら、おいしい餃子をつくってくれると思いました。味については、いくつか試作品をつくっていただき模索しました。結果、「これが東スポ餃子だ!」と胸を張れるものに仕上がっています。
本場・宇都宮の企業が生んだ旨い餃子。 手づくり以上においしい餃子を届けたい。
苦境の飲食業界を救うため、 本気で企画した旨い餃子。
そうするうちに認知度が上がり、9月の後半には1日に300もの注文が入るなど、順調に売れ始めたという。人気に火がついた理由については「味が確かだから」と胸を張る佐藤さん。そして、こう話してくれた。
「最初はほとんどの人が『東スポが餃子?』と不思議そうな顔をします。何かの冗談かと思うみたいですが(笑)、本気でやってます。その証拠に、実際に食べた人から『東スポ餃子おいしいね』に見方が変わっていくんです」。
実際、「東スポ餃子を出したい」と飲食店からのオファーが増えてきているという。今後は自動販売機での販路拡大も検討しているそうで、目標に掲げている「餃子で年商1億」という話も、夢ではない状況まで来ているのだとか。
緊急事態宣言が解除されてから約2か月が経ち、日本各地の飲食店も日常を取り戻しつつある。東スポ餃子は、このあいだまで閑古鳥が鳴いていた飲食店に、たくさんの消費者を呼び戻すカンフル剤として大きな期待も背負う。
冷凍食品の可能性にかけて、 試行錯誤した歴史は50年。
宇都宮駅に着き外に出ると、駅前には餃子の皮に包まれたビーナス像。街を歩けば、あちらこちらに餃子専門店が軒を連ね、さすがはメッカの趣だ。
駅前から車を走らせ大和フーズ本社前に到着すると、迎えてくれたのは取締役社長の江俣正美さんや取締役会長の横井浩一さんほか、笑顔が素敵なスタッフの方々。早速、おいしい東スポ餃子をごちそうになりつつ、お話を聞かせていただいた。
江俣さん(以下、江俣) 今から50年ほど前、先代が食品の卸問屋として創業しました。そこで、当時はまだあまり出回っていなかった冷凍食品の可能性に目をつけて「これからは冷凍食品がもっと増える」と予想したんです。でも、今でこそ冷凍車ができて配送も便利になりましたが、当時は何もない状態。冷凍食品って冬はいいけど、夏場の扱いが難しく、氷を添えて解けないようにしたり新しい設備をつくったりと工夫を重ねてきました。しかも、昔は「冷凍食品はマズイ」っていうのが定説。今は手づくりに負けない冷凍食品がたくさんあります。これは先代の読みが当たったということでしょう。
S 東スポさんとタイアップすることになったきっかけは?
江俣 東スポさんからお声掛けいただいたんです。今の時代、卸問屋業だけで生き残っていくのは正直大変で、私たちも時代に合った商売の形を模索していました。これまではNB(ナショナルブランド)品をおもに販売していたんですが、これからはPB(プライベートブランド)品もつくり小売りもしていこうと。じゃあ「どんなものをつくる?」となったときに、「せっかく宇都宮なんだから、おいしい餃子をつくろうじゃない」って。今年のはじめから切磋琢磨をして、自社ブランドの餃子を6種類つくり上げました。それが4月のことです。『ギョームー』という自社サイトを立ち上げて販売を開始しましたが、何しろ我々は問屋業なので宣伝の仕方が分からない。そんなとき、東スポさんと出合ったんです。
試行錯誤を重ねてできた "絶品"冷凍餃子。 青森産にんにくは、 3倍増しがぴったり。
東スポのイメージに合う、 パンチの利いた餃子を開発。
江俣 自社ブランドの餃子のうちのひとつ、「青森もりもり餃子」をベースに、東スポさんの企画に合った餃子を新しく開発しました。東スポさんのイメージとしては、ユニークで不思議な感じですよね。だから味はパンチがあって調味料のビリビリ感もあるものにしようと考えたんです。そこで調味料を調整しながらにんにくの量を増やして、2倍、3倍、4倍、5倍……と試作品をつくりました。すると、3倍が一番味が尖ったんですね。青森県産のにんにくは中国産の辛みが強いにんにくと違って、甘みがあってまろやかです。量が多ければパンチが出るというものではなくて、多すぎると旨みが強くなってまろやかになります。しかも、青森県産のにんにくは高価で、中国産にんにくの5倍のお値段です。入れすぎると値段が高くなってしまいます。味やコスト面、すべてを踏まえて東スポさんと相談し、「3倍だ、にんにくは3倍でいこう!」と決めました。ちなみに野菜も肉も、純国産にこだわっています。素材によって味が全く変わりますからね。ニラは栃木県鹿沼産を使っているのも特徴です。鹿沼産のニラは日本一おいしいと思っていますから。
S インターネットで買えるのは業務用の50個入りという大容量ですが、この辺もコストを下げるためですか?
江俣 そのとおりです。クール便で配送するにはその分、送料が高くなります。だから量を増やすことでお求めやすい値段設定にしています。素材がいいとどうしてもコストがかかるから、この辺りはもう闘いですね。今の値段を実現しているのは企業努力です。
東スポ餃子の おいしさの“秘訣”を 教えてくれた人
宇都宮市出身。大和フーズの社名の由来となった社是「和を持って大を成す」の精神を大切に、時代を見据えた新しい試みに果敢にチャレンジしている。