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サスティナビリティ

連載 | 未来型土着文化

立ち返る場所を持つこと

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目次

芸術の発生と山伏の文化。

 はじめまして。坂本大三郎です。僕は「山伏文化」に関心を持って、山形県にある月山のふもとの西川町に住んでいます。ブナの森に囲まれた自然豊かな場所です。生まれ育ちは千葉県の千葉市。青年期に東京で現代美術のギャラリーのスタッフをしてイラストやデザインの仕事をしていました。僕は幼い頃に小児喘息だったので、体調が悪い日には外で遊ぶことができず、家の中で絵を描くことが好きでした。そんな中でぼんやりと「なぜ人間は芸術活動を行うのだろう」という思いを持つようになりました。

 30歳になったとき、東北の出羽三山には現在でも山伏がいて、誰でも修行に参加ができるという話を聞き、好奇心から修行に参加してみることにしました。山伏の修行は他言禁制の掟によって、その内容を語ることができません。しかし、その古めかしい文化に触れて、おもしろいと感じました。東京に戻ってからは、自分がなぜおもしろいと感じたのか、理由を解明したくて、いろいろな文献を読み、大学の先生や研究者を訪ねて話を聞くなどして、おぼろげに分かってきたことは、山伏が日本文化の中で、芸術の発生や発展に深く関わりがある存在であったということでした。ずっと自分が抱いていた、「なぜ、人間は芸術活動を行うのだろう」という疑問と山伏が共鳴するように思えて、僕は山伏文化により関心を深めたのでした。

ヒジリとは日を知る人。

 山伏のことを古くは「ヒジリ」と呼んだそうです。ヒジリとは「聖」ではなく、もともと「日知り」という意味合いがあったのだと、民俗学者の柳田国男をはじめ多くの研究者は述べています。日知りとは、天体の運行を象徴する「日」を「知る」ということ。つまり暦を知っている者のことで、原始的な農耕技術を持つようになった共同体の中では、いつ種を蒔くのか、いつ収穫するのか、暦によって取り決められ、その際には祭りが行われました。それらを担ったのがヒジリだったのです。共同体の発展とともに、ヒジリの中から豪族となるものもあらわれ、反対に民衆のなかに紛れていくヒジリもありました。その末裔のひとつが山伏でした。

 山伏やヒジリの中には、定住せずに各地を放浪する人たちもいました。鎌倉幕府から逃げる源義経が登場する能楽の『安宅』や歌舞伎の『勧進帳』という物語があります。義経一行は山伏姿になって北へ逃れようとするのですが、山伏が俗権力に縛られない神仏の民と考えられ関所を自由に通行できたために、義経一行は山伏の格好をしていたのでした。作中で弁慶は関所の役人をくために「自分たちは東大寺を再建する費用を集める旅をしている」と述べています。山伏やヒジリは大きな寺や神社などに勝手に集まり、そこに住み着くことがありました。そして寺社の施設が壊れたり、橋などのインフラを整備する資金が必要になれば各地を放浪して民衆の前で費用を出してくれるように話をしたのです。それを「勧進」といいました。出羽三山の周辺では羽黒山で行われる年越しの松例祭の費用を集めるため「松の勧進」として今でも年末に山伏が村々をまわっています。

 もちろん民のほうもただではお金を出してくれません。山伏やヒジリは、その寺社がいかに霊験あらたかであるかを語り、さらに関心を集めるためにおもしろおかしい物語仕立ての話をするようになりました。それが「説教節」という芸能となっていきます。やがて説教節は祭文語り、浪曲、講談、落語などに影響を与えていきます。季節の変わり目に家々をまわり祝福する門付け芸を行う者もあり、法螺貝を携えた山伏によるデロレン祭文や、主に盲目の女性が三味線語りをする、その瞽女に影響されて誕生したとされる津軽三味線などがありました。浪曲師からは村田英雄や三波春夫のような昭和歌謡曲の歌手が生まれ、ミュージシャンの宇多田ヒカルは浪曲師の祖父と三味線語りの瞽女を祖母に持つと、雑誌の対談の中で述べています。

 これは山伏やヒジリが関わり、現在までつながりがある文化の一例です。芸術の始まりに関心を持って山伏に惹かれ、その文化に足を踏み入れて15年が経ちましたが、こうした文化の成り立ちを見ていくことで、混乱するほど情報に溢れた現在の社会を把握しやすくなるのではないかとも考えるようになりました。やはり自分の身の回りのことや、社会を見渡す時に自分が立ち返る場所を持つということが大切ではないかと僕は思います。それが僕にとっては山伏の文化だったのです。

 これから僕が山とまちを行き来する中で経験してきたこと、そこで出合った古い由来をもつ文化を紹介していきたいと思います。しばらくの時間、おつき合いいただければうれしいです。

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