2019年11月号の「ソトコト」アムステルダム特集をきっかけにタッグを組んだ、現地に暮らす桑原姉妹、「ソトコト」本誌でも活動する乾祐綺による『チーム・アムス(勝手に命名)』の新連載。初回はコロナによって激変したアムステルダムの様子を中心に、今後はサスティナブルを身近な感じられる日蘭双方のトピックを紹介します。
コロナで変わった暮らし。
桑原真理子(以下、真理子) 人生がつまらない! コロナで!(笑)
桑原果林(以下、果林) 2022年までつまらなそう!
乾 オランダは今どんな感じなんですか?
果林 絶賛ロックダウン中(2020年12月30日現在)! まあ、部分的なロックダウンではあるけど、飲食店は全部閉まってて。映画館、ミュージアム、図書館も閉まってる。お客さんは、2人までしか家に呼べない。外を歩くのも2人まで。あ、家族は除きます。
乾 ロックダウンは、以前にもありました?
果林 3月から5月にかけてもあって、今回で2回目。今、すっごく天気いいけど、自粛モードだから。夏は外で集まれたんだけどね。ピクニックしたりして楽しかったなあ。
真理子 人に会わなくなりました。こっちは全然GoToじゃない。私もGoToしたいー!
乾 日本も感染の第三波が来ていて、GoToがストップしています……。えーと、仕事のほうはどうですか?
果林 私は翻訳なので、割と外に行かなくてもできる仕事なので、今は戻ってきてる感じ。まあ、3、4、5月は相当ヒマでしたね。
真理子 壊滅状態。撃沈(笑)。私は人と関わってやりたいアートプロジェクトだから、このコロナはちょっと難しい…。オンラインで関わりたいわけではないので、そういうアプローチのアーティストもいるけど、私は、そんな感じじゃないからなあ。コロナに関して考えたくもなかったのでジムで筋トレ始めました!
乾 そういう人、日本でもいた(笑)。だいぶムキムキになったんじゃないですか!?
真理子 いや、実は一回しかやっていなかったうえにジムも閉まってそれっきり(苦笑)。
コロナが引き起こした社会問題.
果林 乾さんの仕事はどうですか?
乾 5月まではほぼ無職。家のリノベーションしてました(笑)。7月くらいから徐々に戻ってきて、9月くらいから元の仕事量に戻ってきている感じでしょうか。そうそう、部分ロックダウンが始まったということは、オランダでもコロナ感染者が増えているんですか?
果林 この間まで1日1万人以上だったんです…。ロックダウンになって、1日4000人まで下がったんですけど。
乾 え、そうなんですか! オランダって人口が……約1700万人! ヨーロッパ、たいへん!
真理子 病院がこっちはパンク状態なので。なので、部分ロックダウン。
果林 もともとベッド数が少ないんです。
真理子 効率化の国だから、在宅医療が基本なんです。ベッド数も限界まで抑えていて。でも、ドイツが病人を受け入れてくれたり、周りの国とそういう協力をして乗り越えてますね。
乾 さすがEUですね。
真理子 でも、1回目のロックダウンのとき、多くの国が国境を締め出して、独自の政策を行ったんです。医療機器をそれぞれが国が買い占めて、「そんな感じだったんだヨーロッパ!?」って、愕然としました。でも、今回のロックダウンでは国境を締めることはやめようってなって(やってるところもあるけど)、EUでワクチンをまとめて購入したり、やっぱり協調しながら全体でやったほうが効率的だよねってなってます。
乾 そんな流れがあったんですね。もともとEUの設立は、不戦と経済力の強化、ということが目的としてあったと思うんですけど(ウィキ調べ)、それは言うなればSDGs的発想。今回のコロナでも、揺れながらもEUのよさを発揮できたというわけなんですね。
真理子 環境への関心を抱く人は、前以上に増えたかもしれないですね。今回のウイルスも、本来では出会うことのない、未開の地のウイルス。そういうウイルスが今後も出てくる可能性はあるし、「環境をもっとよくしないと!」って感じているヨーロッパの人は、私の周りにも多いように思えます。
乾 人間が自然を開発してしまったが故に、厄災に出会ってしまったって話は、日本でも聞いたことがあります。
果林 温暖化も感じる。今までの感覚なら、11月は寒くてコートは必須。でも最近は全然あったかいからコートを着る必要がない。13℃から18℃の日もある。ありえない。うれしいですけど(笑)。
乾 オランダをはじめヨーロッパの冬は寒くて、それさえなければ、って話をよく聞きます。最近はそうでもないんですね。
真理子 ロックダウンに加えて、さらに暗くて寒かったら「みんな鬱になっちゃうんじゃないの?」って思ってました(笑)。だから、今年は暖かくてよかったなって。それにコロナ、コロナという状況だから、緊急を要する人は治療を受けれるけど、そうでもない人は治療のウエイティングリスト入り。これでストレスを抱える人もたくさんいるんじゃないかな。
果林 ストレスで言えば、自粛でみんな家にいるから、こっちでも家庭内暴力が増えているというニュースもあります。富裕層だと家が広いからいいけど、狭いアパートで何人もっていう、いわゆる貧困家庭は深刻みたい。仕事がなくなってストレスを抱えてお酒を飲んで子どもに暴力、ってケースが多いみたい。
乾 日本でもそういうニュースありました。
真理子 そうそう、日本では「コンスピラシーセオリー」ってありましたか?
乾 なんですか、それ?
真理子 “コロナウイルスは人によって開発されたもので、本当の目的は人類にチップを埋め込んで管理したかったから”とか、“携帯の5Gがコロナを発症させた”みたいな(笑)。
乾 あー、陰謀論的なやつですね。
真理子 もともとコンスピラシーセオリーにハマっていた人が、コロナでさらにハマって、そういうのが社会を分断していることも大きな問題だと思ったりもしますねー。
コロナ後の変化、コロナ後のSDGS
乾 えーと、ここまででめちゃおもろいんですけど、ちょっと趣旨を整理します(笑)。このコンテンツは、もともと去年のオランダ取材をきっかけに、「アムステルダムのSDGsやサーキュラーエコノミーっていいよね!」「今を伝えたいよね!」ってことで始まったものです。当初は、アムステルダムの進んだ社会システムや企業の取り組みなんかを紹介していこうとか考えていましたけど、まさかコロナがここまで世界を変えると思わなかったので、まずは、そのあたりから聞いていきたいです。
たとえば今、日本では「テレワーク移住」みたいな言葉が一部で盛り上がっています。企業に勤めつつ、自宅作業だったら地方でよくない? みたいな流れ。
果林 コロナによって変わったこと。個人単位でいったら、人とのつながり。友人、知人に会う機会がだいぶ減って。でも、そのぶん、家族で過ごす時間がすごく多くなった。私自身、外に出かける仕事がないし、私のパートナーもシェフだから、飲食店が閉まっているから家にいる。だから毎日一緒。デイケアは閉まっていないので、週3で子どもは通っているけど、家族という単位で、今すごく充実しているというか。今後、こんなに一緒にいられるのって絶対ないんだろうなあって思うくらい。だから、これはこれで大事にしようって。仕事は、さっき言ったように、戻ってきているので、私はいいバランスかな。
あとは、どうせ暇だから、免許をとろうと教習に通い始めたり。割と、充実してますね。
乾 家庭の時間の充実。うん、それは日本も同じかも。まりこさんは?
真理子 私は、まさに別れたんです、去年の年末に16年付き合ってたパートナーと。だから「今年はフィーバー!」って思っていたけど(笑)。それがコロナで全部だめ…。彼と別れたのは、私は安定に興味がなかったから。すごくいいパートナーだったんだけど、つまんないなって。私は、もっとリスクテイキングなライフにしたいなって思っていた。いつ死んでもいい、マックスで生きていきたい、そういうポリシーの中、コロナで「あんたが出かけて誰かが感染したらどうするの? それはとてもエゴイスティックな考え方」って言われて、自分が思うような生き方ができなくなった感じがあります。
乾 日本では割と当たり前な指摘かもです。
真理子 オランダはみんな、マスクなんかつける習慣ないし、「なんでつけるの?」みたいな感じだったのが、みんな“マスクポリス”みたいになりました。お店でマスクしてないと、ジロって見られたり。
私は自分ですべき選択を他人に委ねたくないって考え方。だから「お前がやんないとみんなに迷惑かけるんだ!」みたいな風潮になって、「あれ、オランダの社会ってこんなんだったっけ?」って嫌気を感じたのと同時に、実際ウイルスを感染させてしまう可能性があるから、私にとっても大きなジレンマ。
美術館とか公共施設ではマスクつけないといけないから、私はあまり出かけなくなりました。個人の自由を制限するルールに抵抗を感じる反面、必然的にルールを守っているっていう、そういう生活。で、ちょっとクリティカルな意見を言うと、「なんだこいつは?」みたいに言われるのが嫌でしたね(笑)。
乾 意外! オランダって、寛容とか自由の国だと思ってました。
果林 日本はどんな感じだったんですか?
乾 日本も「自粛警察」って言葉が話題になったみたいに、自粛していないと怒る人がいっぱいいました。マスクつけてなかったら、変な目で見られますし。まあ、結構、想像の延長線上。
今はまさに第三波で増加傾向だけど、これまで日本は、感染者数や死亡者数も低く抑えられたりで、経済も動いているので、これからの働き方をどうする、とか、そっちに動いているように思います。東京の一極集中の問題も抱えている中で、コロナを機に移住、みたいな流れが最近ちょっとあります。
真理子 オランダでは一時的に在宅が流行ったけど、おそらく、週2くらいは出社する形に戻るんじゃないかな? 完全な在宅勤務にはならないでしょうって言われてますね。
乾 日本ではテレワーク移住の流れは確実にあります。行政によっては、それで移住者を呼び込もうというところもありますし。でも、大手企業に勤める友人に聞くと、2020年春採用の新入社員と秋になって初めて会ったそう。で、既存社員とのコミュニケーションはもちろん、社内のネットワークづくりなんかはやっぱり難しそうに感じたみたいで、テレワークはいいけど、リアルに会うのは絶対必要って言っていました。
果林 やっぱり、人と接しないとおかしくなっちゃうものじゃない? 人間ってソーシャルな生き物だから。
真理子 あと、コロナで変わったのが、観光客がまったくいなくなっちゃったこと!
乾 アムステルダムは観光被害、「オーバーツーリズム」が問題になってましたよね?
真理子 それがアムステルダムはじめ、ヨーロッパは一気にコロナで解決した!(笑)
乾 でも、観光客がまったくいなくなってしまったら、それはそれで観光事業者とか大変そう。日本も観光や飲食業の倒産を防ぐためという意味もあってGoToをやっているし。
真理子 これをチャンスと捉えて、受け入れる観光客の数を制限しようという動きがあるみたいですね、アムステルダムは。危機だけどチャンス。周辺都市で建設されていたホテルは、必然的になくなるだろうし、中心部の民泊も今は禁止で、多分このままなくなるだろうと言われています。観光について、2021年から回復する見通しを行政は立てているけど、今後は会議に出席するビジネスパーソンなど、従来とは異なる観光客を呼び込むことを積極的にやっていくみたい。
果林 街も空もきれいになっているし、ゴミも少なくなっている。コロナになって、自粛期間中に一人でプラスチック回収をしていたんだけど、最近も公園にさえゴミが落ちてない! ピクニックする人もいなくなったからかな。
かなり経済活動が減っているので、自然にサスティナブルにつながっているというか。でも、おうちには宅配のプラスチックゴミがものすごい増えている…。
乾 コロナになって、自然とサスティナブルに!(笑) でも、観光系の事業者はやっぱり心配…。
真理子 ですねー。例えばミュージアムは、もともと運営費の大部分を補助金で回していたのが、近年の政策として入場料でまかないなさいって転換をしていました。だから、コロナは大打撃。今は、コロナによる政府の補助金でかろうじて運営できていると聞きます。カルチャーには結構影響してますね。音楽系はフェスもできないし、クラブも営業できない…。
日本の機運と、アムステルダムのSDGs
乾 一昨年、SDGsやサーキュラーエコノミー、プレイスメイキングなどをテーマに、アムステルダムを取材しました。コロナを機に、そのあたりの機運はなにか変わりましたか?
僕の印象ですが、日本は今、SDGsに舵を切っている感じはあります。
真理子 今は市民の購買力も高くないから、企業も「サスティナブルにしたいね」って気持ちはあるけど、大企業はできても、中小は難しいかもしれないですね。
ローカルの新聞によれば、コロナによって、固定資産税、ゴミ税などの税率を一気に引き上げる予定みたい。アムステルダムは2020年の観光税の税収を2億ユーロ見込んでいたけど、5000万ユーロにとどまる見通しで、今年の行政の赤字は1.98億ユーロになるってありました…。
乾 なんだか、アムステルダムのサスティナブル界隈に微妙な空気が…。
果林 とはいえ、サスティナブルや環境への感覚は、特にアムステルダムではもともと一般に浸透しています。だから今は、それを実行するための人手や資金の問題なんじゃないかなって。
真理子 私も、はっきり言ってお金があんまりないから、そんなんだったらサスティナブルとか言ってらんないし、安いもの買いますもん。余裕がなかったら、ね。
乾 ここまででめっちゃおもろいです。一方で、今後この企画、サスティナブルやサーキューラーエコノミーをテーマとして続けていくのは可能なのか? という一抹の不安も出てきました!(笑)
果林 どうだろう?(笑)
真理子 アムステルダムをはじめ、ヨーロッパはコロナで一変。「これからどういう社会になってしまうんだろう」って。でも、“危機はチャンス”だから、こういう状況の中で、すごく革新的なものも生み出しそうに思う!
果林 まあ、今後は乞うご期待って感じですね!(笑)
乾 は、はい…。
終わりに。
初回はコロナ禍のアムステルダムの暮らしや様子を中心に。最後、微妙な空気になりましたが…(汗)。次回以降は、生活者視点で見たオランダと日本の身近なサスティナブルなアイデアや事例などを紹介していく予定です!
桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。