先鋭的なフランスのカルチャー誌『Purple』を創刊したエレン・フライスが2001年から2005年までの日々を綴った『エレンの日記』を読んでいる。彼女が1990年代初めに創刊した『Purple』という雑誌はそれまでの価値観や流れていた空気を一変させた。たとえばまだ無名に近かったマルタン・マルジェラを発見し、現代美術とともにそのコレクションを展示したのは彼女だし、決してトレンドに流されることなく等身大のアートやファッションを類いまれな編集センスでわれわれの前に提示して見せた。それは当時主流であったハイファッションやハイブロウなアートとは異なる、文字どおりオルタナティブ(もうひとつの)なカルチャーの到来を告げていた。
彼女の日記はまさしく、あの2000年代前半に類いまれな感覚を持つ編集者が何を考え、どんなことに夢中になっていて、何に苛立ち、何を愛したのか。そのすべてが押し返す波のようにぼくの眼前に現れ、ひとつの時代が明確に浮かび上がる。商業主義と次々に消費されていく流行のなかで“ひとりジャンヌ・ダルク”のように毅然と立ち、いわゆるインディペンデントであること、流されないじぶんの価値観を持つことを教えてくれたエレン。彼女はいま、どこで何を見て、何に苛立っているのか。
『エレンの日記』
著者: エレン・フライス 出版社: アダチ・プレス