ソーシャルでエシカルな関心をもつ人を惹きつける、街の中に広がる学びの場「ソーシャル系大学」。今回は、千葉県船橋市の市民大学「船橋みらい大学」を訪問した。この大学を主催するNPO法人『情報ステーション』は、街のあちこちにスペースを借りて民間図書館を運営しながらまちづくりにかかわる団体である。発足して12年。代表の岡直樹さんをはじめとするスタッフの地道な活動により、本好きな人が集まる地域のハブとして知られている。今回は、古書店『バリューブックス』のファンドレイザー・廣瀬聡さんの授業を見学した。
ハイコンテクストな会話が行き交う空間で、本について考える。
9月のある水曜日の夜。JR船橋駅から徒歩5分。駅前の商店街が住宅地に変わる境目あたりにある小さな会場が、明るく浮かび上がっている。天井まである本棚に囲まれた『船橋北口みらい図書館』に、仕事帰りの人々が集まってきた。図書館勤務の人、絵本に関わるボランティア活動を続けてきた人、書店の関係者など、いずれも本に深く関わってきた人たちだ。今回で10回目となる「本と働く人々」シリーズの「本と社会の未来」という授業である。
講師の廣瀬さんは大学卒業後、メーカーに勤務ののち、東京大学で寄付事業に携わり、2011年からは新感覚の古書店『バリューブックス』に勤務している。『バリューブックス』は「本を通して、人の生活を豊かにする」をモットーに活動する株式会社で、2010年から古本を用いた新しい寄付の仕組みを導入した。古本を寄付金に替え、社会活動を支援する「チャリボン」である。5冊以上は送料無料のサービスもあり、今では黙っていても本が集まってくるプロジェクトに育っている。『バリューブックス』では、集まってきた本を査定し、買い取り相当額を各団体に寄付をする。買い取られた古本は通常の販売網に載せられるので、古本もまたその本を必要とする人たちに届けられる。廣瀬さんはこれをウィンウィンの上をいく「三方よし」だと解説する。
この10年間を振り返ると、全国の書店数は減少し続け、新刊の書籍市場も縮小している。悲観的な未来ばかりが取りざたされるが、しかし、と廣瀬さんは言う。本を介したコミュニケーションが、書店でもカフェでも図書館でもこれだけ模索された時代はない。このことにもっと楽観的になれるのではないか、と。トークショーや読書会は、話し言葉を介したリアルなコミュニティが、じつはすでに立ち上がっている兆しではないか、と。
公立図書館の資金調達、大学図書館のこれから、行政と書店の関係、物流ネットワークの重要さなど、ハイコンテクストな会話が行き交う空間で、本について考えながら、私たちはいつの間にか未来の社会を語り合っていた。
船橋みらい大学
HP:http://funabashi.future-u.net