ジロが案内するマニアック熱海。
今回紹介するリトルプレスは『ジロの馬車でVIP熱海観光』。フランス少女ジロが特製馬車で熱海の街を走り回りながら、楽しい、楽しい超マニアックな熱海のスポットを紹介するという設定のリトルプレス。
手描きなのか、意図しているのかいないのか、中途半端に位置や大きさがずれているタイトル。ソリなのか、馬車なのかよくわからない乗り物に腰掛けている少女ジロ。
どうやら、馬車のボディは温泉まんじゅう、その上には精巧に再現された、なんとなく50分の1スケールの熱海城。寄りかかる人魚のようなものは『秘宝館』の女神。熱海城の屋根にはかっぱえびせんが仕込まれていて、それにつられて熱海市の市の鳥・カモメが周りを飛んでいるらしい。
この馬車の乗車場所は、観光客で混雑している平和通りの中。ジロ曰く、「だって駅前で乗せたら商店街を通らずに海に行っちゃうでしょ?お土産やら温泉まんじゅうを楽しんで欲しいのね、そして(後略)」。
ページの背景には、懐かしい遊技場の壁紙。続くジロの悲しい小話のページは、「あと5分」の看板を入れた夜景が背景。
「お宮の松までお願いします…」のリクエストを無視して、まず訪れる場所は「サンビーチ伯爵(著者による命名)」。『中華壹番』で臨時停車(腹ごしらえ)あり。
ジロが熱海で、免罪符とも、夏への早割り切符ともいう「サンビーチ伯爵」に水をかけて本当の観光が始まる。
熱海市の姉妹都市でもあるジロの母の故郷・サンレモにちなんだ、遊覧船・サンレモ号に乗り込み、カモメと戯れる。糸川でブーゲンビリアが満開なので記念撮影と「妄想買い物タイム」。『caffè bar QUARTO』では、パニーニでランチ。
焼き鳥屋で、ワンランク上の花火の楽しみ方を伝授され、ジロ憧れの老舗ゴージャスホテル『ニューアカオ』を巡り、曲線階段や化粧室の案内プレート、タイル張りの壁と手すり、豪華なシャンデリアや、風景のように見える不思議な大理石。
帰りはなぜかタクシーになって、看板建築とアールデコと和風建築が交じった不思議な建物(タクシー乗り場)に案内される。
著者のおくがわじゅんいちさんが、熱海のレトロでキュートな不思議な魅力を、ジロの視点で集めて収めた一冊。大島亜佐子さんのイラストともに、熱海を旅してもらいたい。
今月のおすすめリトルプレス
『ジロの馬車でVIP熱海観光』
製作:「ジロの馬車でVIP熱海観光」
実行委員会
企画編集・写真・文・デザイン:
おくがわじゅんいち
ジロのイラスト:大島亜佐子
2018年10月発行、149×210ミリ(36ページ)、756円
『ジロの馬車でVIP熱海観光』著者から一言
温泉観光地という枠をはみ出たアメイジングな側面をもつ熱海がおもしろ過ぎて、姉妹都市のサンレモから何も知らぬままやって来た謎のフランス系少女ジロ(Girrot)の目を通して絶妙に微妙かつ時々よこしまな気持ちで街案内をするZINEで、ジロはきっとボクなのかもしれません(笑)。