誰かを少し、元気にする。
小さな本屋を営んでいると、お客さんと話をする機会も多い。本についてはもちろん、本と直接関係ない話をすることもある。
ここ最近、「犬の本はありませんか?」と聞かれることが続いている。
「犬の本はあまり置いていないのです」と、小さな本屋の僕たちは答える。
ただ、探している事情を聞くと、「家族同然だった愛犬が亡くなり、家族の悲しみを癒やす本を探しています」という同じような答えが返ってきた。
少ない犬の本の中から選んだ本を見てもらうと、「どれもよいけど、できれば亡くなった犬と同じ犬種が登場する本が欲しい」。
その亡くなった犬のことを僕たちは聞き、その思い出から、なにかよい本はないかとヒントを探し、思案する。
今回紹介するリトルプレスは、『よむ処方箋 01 失恋』。
失恋したときに「ふっと手にとれて、ほんの少し元気になれる本があったなら」と、『襟巻編集室』のハタノエリさんと井上真季さんが作り始めたリトルプレス。
「失恋」をテーマに寄稿した作品が一冊にまとめられている。
くどうれいんさんは失恋の心象風景を描いた俳句とショートショート。
編集者のハタノエリさんは「永遠の片想い」から失恋を描いている。
工学者の羽鳥剛史さんは「失恋」を糧に、「次の恋愛はぜひとも成功させるぞ」と前向きになれる方法。
コピーライターの池田あけみさんは、自身の人生から思う「恋より 切ない はなし」、などなど。
人の気配を感じさせながら、喪失感や、疎外感を切り取った、竹内いつかさんの写真も各所に掲載されている。
結局、亡くなった犬の犬種が登場する本は見つからず、ほかによい本はないかと、本探しは続く。
癒やしが必要な家族の関心のあること、喜びそうなもの、気が紛れそうなもの。
「こういう本が欲しい」と本を探しても、そのまま当てはまるものを見つけることは難しい。
たとえ見つかったとしても、それは自分の分身であって「本と出合った」とは必ずしも言えない。
ズレや違和感、見たことのないもの、感じたことのないものに意味がある。それぞれの本に、誰かに伝えたい思いが込められ、出会いがある。本を選ぶ行為は、その思いに出合うこと。
「本を選ぶこと」は世界を広げ、いろんな価値観を学ぶ手助けをすること。自分のために、そして大切な人のために「本」を選び、届けてほしいと、僕は思う。
今月のおすすめリトルプレス
ふっと手にふれて、ほんの少し元気になれるような本。
編集:ハタノエリ、
デザイン:井上真季、
写真:竹内いつか
出版:襟巻編集室
2019年3月発行、
189×128mm(46ページ)、1080円
『よむ処方箋 01 失恋』出版室から一言
ソトコト読者のみなさま、愛媛からこんにちは。エリとマキで営む『襟巻編集室』です。マキの失恋時、「心に効く読み物が欲しい」と思ったのが“失恋本”をつくった動機。マキを癒す本になるはずが新たな恋は始まっていて……。人生きっとそんなもの、ですよね。