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多様性

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか

ロボット妻依存

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 最初は違和感しかなかった。しかし人間の適応力は大したもの、あるいは皮肉なもので、いつの間にかすっかり慣れてしまった。人工知能搭載ロボットとの結婚。最初の頃は斬新なネタくらいの受け止め方をされていた。とある国家は、人口政策の影響で男女の比率のバランスが崩れたことを契機に悪循環から脱することができず、100年単位で女性不足を解消できずにあった。そこで白羽の矢が立ったのが「ロボット婚」。道徳的な問題については片付いていないが、法律を変えてでも推進しようとする勢力により、半ば押し切られてしまった。その国家ではもはや10組に1組が「ロボット婚」で、法的にも認められている。
 政府もそこまでとは考えていなかったようだが、想定以上に「ロボット婚」は受け入れられてしまった。というのも、パートナーとなったロボットは、実に理想的に成長し続ける。会話の内容から相手の気持ちを汲み取り、最良の言葉や表情で返そうと学習を重ねる。結婚当初はぎごちなさが残るものの、1年も共同生活を送ると「彼女こそベストパートナーだ」と自信を持って友人に紹介できるほどになる。ぎごちないところから始まることが、むしろ成長を楽しめるという評判につながっているから、結果オーライだ。相手好みになるための軌道修正力が頭抜けていて、感情でブレる人間ではもはや敵わない。会話だけではなく脳波や心拍数も計測され、的確に心理を分析して対応してくれることもあり、ほとんどストレスを与えてこない。
 もともとは結婚できない不満に対する政府の対策であったが、恋人代わりにする人も急増している。自分に合った「恋愛プログラム」を組めるようになっているので、失望することも失恋することもない。飽きたらプログラムを書き換えればいい。人間みたいにわがままも言わないし、面倒くさくない。外見も自由に変えることができるし、皮膚の感触や体温も人間らしさが伴うようになった。ロボットであることが気にならなくなり、親しみがありすぎてそれを忘れてしまう瞬間すらある。男女ともに「ロボット婚」の世界的増加傾向は著しく、パートナー・ロボット産業の規模は急拡大、専門の研究者も引く手あまただ。
 「やっぱり人間がいい」とパートナーの人間回帰をするケースもあるが、パートナー・ロボットが優しく理想的すぎるがあまり、ちょっとしたことで傷つき立ち直れない習性が身についてしまった人は、ガラスのハートが割れることを恐れてロボット依存から抜けられない。
 こんな社会は許されるのか? という議論は絶えないが、そもそも人間がこの世界、さらには宇宙の唯一の主役であるべきだという根拠に乏しいならば、ロボットと結婚して社会を営むことが悪だとも言い切れない。

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