タイで、ナンプラー醸造所を直接取材!
戦後間もない頃の北海道の酪農家を舞台にした連続テレビドラマを観ていると、物語の中、牛舎が登場し、登場人物が牛に餌をやったり、搾乳し世話をする様子が描かれている。
あくまで、ドラマの一場面に過ぎないにもかかわらず、僕は既視感を覚えた。
父方の実家が酪農をしていたこともあって、夏休みには帰省し、長い時間過ごしていた田舎を思い出していた。画面に再現された、牛舎の素朴な木製の仕切りや、土間、餌箱、干し草、乳牛の表情や動きから、牛舎や牛と過ごした記憶が、そして風景が記憶の中に浮かんできた。
なにより自分でも驚いたのが、忘れたことさえも気づいていなかった、牛舎の匂い、香りが蘇ってきたこと。
今回紹介するリトルプレスは、『น้ำปลาแมน(ナンプラーマン) 魚醤男』。パクチーやタイ料理が日本でも市民権を得るようになって、一般的に知られるようになったタイの調味料・ナンプラー(魚醤)がつくられる様子をまとめた一冊。
食や発酵をテーマにした本を出版している著者のワダヨシさんが、バンコクの喫茶店を訪れた際、「小規模な手づくりナンプラー醸造所を見学したいなあ」と呟いたことをきっかけに、あれよあれよという間にカンチャナブリー県ラオクワン郡の小さな醸造所に辿り着いた。
タイのキッチンでのナンプラーは日本の醤油とほぼ同じポジションで、醤油が大豆からつくられるように、ナンプラーは魚からつくられる発酵食品。
醤油は麹を加えて発酵させるが、ナンプラーは魚と塩のみでつくられる。発酵させているのは野生の微生物。麹などは使わず、天然発酵で出来上がる。
醸造所の所長や品質の高さを示す証書、醸造の複数の工程、甕などの設備や出荷までの作業の様子が、テキストと写真で紹介され、タイの田舎の小さな醸造所に訪れたような気持ちになる。
場所の空気感をも表現された誌面からは、訪れたことのない異国にもかかわらず、目の前でナンプラーがつくられているかのように感じ、醸造所もどこかで見たような懐かしい印象さえ受ける。
なにより、醸造所や、醸造途中の匂いや香りが、想像の中で熟成されてくる。
頭の中を巡るいい香りのなか、タイ料理はもちろん、普段の料理にナンプラーをかけて食べたくなった。
今月のおすすめリトルプレス
『น้ำปลาแมน(ナンプラーマン)魚醤男』
タイのナンプラー(魚醤)をテーマにしたリトルプレス。
著者:ワダヨシ
カバー:秋元机
発行所:ferment books
2019年3月発行、
182×227ミリ(16ページ)、
540円
『น้ำปลาแมน(ナンプラーマン)魚醤男』著者より一言
発酵が好き、アジアの食文化や印刷物や新しいカルチャーも気になる。カバーを描いてくれた秋元机さんと、そんな話をしながらジャムセッション的な勢いでまとめた16ページの冊子です。取材の機会をくれたバンコク『喫茶Leica』のタカハシさんにもコップンカップ!