2021シーズンより「すごいをシェアするパートナー」として、FC今治と共に歩むアーバンリサーチ。すでにFC今治のホームゲームで衣料品回収を行うなどの取り組みを開始し、5月16日からはコラボグッズであるTシャツの販売も開始します。今治とはゆかりのない大阪のアパレル企業、アーバンリサーチがなぜFC今治のパートナーになったのか? そしてFC今治と運営会社である「今治.夢スポーツ」と一緒だからこそできること、その未来像について、アーバンリサーチ副社長、竹村圭祐さんに語ってもらいました。
はじめに、アーバンリサーチの事業についてお教え下さい。
弊社は1974年に創業し、今年で47年目になります。大阪の郊外で現社長がジーンズショップとして開業したのがはじまりです。
創業から20年ほどの間は、郊外を中心に十数店舗を展開してきました。次第に街の中心でかっこいいお店をやりたいと、当時のスタッフたちが熱望するようになり、新しい店の構成を考えて1997年に大阪の西心斎橋、いわゆるアメリカ村に出店したんです。それが現在の社名でもあるアーバンリサーチというセレクトショップです。
出店当時は人気のシューズとバッグをたくさん集めたことで注目を浴びました。おかげさまでアーバンリサーチは順調に成長することができ、オリジナル商品や派生ブランドも展開しながら現在に至っています。
私たちは良くも悪くも好奇心旺盛で何でも自分たちでやりたい性分でして、そんなこんなで展開している主要ブランドは7つ。店舗は約240店舗あります。メンズ/レディースのアパレルだけに限らず家具や食品の取り扱いもあり、メンズの理容店、カフェ、ついには長野県にキャンプを主体とした宿泊施設も一昨年にオープンしました。インターネットでの販売(EC)も20年以上前から取り組んでいて、現在のECのボリュームは全売上の40%近く。同業種の中でもトップクラスに比率の高い会社です。
大阪のアパレル企業であるアーバンリサーチが、なぜ地方のサッカークラブFC今治のパートナーになったのでしょうか?
もともとはサッカーチームのパートナーになる予定はありませんでした(笑)。
昨年暮れ、FC今治のことを紹介してもらったときも「あの岡田さんがやっているチーム」ということで、半分興味本位でお会いしていました。ただ、お会いして取り組んでいる活動についてうかがったとき、大変おもしろいなと感じたんです。面白いなとは思いつつ、「どんな形で関わっていけばいいんだろうか?」とも考えました。
単に広告効果を狙ったスポンサーということは私たちも考えていなかったですし、とはいえ具体的なアイデアは思い浮かばないものの、弊社がやってきたことや想いと共感できるところがたくさんありました。その場で即決したわけではないのですが、その後も「どんなことをやれそうかな?」ということを考えていたんです。
その後、実際に今治にも足を運びました。FC今治の運営会社である「株式会社今治.夢スポーツ」では、サッカーチーム運営の他にも、教育や地域活性化も事業の柱に据えています。その志に共感した方々が日本中から集まってきて、スタッフとして夢の実現にむけて活動しているところを目の当たりにして感銘を受けました。
私たちもアパレルの販売がビジネスの主体ではありますが、単にトレンドに合わせた洋服を売るのではなく、理念に掲げている「すごいをシェアする」のとおり、社会や関わるみなさんにとって、当社があってよかったと思ってもらえる、存在価値のある会社になりたいと常々考えている会社です。
着ることのみならず、食べること、住むこと、地球環境のことについても考えていたので「今治.夢スポーツと一緒に何かできるのではないか?」と考えてパートナーになりました。
アーバンリサーチは地球環境に配慮した製品づくりにも力を入れているかと思いますが、そのきっかけは何だったのでしょうか? そしてどの様な想いで取り組んでいますか?
オーガニックコットンを使った各種製品を販売する『かぐれ』というグリーンセレクトショップを展開させたり、東北コットンプロジェクトという東日本大震災後の復興支援プロジェクトにも発起人の一社として参加したりしています。津波で被害を受けた田畑の再生にコットン栽培を活用するプロジェクトです。
JAPAN MADEという日本の様々な地域の特性を活かした製品をつくるプロジェクトも社内で立ち上げました。グリーンダウンプロジェクトというダウンのリサイクル活動にも参加しています。また最近では『COMMPOST』というオリジナルブランドを立ち上げ、社内で発生する不良品やキズモノ等の廃棄予定分を樹脂素材と混ぜて再利用し、各種バッグなども製作しています。
またSDR(Sustainable Development Research)という社内での横串の研究グループが、地球環境に配慮した活動をおこなっています。2021年4月には国連グローバル・コンパクトにも加入しました。
もともと当社には『アーバンリサーチドアーズ』という「いまの暮らしを心地よく」をコンセプトに、若いファミリーをターゲットにしたライフスタイルを提案するブランドがあります。20年以上にわたって「心地よい暮らしとは?」を考えながら商品開発や各種ワークショップを行ってきました。ゆえに、自然と社内にはそういうマインドのスタッフが増えているのではないかと思っています。
FC今治コラボのTシャツを企画販売されていますが、FC今治との取り組みの中で、どのような位置づけと考えていますか?
パートナーとして、「僕たちの得意分野であるアパレルで何か一緒に」というところから始まりました。FC今治には関連グッズがたくさんありますが、試合に向けた特別なグッズというよりも、普段からどんどん使っていけるようなアイテムを増やしたいという要望をいただいたのが、今回の商品を作ったキッカケです。今後も引き続き新しい商品を開発していきたいと考えています。
たとえば、今年からFC今治の試合会場では、不要な衣料品をファンのみなさまから回収しています。回収した衣料品をリサイクルして新しい素材に変え、その素材で製品開発をするといったことは、ぜひやりたいと話をさせてもらいました。
また、個人から出るものだけでなく、今治の地元の産業から排出される余った素材や不要なものを利用し、アパレル用の素材に再生させ、それを利用した新しい製品づくりも進めたいと考えています。
現在当社が展開しているCOMMPOSTは、こうした取り組みから製品開発をしてきました。今までのやり方や考え方を活かすことで、今治から出た「いらないモノ」が再び「必要な製品」に生まれ変わる。それを再び今治の方に使ってもらえたら、今治の中で有意義な循環が起こせると思うんです。「そういうのって面白いですね」と、両社で話をしています。
あと個人的には、自転車というキーワードを使ってなにかやりたいと考えています。しまなみ海道の一方の始点である今治。その立地を生かして、自転車のあるライフスタイルを何か提案できたらいいなと。自転車をキッカケに家族で過ごす機会であったり、自転車を使った旅であったり、可能であればチームの選手や関係者にも共感してもらって、ライフスタイルに落とし込める製品を開発して、みなさんに取り入れてもらえたらうれしいですね。
FC今治のパートナーとして活動することにより、どのような変化が起き、社会や地域が豊かさを感じられるものになると考えていますか? この取り組みから見えてくる未来像についてお聞かせ下さい。
今治.夢スポーツは、サッカーを軸に地域の方々と絆を深めています。私たちもその取り組みに参画させてもらい、ともに成長していけたら面白いことができそうだな、という想いは以前よりも高まっています。
社会や地域の豊かさというのは、その土地に住む人の心の豊かさに直結していると思いますし、じゃあ「心の豊かさとは何か?」といえば、僕が大切だと感じているのは、「自分の手にあるかないか」です。
仕事はもちろん、朝起きてから寝るまでの様々な活動が自分の手から離れ過ぎてしまうこと。これと豊かさの喪失との間には、何か関連性があるのではと考えています。
自分の手を煩わすことなく便利にできることは、確かに生活を楽にしてくれます。一方で、心のバランスを壊してしまう要素をはらんでいるようにも思います。その土地に根付いたものが、自分の生活の支えになっていることが実感でき、程よく自分の手を使って生活できることが重要なのではないでしょうか。
何かの本で読んだのですが、コロナ禍で家に閉じこもって生活することを余儀なくされたとき、当然家で食事をしなくてはなりませんが、出来合いの料理を買ってきて食べるだけでなく、自ら料理をすることで暮らしを楽しむ人が増えてきたということを知りました。便利で美味しいだけでなく、つくって食べる体験がもたらす「心の豊かさ」を実感できるからだと思います。
昨今のキャンプ人気もしかり、単に屋外だから感染対策になるということだけでなく、自らテントを張る場所(住む場所)を選び、自ら住処を構築するところに、多くの人が心の豊かさ、楽しさを感じているのではないでしょうか。
また日本には日本の良さというか、日本の地域風土に根ざした価値観があります。前からそれらをファッションにつなげたいという想いを持っています。
国連で話題になった「もったいない」という概念や、「虫の音」を日本人は言語と同様に左脳で聴き、西洋人は楽器や雑音と同じく右脳で聴くという違い、自らの手を使うことの楽しさと不便さのバランスであったり、土地との関わり方を再構築することができれば、より素晴らしい体験と心の豊かさにつながるのではないかと考えています。
FC今治が手掛けている自然教育の主旨も、そのようなことを再確認してもらう狙いがあるのではないでしょうか。
アーバンリサーチはファッションを扱うビジネスをしていますが、関わってくれる方々に楽しさを感じてもらいたいという点では、サッカークラブであるFC今治となんら変わりがありません。FC今治とのパートナーシップをきっかけに、今治で培われたコミュニティに私たちも参加していく。こうした心の豊かさに繋がるバランスを、我慢したり、頑張ったりするだけでなく、おしゃれに楽しく実現できるようなプロジェクトを実現させたいと考えています。
2021年5月 メールインタビューにて
写真提供/アーバンリサーチ、FC今治
今回のインタビュイー/プロフィール
竹村 圭祐(たけむら けいすけ)
株式会社アーバンリサーチ 取締役副社長
株式会社アーバンリサーチに入社後、販売員・店長・総務部長等を経て現職。
情報システム分野も得意で、常に時代の先端を見据え、仕事に取り込めるかを模索している。
趣味は山登りや食べること。好きな食べ物はおにぎり。