これまでやりとりをしてきて、「果林さんも真理子さんも、めちゃくちゃサスティナブルだよね?」と感じた、ぼく(乾)。同時に、「なんでそんなに環境や未来への意識が高いの?」という疑問も浮かんできました。2人の意識がどのようにして変わっていったのかを軸に、オランダの社会背景などを聞きました。
シャワーの時間で“別れ”に発展する!?
乾 これまでの話をしていて思ったんですけど、2人ともめちゃくちゃ環境やサスティナブルに対して意識高いですよね? まあ、それが前提の企画ではあるんですけど……(笑)。
桑原果林(以下、果林) 私自身は「めちゃくちゃ意識高い」とは思ってないんですけど、プラスティックを気にしたり、オーガニックや添加物については気にしていますね。シャワーの時間を短くしたりとかも。けど、そういうのはオランダに来てからなんです。
乾 え、そうなんですか?
桑原真理子(以下、真理子) 日本にいたころ、果林のシャワーの時間がすっごく長くて、私がキレてドアを蹴るみたいなことあったよね!(笑)
乾 そんなに!(笑)
果林 ずっと水を流していたわけではないけど、1時間くらい……(苦笑)。今のパートナーと付き合っていた時にも、シャワーから出てきたら彼が頭を抱えていて、「こんなに長くシャワーを使って水を無駄にするなんて! 一緒に居るのは無理かもしれない」って言われたことがありました……。
乾 じゃあ、オランダでの暮らしの中で、だんだんと意識が変わっていったんですね。
真理子 こっちにいると「〇〇が引き起こす環境への負担」とか、いろんなところで聞きますから。環境問題に関するさまざまなドキュメンタリーも多くて、そういうのを見る機会もあるし、環境について考えるトーク番組も多いし、ニュースでも見る機会がたくさんあります。オランダは国土の4分の1が海抜ゼロ以下。地球温暖化による海面上昇など、環境のことは死活問題、深刻な問題として、共有されているんじゃないですかね。
果林 どういう社会をつくっていきたいかって考えるときに、環境のことは切り離して考えられないことなんです。
乾 そうなんですね。そういえば、2人は何歳からオランダに?
真理子 私は19歳から。果林も19歳で一回来て、25歳からこっちで暮らし始めました。
乾 サスティナブル視点で、それまでの日本とオランダでの暮らしを比較してみて、衝撃的だったことってありますか?
真理子 あります! 日本だと、週末に友達と遊ぶってなると買い物ってアクティビティのメインになることありますよね。で、こっちで私に彼氏ができた時に、ちなみにその彼は、先日別れた16年付き合ったオランダ人の彼なんですけど、初めてのデートで一緒にショッピングに行ったんです。
乾 今の真理子さんから想像できない! 彼はお店には入ってくれたの?
真理子 デートってそういうもんかなって思っていたから。でも、そこで彼氏は愕然としていた(笑)。お店にはがんばって入ってくれてましたけど。「買わなくても良くない?」とか「なんで、欲しくもないのにお店に行くの?」って言われて。彼にとっては、明確な用事がないのにお店に行くのは苦痛でしかないから。オランダの価値観は彼から勉強したかもしれませんね。
乾 “くわまりメソッド※”の原点! じゃあ、オランダでデートってなにするんですか?
(※「ときめくものしか買わない!」という真理子さんが提唱するメソッド)
真理子 こっちでは、サイクリングに行くんです。
乾 オランダのイメージ通り!
果林 あとは、カフェで会ってコーヒー飲んで話したり、映画見たりとかかなあ。
乾 じゃあ、アムステルダムにあるたくさんのお店は、観光客向けなのでしょうかね。
果林 まあ、買う人はいますけどね。みんながみんな、そういう考え方じゃないですから。
乾 あれ? 誕生日ってどうするんですか? なにもあげたりはしない?
果林 私が前回パートナーからもらったのはヘアドライヤーでした。
乾 実用的!
果林 ジュエリーとかそういうのは、こっちでは聞いたことないですね。
真理子 元カレは誕生日になるとパニックになるって言っていました。「君になにをあげたらいいかわからない……」って(笑)。まあ、結局モノじゃなく、旅行になりましたけどね。
無駄にお金を使うのが耐えられないから、誰も使わないようなプレゼントってあげないし、嗜好品とか、こうロマンチックを演出するためだけにお金を使うことはしない。悪いことではないけど、無駄がない。どこを取っても無駄がないっていう(笑)。
果林 そういう意味でもオランダの男性は堅実で、だから、結婚したいナンバーワンってとかって言われることもあるみたいです。ってこれ、乾さんから聞いたような(笑)。
乾 はい、僕も友人から聞いたんです(笑)。
サンドイッチも効率的!?
真理子 でも、どうなんだろう。日本の曖昧さみたいなところが、最近はいいなあって。オランダの、すべてのことを白黒つけてしまうところに、物足りなさ、というか、つまらなさを感じてしまうこともあります。
元彼に「なんで、これをやるんだ?」って聞かれて、「いや、私がこうしたいから!」っていうと納得いかない。理にかなっていないと相手もひかないから、たまに面倒くさいです(笑)。でも、話し合って解決すればいいんですけどね。
乾 とはいえ、全部が全部、話し合って解決するのも大変かも……(苦笑)。
真理子 そうそう、私も元カレに、シャワーでは言われていなかったけど、部屋の電気については指摘され、都度消していました(笑)。「なんで使わない部屋にライトが点いているの?」って。さらに、「LEDのライトはずっと点けてもいいけど、そうじゃないのは、なるべく消して」って言われていました!
乾 すごい、消費電力を考慮しての発言ですね!
真理子 もったいない的な。
乾 オランダに「もったいない」みたいな言葉はあるんですか?
果林 あります。「zonde(ソンデ)」。
真理子 罪という意味もある言葉。そう考えるとおもしろいかも。
果林 オランダ人の慎ましさかというか、贅沢をしない考え方の根底にはキリスト教のプロテスタントの教えがあるんです。カルヴァン主義ですね。
乾 宗教観から来ているんですね!
真理子 オランダの北部は基本プロテスタント。だけど、うちは母がオランダの南部出身でカトリックだから、そこまで慎ましやか、ではない!(笑)。部屋のライトや暖房は点けっぱなしだったり……。
あ、でもパンにハムとチーズを一緒に挟んじゃダメって言う!
乾 え、それはなんの話ですか?
真理子 サンドイッチの話なんです(笑)。私もサンドイッチにはハムやチーズ、レタスやトマトなど、いろんなものを同時に挟んでもいいと思うけど、その話をすると、上の世代だけでなく、私の同世代に聞いても、「えー、それはやり過ぎ!」って言われます(笑)
乾 サンドイッチの具材にも、オランダ人の慎ましやかなところが反映されているなんて、おもしろい話ですね!
果林 お弁当的なものをオフィスに持って行ったりする人も多いけど、基本はパン。それも日本のお弁当みたいな感じじゃなくて、朝食べていたものをそのままビニールに包むだけ。朝もだいたいパンだから、チーズだけ、ピーナッツバターだけを挟んだものを、モソモソと食べていますね。
乾 日本には「キャラ弁」文化があるくらい。すごい違いますね。そして慎ましさを超えて、ちょっと寂しいかも……。
真理子 日本って、いろんなトッピングを選べるけど、それはオランダの人にしたら苦痛でしかないんです(笑)。みんないつも同じものを食べてる。
果林 どこのカフェもだいたいメニューが一緒。ランチは、パンケーキか、チーズかハムを挟んだホットサンド。ケーキもアップルケーキが基本で、チーズケーキ、キャロットケーキ、チョコレートケーキくらい。
真理子 みんな毎日それでいいんです。
果林 「いつも同じで嫌じゃない?」って聞くと、オランダの人はむしろ「チョイスがあると困惑するから同じものをいつも食べたい」って言う。そうじゃない人もいると思うけど、多くの人が食に重きをおいていないんです。
複雑な料理だと、誰かに負担がかかるし。それも合理化かなあ、家族だんらんの時間のほうが大事だったり。
乾 生きる上で重きを置いている部分が違うんですね。おもしろいなあ。
皆さんのご意見や相談、受け付けます!
この連載「毎日がサスティナブル!? —アムステルダムとニッポンのSDGs—」で取り上げてほしい事や桑原真理子さんへお悩み相談したい方、募集します!
※お悩み相談の返事は気まぐれです。真理子
桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。