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場づくり・コミュニティ

特集 | 未来をつくる本

新刊書店でもなく、古書店でもなく、本屋さんです。

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ここは京都市上京区の住宅街の一角にある『開風社 待賢ブックセンター』。懐かしさすら感じさせる店構え。けれども書棚に目を移せば、新刊と古書が同居するというなかなか珍しい光景。約4.5坪の小さな書店からはじまる本との出合いと、絶妙な店の“温度感”について、店主・鳥居貴彦さんに伺った。

店の前に掲げられた「本」の看板の足元をよく見ると、「飛び出し坊や」ならぬ「本出し坊や」の姿が。

ぱっと見た印象は、「○○堂」という古風な名前が似合いそうなレトロな雰囲気。内部も……まあ、だいたいそんな感じ。でも、書棚が違う。新刊の脇には古書が並んでいたり、ジャンルも古今東西の小説をはじめ、気鋭の詩集や評論があったり、かと思えば懐かしい絵本が置かれていたり。

「あんまり新刊、古書と分けて考えていないですね。お客さんが探しに来るのは、あくまで“本”ですから」

「この外観から一番遠い名前は?」という遊び心から考えたのが“ブックセンター”だったそう。

店主の鳥居貴彦さんは、京都の有名書店『恵文社』に2011年に入社。西大路店、その後長岡京市にあるバンビオ店のリニューアルなどを担当した。「一乗寺店ではないんですね、念のため(笑)。でも、ジャンルを問わず棚に並べるというのは、『恵文社』で学びましたね。良さでもあるのですが、やってて楽というか、囚われないというか。『なんでこの本はここに並んでるんですか?』って聞かれたときに、『これはこうなんで』って言うより、『なんかそういう感じなんですよねえ』のほうがおもしろくないですか」。

お客さんに委ねつつ、適度に狙う選書のこと。

曖昧さや遊びの部分を大切にすること。そこで本と出合うこともあるだろう。同時に、鳥居さんのお客さんに対する思いや洞察も宿る。「僕は、人に対して『なにかをしてやろう』みたいなことがあんまりないんです。買わせようとか、『この本いいですよ』って勧めたりとか、あんまり考えていないというか。やっぱり、お客さんのほうが本を知っていると思っているし、教えてもらうことのほうがずっと多かったですから。それに人って、自分が引っかかるものを、たくさんの本の中から自分で探し出すことができるんです。背表紙を見ただけでも。だから任せといていいんだなって」。

「本棚は両サイドからいろいろ考えて並べていったけど、最後は真ん中で『ダメだー!』ってなっちゃって(苦笑)。『こいつ分かってねえなあ』という気持ちで見てもらえたら(笑)」。

とはいえ、なんでもかんでも置いている、わけではない。「売れる本を置くことを意識しています。ベストセラーという意味ではなくって、この場所で売れる本。しょっちゅう来るお客さんって数えるくらいしかいないので、『この本だったらあの人興味あるかな』と、そこに寄せていく感じ。『こういう本を買う人たまにくるねえ』ってところで本を選んでいます」。

お客さんに委ねつつ、適度に狙いつつ。言い換えれば、それはマーケティングとも言えそうだ。鳥居さんは『恵文社』に3年間勤めたあと、出版社である『ミシマ社』に営業担当として4年勤務した。「本屋さんとはある意味、真逆。出版社は自分たちでつくったものを本屋さんに売りに行く。どういう人が読むんだとか、そういうことを延々とやっていました」と鳥居さんは話すように、そこでの気づきや洞察が今の店づくりにも活かされているのだろう。

本との出合いをつくる、出店販売やイベント。

鳥居さんは、本との出合いのきっかけにもなる活動も行っている。その一つが「どこかでだれかと日曜市」だ。月に2回ほど、知り合いのお店の前に(書店に限らず)古本屋を出店するというもの。また、例えば『おもろそうし研究会』も、本との接点をつくる活動。「『おもろさうし』は沖縄の琉球王朝の歌謡集。こっちでいう万葉集みたいなもの。京都精華大学で研究をされている人を先生に、沖縄に興味がある人たちが集まって。さまざまな質問を先生にぶつけるんですが、先生は沖縄に詳しいからなんでも答えてくれちゃう。で、最後には『おもろさうし』につながっていく。このイベントをめがけてくる人もいますよ」。

『おもろさうし研究会』のテクストとなる『おもろさうし』。イベントでは沖縄県関連の本が売れるという。

イベント的なもので言えば、「子ども科学本屋相談」もある。『おもろそうし研究会』同様、鳥居さんが出会った”すごい人“が、ラジオの「子ども科学電話相談」のように、子どもの質問に対応する催し。「昔、物理の研究をしていた人で、原発に勤めていたり、その後図書館に勤めたりって、本当に経歴がすごい人がお客さんでいまして。その人が先生にはなるんですが、でも、すぐには答えを出しません。まあ、答えを出せない質問が多いというのもあるのですが。例えば子どもが、『宇宙はどこからなん?』って言ってきたときに、百科事典や星座の本など、その場にある本を開いて一緒に探したりする。本で調べている姿を見ていてくれたらいいなあって」。

「本屋という空間が好き」という気持ちが店づくりの原点。

さまざまな活動も、すぐに販売につながるものではないのかもしれない。「それでいいのかどうか正直わからないけど、まあ、いつか還ってくるのかなって(笑)」と鳥居さんはあくまでマイペース。そんな鳥居さんにとって、本屋は特別な場所だ。大学を卒業後、就職せずに京都の実家に戻ったという鳥居さん。約3か月もの間、気づけば本屋にいたという。「京都は新刊書店、古本屋問わずたくさんあって、そこに逃げ込んでいた感じ。本が好きというか、本屋が好き。本屋という空間が好き。居ていい場所だから安心するんでしょうね。だから僕は立ち読みだけして帰ってくれても全然構わない。実際、財布持ってこない人めちゃくちゃいますからね(笑)」。

店内からのれん越しに通りが見える。ちなみにここは店舗兼鳥居さんの住まいでもある。

本を販売してはいるが、積極的には売らない。おすすめもしない。けれど、なにか居心地がよくて、気になる本もちらほら。それが『開風社 待賢ブックセンター』の絶妙な温度感。伝わりましたか?

photographs by Mao Yamamoto text by Yuki Inui

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