想像でイメージを補う「家族写真」。
寺田健人の作品シリーズ「想像上の妻と娘にケーキを買って帰る」が10月7日(土)から29日(日)まで、東京駅東側エリアの公共施設やオフィスビルなどを会場にする屋外型国際写真祭『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO』にて展示される。
本シリーズは寺田が父親役に扮し、妻と娘がいると仮定して、映画やドラマで描かれるようなさまざまな家族団欒のシーンを模して写したセルフポートレイトだ。
作者がこの作品をつくったきっかけは、「自身がゲイであることをバレないようにやり過ごしてきた経験」から。「彼女はいるのか」「結婚はまだか」と聞かれるたび、適当な女性を想像して異性愛者として振る舞っていたことがあるという。同じような経験をしている当事者にも話を聞き、その時想像したイメージを元に、父親の姿をつくり出していった。作品には父親と妻と娘の3人家族がリビングでケーキを食べているような場面や、公園でピンク色のおもちゃで遊ぶ娘を見守るような様子もあるが、どの写真にも妻と娘役の人物は写っていない。
この“創”られた「家族写真」を観るとき、鑑賞者は自然と想像でイメージを補う。自身の現在の家族の姿と重ね合わせる人もいれば、いつか家族をもった時の未来の姿を思い浮かべる人もいるだろう。また、リビングで男性の向かいに座ってケーキを食べているのは妻ではなく男性のパートナーかもしれないし、ピンク色のおもちゃで遊ぶのは娘ではなく息子かもしれない。「今は想像できない家族像がそこに生まれてほしい」。不完全な家族の写真が気づかせてくれるのは、これからの多様な家族の形だ。
寺田健人「想像上の妻と娘にケーキを買って帰る」
text by Nahoko Ando
記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。