MENU

関係人口

特集 | 続・道の駅入門

手賀沼のほとりからまちづくり。年間来場者が100万人超の『道の駅しょうなん』は、地域の玄関口

  • URLをコピーしました!

TOP写真:中央/『てんと』のサイン。施設内のサインの文字やロゴマークなどのアートワークは、大原大次郎さんが手がけた。右/『てんと』のエントランス前は、「大屋根ひろば」という広場になっており、イベントに活用されたり、休日にはキッチンカーも並んだりする。左/見る角度によって異なる表情を見せる『てんと』。

千葉県北西部、手賀沼のほとりにある『道の駅しょうなん』。柏市の農業や観光の拠点としてだけでなく、まちづくりの拠点としても活用されている。

『道の駅しょうなん』から、まちづくりを始める。

おもしろい道の駅の話題なら、こちらもおすすめ

目次

大きな三角屋根の建物は、地域のエントランス。ここを拠点に、さあ手賀沼周遊へ。

『てんと』の屋根の下に置かれたベンチからは、手賀沼を望むことができる。

JR柏駅から車でしばらく走ると、手賀沼のほとりに大きな三角屋根が連なる建物が見えてくる。2021年にリニューアルされた『道の駅しょうなん』のメイン棟で、直売所『知産知消マルシェ』や『ちゃのごカフェ』、『加工体験室』が入っている『てんと』だ。

平日でも9時の開店前からお客さんが待っていて、休日ともなれば長蛇の列。お目当ては、『知産知消マルシェ』に並ぶ地域の農家さんが心を込めて育てた新鮮な旬の野菜。品揃えが豊富なうちに買いに行こうと、多くの人が訪れる。

地元の野菜が並ぶ売り場を整える駅長の木村さん。
毎年1トン以上出る柏産の廃棄梨からつくった「すてない梨シードル」と、耕作放棄地で育てたひまわりの種子が原料の「ひまわり油」。
『ちゃのごカフェ』の「ちゃのご」とは地元の方言で「ちょっとしたごはん」の意味。カフェのメニューは『てんと』内のロビーなどでいただける。
ナスとカボチャをバンズで挟んだ『しょうなん野菜バーガー』は、季節に合わせて、具材の野菜を旬のもので提供している。

地域とのつながりを感じることができる道の駅。

『道の駅しょうなん』がオープンしたのは、周辺がまだ沼南町だった2001年。質のよい野菜や都心から電車や車で1時間ほどという立地のよさで、来場者は年間100万人を超え、車が駐車場に入りきらないほどだった。

05年に沼南町は柏市と合併。農業が盛んで、豊かな自然が残る旧・沼南町エリアの活性化が議論される中、15年頃から『道の駅しょうなん』のリニューアルが検討され始めた。「来場者の多くの目的は道の駅だけ。そこで道の駅を地域への『エントランス(入口)』に、『手賀沼フィッシングセンター』と『わしのや農業交流拠点』の2か所が中継地点となって、手賀沼周辺を回遊してもらい、地域の交流人口を増やして活性化につなげようとなりました」と柏市役所経済産業部農政課の音喜多宏希さんは語る。

「地域の入口となる道の駅」には何が必要なのか。行政と地域の農家、NPO法人、事業者などが集まった『手賀沼アグリビジネスパーク事業推進協議会』(以下、アグリ協議会)で話し合いを重ねた。建築家としてその思いを受け止めたのは設計事務所『NASCA』の桔川卓也さん。『てんと』の屋根は元々あったイチゴハウスの屋根を模し、大きく風景が変わらないようにした。さらに柏市や我孫子市、しょうなん地域など、どこからアプローチしても正面に見えるように設計されていて、まさに「地域の入口」としての機能を象徴する建物となった。

同時に進められたのが「ブランディング」だ。クリエイティブ・ディレクターの鎌田順也さんが参加し、『アグリ協議会』と1年をかけて運営方針やコンセプトを議論し、そこから生まれた「地域のまちづくりにトータルに深く関わる」というビジョンは冊子にまとめられ、道の駅のウェブサイトにも掲げられている。駅長の木村美穂さんは当初「なぜそこまで?」と思ってしまったそうだが、今は道の駅に関わる人たちの指針であることを疑わない。「単なる商業施設ではなく、地域とのつながりが感じられる場所」にしたいという思いが関わる人たちの間に生まれ、商品開発や店内ディスプレイにも生かされているからだ。例えば「深山のおかき」。地元の知る人ぞ知るおせんべい屋さんの商品を、道の駅オリジナルの小さなパッケージにして販売した。「直売所を『知産知消マルシェ』と名付けたように、ここで商品を知ってもらい、お店に足を運ぶきっかけになれば」と木村さん。生産者の顔や商品の背景を紹介するポップや、柏市の農業について紹介するパネル設置も同様の考え方からだ。

道の駅の中にまちづくりの拠点を設ける。

同時に『アグリ協議会』では、地域の回遊性を高めるために、しょうなん地域での収穫や稲刈り体験、自然観察などコンテンツの充実に取り組んだ。その中で、耕作放棄地が増えていることや少子高齢化で地域のお祭りや伝統行事の担い手不足など、地域の課題も見えてきた。

そこで、『てんと』のインフォメーションで地域の相談も受け付けてはどうかという意見があがり、『手賀沼まちづくりセンター』の機能も持たせることになった。インフォメーションのコンシェルジュは、地域の子どもたちの自然体験活動を行っているサークルの女性たち。地域をよく知っていて、彼女たちが取材などを行ったガイドブック『TEGA LOVE』も発行している。

地域での活動も行っている、コンシェルジュの女性たち。
地域の困りごとを気軽に相談できる窓口を、目指している。
左/コンシェルジュが中心となって製作した手賀沼周辺の情報誌。右/『手賀沼アグリビジネスパーク事業推進協議会』の理念をまとめた冊子。『道の駅しょうなん』の運営の指針になっている。

ただ『手賀沼まちづくりセンター』としてみたものの本当に相談がくるのか、不安もあったと音喜多さんは率直に語る。「ところが、『子どもたちが育てたカブを売りたいのだけど』と小学校の先生が相談にいらして、『てんとこどもマルシェ』というイベントをすぐに実施できました。道の駅に相談窓口があることで、市役所に出向くよりもハードルが下がり、スピード感を持って対応できることがわかりました」。また、しょうなん地域はブルーベリーやイチゴの栽培が盛んで、摘み取り体験や直売を行う農家も多い。そうした農家や飲食店、洋菓子店を周遊してもらうためにスタンプラリーを実施したところ、「同じノボリを立てて地域の一体感や楽しい感じが生まれた」「来年はうちも参加したい」という声が届いた。

柏市役所の音喜多さん。

道の駅とまちづくりの連携が、少しずつ始まっている。出荷する農家さんのモチベーションを高め、お客さんとの距離を近くしたい、芝生広場を地域のイベントなどにもっと有効に活用したいなど取り組みたいことはたくさんある、と音喜多さん。「今、『アグリ協議会』をまちづくり事業を行う組織編成にして、より地域づくりに関わっていこうという話が出ています。『こんなことをしたいから手伝ってほしい』という地域の人たちと行政の間に入り、まちづくりを支援できる団体になれるのではと思っています」。

リニューアルをかけた以前の建物は、レストラン棟『つばさ』に。
『青山ブックセンター』の支店として、食や健康、農業に関連する書籍が並ぶ。
手賀沼周辺は農業が盛んで、人々は、昔から自然と共に暮らしてきた。

『道の駅しょうなん』のみなさんの、道の駅を楽しむコンテンツ。

Book:左ききのエレン かっぴー著、nifuni著、集英社刊

広告代理店業界を舞台にした青春群像劇の漫画。キャッチコピーは「天才になれなかったすべての人へ」。大変な業界だなと思いながらも、クリエイティブな仕事とはどういうものなのか、職種は違いますが勉強になりました。(音喜多宏希さん)

Book:地方創生大全 木下斉著、東洋経済新報社刊

地方創生の「基本の基」を学ぶことができる一冊です。著者の経験に基づき、事業で利益を上げるためにはどうするのか、補助金とはどう付き合うのかなど、地方創生が陥りやすいポイントに触れていて、参考になりました。(木村美穂さん)

Website:ふるさとチョイス

なものに人気があるのか、道の駅での商品の出し方や売り方の勉強になります。北海道の「じゃがいも大福」のようにおもしろいものがあり、商品開発の参考にもしています。(木村美穂さん)

photographs by Mao Yamamoto text by Reiko Hisashima

記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね
  • URLをコピーしました!

関連記事