「強い農林水産業」、「美しく活力ある農山漁村」の実現に向け、農山漁村の地域資源を引き出すことにより地域の活性化や所得向上に取り組んでいる優良な事例を「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」として選定し、全国へ発信する取り組みにより、優良事例の他地域への横展開を図ることとしています。第10回となる令和5年度は、全国634件(第10回記念賞※を含む)の応募の中から29件が選定され、第10回記念賞として1件が決定しました。特別賞は審査にあたった10名の有識者懇談会委員がそれぞれ選出・命名した賞になります。
※第10回となる令和5年度は、過去に選定された優良事例の中から、選定後に著しい発展性が見られ、全国の模範となる取組を「第10回記念賞」として募集しました。
※この記事では、特別賞を受賞した全10団体のうち5団体を先行して紹介しています。残りの5団体は、後編で紹介します。
環境保全賞(あん・まくどなるど委員ー上智大学大学院教授) 『朝日共販株式会社』
企業×学生のコラボレーションで生まれた地元特産の新商品
愛媛県・伊方町にある私たちの会社『朝日共販』は、「しらす」を中心に水産食料品の製造・販売を手掛けています。そんな私たちが今回、特別賞をいただいたのが「小さなしらすで地域を守る」取り組みです。
具体的には、会社で運営する愛媛県三崎港から大分県佐賀関港を結ぶ「国道九四フェリー」の集客やイベントを開催し、地元の一次産品の魅力を発信する地域活性化活動をしています。ほかにも大学生と協働して当社が豊後水道で獲った「しらす」を有効活用した新商品開発や、輸出拡大に向けた取り組みを実施しています。
大学生のSDGs視点が新商品開発の大きなヒントに!
私たちは愛媛大学農学部の学生のみなさんからアイデアの発想を学ばせていただきました。共同開発では、普段自分たちが新商品開発で思いつかないようなアイデアが出てきました。たとえば、「しらすを炊き上げた煮汁をエキスにしたらどうですか?」という提案。自分たちだったら「しらす」の煮汁は茹で汁だから、そんなに綺麗なものではないし、排水処理するのが一般的ですが、SDGsという言葉がよく聞かれるようになった今の時代で考えると、茹で汁も資源化して価値あるものにできるんだと納得しました。外側にいる人たちの新しい見方がいかに貴重かを思い知らされました。
学生のみなさんには愛媛県・伊方町にある『朝日共販』の事業と、その可能性に興味を持ってもらえただけでもすごくうれしく思っています。これからも大学などの学術機関と関わりを持ちながら、私たちの課題、たとえば新商品の成分に関する研究など、協働していけたらと思います。
伊方町に「物流冷凍倉庫」をつくって地元を元気に!
雇用創出などの面で地域の力が本当に薄れてきています。今やれる人が今やらないと、私たちの地域は10~20年後になくなるかもしれないと言われています。
私たちはこの地域で創業し成長してきた会社です。伊方町から町有施設を借り受け新しい「物流冷凍倉庫」をつくる計画をしていますが、私たちが町有施設を活用して新しい産業を生み出そうとしていることについて、地元のみなさんからは温かい声援をもらっています。だからこそ新しい取り組みで新たな雇用を創出して、この地域にたくさんの元気をもたらしたいです。
あっぱれ!情熱賞(今村司委員―元日本テレビプロデューサー、(株)読売巨人軍代表取締役社長) 『トレボー株式会社』
南砺市のワインで地域おこし!
富山県南砺市にある私たちの会社『トレボー株式会社』のおもな事業はワインづくりです。そんな私たちが今回、特別賞をいただいたのが「ワインづくり」の取り組みです。
南砺市の魅力的な景観との融合を目指した私たちのワイン醸造工場は「富山県景観広告大賞」を受賞していて、ワインづくりに欠かせないぶどう畑は現在14haあります。そこで農業を引退した高齢者を春から秋まで雇用。これを通年雇用にするため南砺市にあるスキー場とも連携し、ほかにも地元IT企業の協力を得ながらスマート農業に挑戦しています。
ワインを中心にした持続可能な新しい価値づくり
富山はワイン栽培に向かない場所と言われますが、よりよい商品づくりと新たな産業・名産・観光価値を創出することを意識して活動しています。
たとえば、ワインづくりの過程で排出される部分を再利用して商品や飼料をつくっています。ほかにもぶどうの糖度を上げるために、摘房(てきぼう)したぶどうの再利用も検討していて、さらなる持続可能なワインづくりを模索しています。
同時に工場と畑周辺の自然環境を活かした過疎化が進む南砺市の観光価値の向上を目指して、ぶどう畑の中にある雑木林を利用したグランピング場の開発も計画中です。農業従事者の高齢化で放棄された畑を有効利用することは、山村持続のための大事な活動だと考えています。
街の伝統×造り手の情熱で加速する新しいワインづくり
果樹適地と言えない土地で糖度の高いぶどうに生育するため、50枚ある畑でたくさんの品種のぶどうを栽培しています。良い出来の土壌や環境データを収集し、その情報を他の畑にフィードバック。仕上がりの平均値を高めようという訳です。
ワインの味には人それぞれ好みがあるので、「おもしろい」「初めての味で楽しい」と言ってもらえるワインづくりを目指しています。その例として現在、清酒酵母による発酵や白ぶどう5種類の混醸、4種のぶどうによるオレンジワインの生産に着手中です。
私たちが事業を行っている富山県南砺市は雨の多い地域なので、ワインづくりには向いていない地域だと言われます。しかし晴れた日の景観や冬の澄んだ空気はとても魅力的です。金沢市に近い場所柄もあってか、県内でも有数の「伝統」にあふれた町で、世界遺産五箇山の民謡や井波の彫刻なども情熱を持って維持されています。この情熱が伝播する環境が私たちの挑戦を後押ししています。
蓮と里山の景観賞(織作峰子委員―大阪芸術大学教授、写真家)『認定特定非営利活動法人つどい』
蓮を中心に、いろんな社会課題に挑戦
滋賀県・長浜市にある『認定特定非営利活動法人つどい』は保健や福祉・農業やまちづくりに取り組む団体です。そんな私たちが今回、特別賞をいただいたのが「耕作放棄地になった棚田で蓮を育てる」取り組みです。
地域で暮らす高齢者や障がい者が、耕作放棄地になった棚田で花蓮(はなはす)を栽培。蓮の生花を京都市内の高級料亭やリゾートホテルへ出荷するほか、ジャムやお茶などの加工品の開発・販売で一年を通した事業を実現しています。
地域の高齢者が中心になって運営する『冥途カフェ』
蓮園の来場者を増やすためにSNSを活用したり、地域の高齢者が中心になって季節限定で『冥途(メイド)カフェ』を蓮園のそばで運営したりしています。「蓮の花びら天ぷら」や「蓮サイダー」「蓮茶」といったオリジナルメニューが多彩で、こてこてのおばあちゃんたちの接客も好評です。
ほかにも地域活性化のために、たとえば廃業する地元商店の事業承継など、従事者を募集する側と引きこもりや障がいなど社会とつながりにくさを抱えた人のマッチングをしています。さらには社会とつながりにくさを抱えている人の相談を受け、働く場での居場所づくりの創出にも尽力しています。
蓮だけじゃない、『つどい』が目指す持続可能な社会
マッチングを通して高校生向けに就労体験の機会も提供しています。障がいのある人との仕事は初めての体験だという高校生も多いなか、障がい者とのアクセサリーづくりなどを通して、「苦手なところをフォローしながらの手作業が楽しかった」や「作業者にとって全く違う作品になることを知った」など、取り組みに対してポジティブな反応や感想がもらえてよかったです。
今後は蓮の栽培に向かない水田や畑でほかの作物を栽培したり、『冥途カフェ』を通年営業可能な事業にしたいと考えています。地域の後継ぎがいない事業も部分的に承継して、社会との関わり代を得たい人たちがいきいきと働ける場所を創出していきます。
新価値創出賞(田中里沙委員ー事業構想大学院大学学長)『株式会社七転八倒』
田舎でいろいろな世代がワクワクする場所づくり
三重県・伊賀市にある『株式会社七転八倒』のおもな取り組みは、古民家カフェ運営や田舎体験などの事業です。私たちが今回、特別賞をいただいたのが「古民家カフェ『365 nichi』運営」の取り組みです。
発信・行動力を持つ学生と共に空き家問題や雇用創出などの解決策を考えて事業化し、新しい価値を創出するために活動しています。子育て世代や高齢者も働き続けられる環境づくりを目指し、空き家を活用した古民家カフェ『365 nichi』の運営を中心に活動しています。
古民家カフェ『365nichi』を中心に地域活性化を促進
古民家カフェ『365 nichi』には、さまざまな役割があります。
まずは、都会と田舎の接点として交流ができる場。食を通じた農林業の魅力発信にも力を入れており、「本当のおいしさ」を体感できる場にしたいと思っています。伊賀地域は空き家が多く、住民同士が挨拶するような日常風景も消えかけていたので、カフェが「集まれる場所」になって地域のよりどころになるよう、空き家の雰囲気を活かした実家のような温かい空間を提供したいです。お母さんたちに心のこもった料理を提供してもらいながら、子育てとカフェの仕事を両立できる雇用を創出しています。
田舎の当たり前を「ワクワク」に変える
伊賀地域のいちばんの魅力は「人」です。田舎には米がつくれる人、野菜がつくれる人、狩猟ができる人など、人が生きていく術を持つプロがいます。「田舎では当たり前のこと」に魅力を持たせ、それを「ワクワク」に変えることで人が集まります。その「当たり前」から価値を創れる人材が必要なので、その手法を実践的に学べる場をここにつくれたら、地域を変えていきたいと思う人たちが集う場になる可能性があります。
たとえば古民家カフェ『365nichi』の場合、昨年末の餅つきイベントに驚くほどたくさんの子どもたちが参加してくれました。その光景を目の当たりにして「こんなに子どもがおったんや!」と感動されている方もちらほら。おばあちゃんと孫が力を合わせて餅をつく微笑ましいシーンもあり、世代を超えて地域に住み続けたい想いが垣間見えました。
山の神賞(永島敏行委員ー俳優、(有)青空市場代表取締役)『大月町備長炭生産組合』
持続可能な「備長炭」生産を可能にするために
高知県・大月町の『大月町備長炭生産組合』のおもな取り組みは備長炭の生産です。私たち組合が今回、特別賞をいただいたのが「持続可能な備長炭生産」の取り組みです。
組合では地域に自然分布する「ウバメガシ」(ブナ科の常緑広葉樹)から備長炭を生産しています。大月町の貴重な資源であるウバメガシを将来に残すため、循環利用可能な山づくりや苗木づくり、植樹祭など、人と自然の共生社会づくりを実施中です。
ほかの生産地から持続的活動の秘訣を学ぶ
持続的に活動するためには備長炭の原料であるウバメガシの量を考慮し、むやみに生産量を増やさないことを大切にしています。現在も再生可能な伐採方法や山づくりを『和歌山県木炭共同組合』から習得中です。未熟ですが活動を続けていくことがいちばん大事だと思っています。
しくみの部分では、伐る役割と焼く役割を分けずに生産方法することを『和歌山県木炭共同組合』の方から学びました。『和歌山県木炭共同組合』では分業制で失敗した歴史があったそうで、そうした苦い経験も共有してもらい役立てています。おかげで目立ったアピールをせずとも地域のみなさんが山を見て興味関心を示すようになりました。これは、私たちの限りある資源を後世に残そうとする取り組みが認められている証拠だと思っています。
大月町の「備長炭」を世界に誇れる宝にする
大月町には世界に通用するものがあるということと、その誇りを持続可能なものにしていく取り組みを子どもたちに伝えています。地元の小中高生を対象に行なっている森林環境教育(植栽や苗木づくり)を通じて、子どもたちもその一翼を担っていることを伝え、彼らにも誇りを持ってもらいたいと考えています。
大月町の備長炭が国内のみならずフランスやアメリカでも使われ、さらにはミシュラン店でも使われている事実を知った地元の若者が「大人になって都会に出たら、友だちに自慢したい」と言ってくれたのが、今も印象に残っています。大月町の最大の魅力は、こうした私たちの取り組みをきちんと評価してくれるまちの人たちだと思っています。