「強い農林水産業」、「美しく活力ある農山漁村」の実現に向け、農山漁村の地域資源を引き出すことにより地域の活性化や所得向上に取り組んでいる優良な事例を「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」として選定し、全国へ発信する取り組みにより、優良事例の他地域への横展開を図ることとしています。第10回となる令和5年度は、全国634件(第10回記念賞※を含む)の応募の中から29件が選定され、第10回記念賞として1件が決定しました。特別賞は審査にあたった10名の有識者懇談会委員がそれぞれ選出・命名した賞になります。
※第10回となる令和5年度は、過去に選定された優良事例の中から、選定後に著しい発展性が見られ、全国の模範となる取組を「第10回記念賞」として募集しました。
高校生の未来つくり賞(林良博委員(座長)ー国立科学博物館顧問、東京大学名誉教授)『北海道中標津農業高等学校 マネージメント研究班』
中標津農業高校生がつくった地域ムーブメント
北海道・中標津町にある『中標津農業高等学校』マネージメント研究班は、地域のすべての子どもたちを対象にした食農教育の取り組みを行っています。そんな私たちが今回、特別賞をいただいたのが「子どもたちへの食農教育」の取り組みです。
農業を学ぶ私たちが「まちへ恩返しできることはないか」と考えたとき、地域の幼稚園児から中学生までを対象にした食農教育授業をやってみては? というアイデアが生まれました。特産品の栽培や地域イベントの開発と併せて幅広く活動しています。
「かぼちゃランタンプロジェクト」で紡ぐ地域の絆
中標津農業高校がある計根別(けねべつ)地域は、人口が約1,200人の小さな地区です。それでも幼稚園・小中一貫校(義務教育学校)・高等学校と学校種別がそろっている珍しい地域。そのため、地域の企業や住民も学校の活動に協力的です。
私たちがリードしている「かぼちゃランタンプロジェクト」は、地域のみなさんから相談があり始まりました。最初は中標津農業高校が主体の活動だったものが、現在では「みんなの景観なかしべつプロジェクト」という民間団体が設立され、そことタッグを組んで運営しています。今年で6年目を迎える「かぼちゃランタンプロジェクト」は、おもに幼稚園児と小学4年生、高校生と大人で行っています。
コロナ禍が明けてはじめて行われた昨年のプロジェクトには、例年を上回るたくさんの人が参加してくれました。コロナ禍だった一昨年は70名ほどで行ったランタン彫りが、昨年は120名で行われ、とてもうれしかったです。
「かぼちゃランタンづくり」の先に見据える、和紙づくりの事業化
中標津町の魅力は地域の方々の郷土愛が強いこと、そして自然が豊かで世界遺産に認定された格子状防風林があること。小さな町だからこそ「自分たちで地域を盛り上げたい!」という熱い気持ちを持った人が多く、すてきな町です。
中標津町にはまちづくりやイベントづくりに全力で取り組む大人がたくさんいます。活動に携わる中標津農業高校の生徒たちも、「彼らの意思を未来へ受け継ぐために、高校生や子どもも一緒になってまちづくりに携わってほしい」という思いでこの9年間活動してきました。
今後はかぼちゃランタンづくりで出る彫った後の中身や、飾った後のランタンなど使って和紙がつくれないか研究しています。もし和紙づくりが軌道に乗れば、子どもたちと一緒に和紙づくりをビジネスにするなど、私たちと地域がより密接に関わる活動に発展させていきたいです。
農泊賞(藤井大介委員―(株)大田原ツーリズム代表取締役社長)『特定非営利活動法人NPO砂浜美術館』
町外から来る運営ボランティアとまちの人をつなぐ場所・砂浜美術館
高知県・黒潮町で活動する『特定非営利活動法人NPO砂浜美術館』では、「入野の浜」にある4キロメートルの砂浜を美術館に見立て、四季折々のアートイベント・スポーツツーリズム・防災プログラムを展開しています。町外から来てくれる運営ボランティアや参加者の宿泊と食事は、中山間地域にある集落活動センターとも連携し対応していて、そこで地元住民と交流が生まれています。
「あそびごころ」で関わり代をつくる
「砂浜美術館」はTシャツアート展の企画がきっかけで生まれました。「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」というコンセプトを大切にして、多くの共感を得ることでその輪を広げてきました。とくに「あそびごころ」を忘れないことが大切で、「砂浜美術館」の館長は、土佐湾を泳ぐ体長約12メートルのクジラです。楽しいコミュニケーションを、関係人口創出につなげていくことを意識しています。
2年前から「砂浜美術館アカデミー事業」をスタートしました。防災を通じて人と自然のつきあい方を考えることもそのテーマのひとつです。また、活動フィールドにはたくさんの素材やテーマがあり、専門的にアプローチする研究者もいます。知る、考える楽しみを増やすことは、地域で豊かに暮らす大切な視点です。
黒潮町の魅力と強みを、来館者と共有・共感
黒潮町の強みは農業と漁業です。美術館を訪れるみなさんには滞在中できる限り、農山漁村との接点をつくることを意識しています。こうしたことが実施できるネットワークの強さや地域の方々のホスピタリティも黒潮町の大きな魅力です。
砂浜美術館の活動で印象に残っているのは、Tシャツアート展にこられたお世話になっている方に「ここは、みんな笑顔の美術館ですね」と言ってもらえたことです。
ジビエ活用賞(三國清三委員ーオテル・ドゥ・ミクニ オーナーシェフ)『株式会社BINGO』
駆除した猪を有効活用してまちの課題を解決
広島県・神石高原町にある『株式会社BINGO』では、ジビエ肉や猪肉の通販や卸販売する取り組みに力を入れています。
私たちが活動している地域では、有害駆除される猪の9割が埋却されるなど、捕獲後の処理が課題になっていて、これを解決すべく2箇所の有害獣処理施設を新設しました。この施設の特長は、「止め差し」「搬出」「行政への報奨金申請」までの一貫対応で、しくみを整えることで高齢狩猟者の負担軽減、若手狩猟者の獲得及び命の有効活用に取り組んでいます。
猪肉をおいしく加工して、まちの新しい産業を創出
ジビエ肉は個体差があるため、常においしい状態で提供するのは簡単ではありません。捕獲数を増やし、イマイチな肉はペットフードに加工することで、味のいい肉(全体の5割)を選んで食卓に届けられるようになりました。
都市部でのジビエブームとは対照的に、田舎ではジビエ肉のイメージがそれほどよくありません。故に都会に出荷することが多く、一般的に「猪肉=臭い」というイメージもあるため、はじめて食べた方にも「また食べてみたい」と言ってもらえるよう、日々努力を重ねています。
ジビエ肉加工のノウハウをシェア。備後地域をもっと元気に
神石高原町がある備後地域は、猪の捕獲数が多い地域。捨てる個体を減らして利活用量を増やせば、まちのブランド商品として猪肉をアピールできると考えています。
地元にはジビエ肉の売り方がわからないという処理施設もあるそうなので、販路開発のサポートをするなど、私たちのノウハウを活かしてお手伝いしていきたいです。
お宝食材リプロダクト賞(向笠千恵子委員ーフードジャーナリスト、食文化研究家、郷土料理研究家)『合同会社 山内かぶらちゃんの会』
集落の宝「山内かぶら」で人と人との交流づくり
福井県・若狭町にある生産者グループである『合同会社山内かぶらちゃんの会』が今回、特別賞をいただいたのは「山内かぶら生産」の取り組みです。
「山内かぶら」は、平成28年に地理的表示(GI)保護制度に登録された地域の宝です。「山内かぶら」は在来品種で、この山内集落でしかつくれません。甘酢漬け、マスタード、つぼ漬けなど企業や料亭と連携して商品開発をしており、ほかにも小学生と食育プログラムの中で「山内かぶら」の栽培・収穫体験等を実施しています。
懸命なセールスで販路拡大。「山内かぶら」は集落のシンボル
最初はひとりの生産者さんが栽培していた「山内かぶら」ですが、村おこしを目的に栽培が始まったのは平成22年です。当初は自然交配していたので、形も悪く誰も見向きもしてくれませんでしたが、味には自信がありました。日本料理店やフランス料理店に飛び込みで訪問して、味を知ってもらいながら徐々に販路を拡大。今は『山内かぶらちゃんの会』のみんなで積極的に県や町のイベントに参加し、「山内かぶら」を広めています。
「山内かぶら」が集落に活気をもたらす
「山内かぶら」は味が濃厚で、辛みと甘みを併せ持っています。この特長を活かすべく、みんなで新しいメニュー・商品開発について話し合っています。今後は廃棄していた間引き菜を使った商品も開発予定。試行錯誤しながら新しい商品を開発していきたいです。
私たちの集落では家の近くに田畑があり、高齢者が楽しみながら米や野菜、花づくりができる環境です。特に『山内かぶらちゃんの会』は、91歳を筆頭に80代、70代が元気に活動しています。生涯現役で活動できることの好例で、地域の大切な魅力です。
6次産業化賞(横石知二委員ー(株)いろどり代表取締役社長)『農業生産法人 有限会社 伊盛牧場』
リゾートアイランド・石垣島で6次産業に挑戦
沖縄県石垣市にある『農業生産法人 有限会社 伊盛牧場』が今回、特別賞をいただいたのは「石垣島での6次産業化」の取り組みです。
私たちは耕作放棄地も活用して、乳用牛を100%自家生産の牧草で育成しています。ほかにも廃用牛の精肉利用や、地元農家と連携した規格外果樹のジェラートやジャム製造を通じて、6次産業化を図ってきました。豊富な地域資源の最大限有効活用のほか、女性の活躍推進、石垣島の知名度向上の取り組みも実施しています。
6次産業で地元が潤えば、1次産業のアピールにもなる
地産地消や自給率の向上は、地域経済の潤いに欠かせない要素です。人材、土地、農作物、畜産物の連携が重要で、地元農家の連携強化がカギになります。とくに牧草は石垣島の環境に合う作物なので、その自家栽培は継続・安定的に取り組みたいと考えています。
最近は話を聞きたいと来島する若者も増え、自分たちの農業に希望が持てるようになりました。農業につきまとう3K(きつい、汚い、かっこ悪い)のイメージを覆すきっかけになればと願っています。
島の理にかなった事業が関心の的に
石垣島は景観が美しく、牧草畑の眺めは絵になります。海から吹く風が運ぶ塩分も牧草のミネラル分になり、暖かな気候から多毛作も可能です。作物に降り注ぐ太陽光にはパワーがあり、牛には暑さが堪えますが、おかげで暑さに強い牛の育成が実を結びつつあります。
ジェラートを買いに来たお客様も「新聞見たよ!」「こんなこともやっているのですね」など、興味関心を持って声をかけてくれて、石垣島の農業に関するコミュニケーションが増えているのは、本当にうれしい変化です。