TOP写真:新鮮な魚介や希少な和牛、特産の野菜が人気の物産直売所『あぶの旬館』
道の駅の制度が始まった年にオープンした、山口県の『道の駅阿武町』。当時と同じく新鮮な魚介の販売は、今も道の駅の人気の理由だ。キャンプ場など新たな取り組みに挑戦し、『道の駅阿武町』は進化を続けます!
道の駅発祥の地、進化する『道の駅阿武町』!
元・漁協職員だからこそできる、漁師と連携する仕組みづくり。
道の駅が誕生したのはいつだろうか?答えは、1993年。第1号として登録された道の駅は全国に103か所あり、『道の駅阿武町』もその1つ。駐車場に建てられた時計台にも、大きく「全国道の駅発祥の地」と銘打たれている。ただ、「発祥」を名乗る道の駅はほかにもある。『道の駅阿武町』の発祥の根拠はこうだ。
1990年に広島県広島市で開催された「中国地域まちづくり交流会」のシンポジウムの、NPO『地域交流センター』代表で阿武町出身の故・田中栄治氏が進行役を務めた座談会で、パネリストの故・坂本多旦氏から「鉄道に駅があるように、道路にも駅があってもいいのではないか」といった発言があった。その言葉がきっかけで、91年と92年に道の駅事業の社会実験が行われ、阿武町も参加したことが、「発祥」の根拠になっている。
「仮設テントを張り、農産物を販売したり、餅つきイベントを行ったりして、利用者のニーズを調査しました」と、当時は漁業協同組合の職員だった『道の駅阿武町』支配人の田中満介さんは振り返る。その後、特産品直売所や食堂、温泉をオープンしたり、公衆トイレを設置したりして、93年に正式に道の駅として建設省(現・国土交通省)に認定された。「その少し前の88年に、『ふるさと君』という移動販売車を町が購入し、『阿武町産業開発協会』(農業協同組合、漁業協同組合、森林組合)が運営して、町の特産品を山口県内各地で販売していました。それをヒントにして、社会実験でも町の特産品や農産物を売りました。そこから今の直売所に発展していったのです」。
今年で30周年を迎えたが、長く続ける秘訣を伺うと、「そんなものはないですね。誠心誠意やるだけです」と笑う田中さん。「いいものをできるだけ安く売ること。ここは魚が一番の売りですから、時化があっても新鮮な魚を並べるよう努力しています。地元の漁師さんと連携して、その仕組みを確立できていることは、秘訣といえば秘訣かもしれません」。
元・漁協職員だった田中さんだからこそできる漁師との連携。そんなふうに、地元住民とのつながりや信頼関係を築くことは、道の駅の持続的な運営に欠かせないに違いない。
キャンプ場が入口になって、阿武町の魅力を体験する。
『道の駅阿武町』には、海に向かって開けた爽やかなキャンプ場がある。『ABUキャンプフィールド』だ。
もともと漁業関連の施設があった場所だが、利用されていないスペースもあったため、町民に有効活用のアイデアのアンケートを取り、要望が多かったキャンプ場の整備を行ったそうだ。
2022年3月にオープンしたキャンプ場のコンセプトは、「キャンプを目的としないキャンプ場」という謎かけのようなもの。その心をマネージャーの矢田英和さんに尋ねると、「キャンプだけではなく、阿武町を丸ごと楽しんでほしいという思いを込めた言葉です」と答えた。
思いを象徴するのが、体験プログラム。たとえば、「無角和種堪能ツアー」。和牛4品種のうち、唯一角が生えない無角和牛(無角和種)は山口県で約200頭しか飼育されておらず、和牛全体の0.01パーセントという希少さと、サシの入らない赤身の味わいが特徴だ。その無角和牛のおいしい焼き方を教えてもらい、各自のサイトで実践し、さらに翌日のチェックアウト後には牧場へ出かけ、無角和牛を見学するツアーを行っている。
ほかにも、海に潜って特産のサザエを採る「一日海士体験プログラム」や、山で行う「チェーンソーでスウェーデントーチ作り体験!」など楽しいプログラムを用意。「阿武町の一次産業や住民の暮らしぶりに親しむことで、関係人口や移住を考える人が増えてくれたらうれしいです」と、キャンプ場が入口となって阿武町の魅力を広く、深く知ってもらえるような新しい取り組みに挑戦している。
支配人の「推し」は、定置網の朝獲れ鮮魚!
道の駅の売り上げの半分以上は鮮魚です」と田中さんが力を込めて言うように、『道の駅阿武町』の「推し」は魚だ。新鮮で安い魚を目当てに、広島市や北九州市といった遠方からもお客が訪れ、週末は開店前に行列ができることも珍しくなく、入店制限をするときもあるという。
「江戸時代から伝わる網代(魚が通る道)に定置網を仕掛け、ブリやヒラマサ、アジやイカなどを獲ります。地元の漁師さんと連携し、朝6時頃に獲れた新鮮な魚をパックして開店前に運び込み、漁師さん自身が値段をつけて売ります」とのこと。道の駅がオープンした30年前からこのやり方で売っているそうだが、その値段がまた安い。今朝獲れたアジは9匹で500円! 「これ、買わにゃ」と田中さんは魚を吟味するお客に勧めていた。
阿武町で獲れた魚は、漁師めしが自慢の『うぉっちゃ食堂』でも食べられる。「『うぉ』は魚、『ちゃ』は山口弁で語尾につける言葉です」と店名の説明をしてくれるのは、店主の宮川直子さん。宇部市の出身で、祖父母が阿武町に住んでいたため、子どもの頃の夏休みなどに遊びに来ていたそうだ。「祖父が一本釣りの漁師だったので、よく船に乗せてもらって釣る姿を見ていました。釣った魚は祖母が捌いて刺し身にしてくれたり、漁師めしをつくってくれたりして食べていました。おいしかった!」と思い出す。その味を伝えたいと阿武町に移住し、3年前に『うぉっちゃ食堂』を始めた。
「漁師めしを召し上がって、おいしかったら道の駅の魚も買ってください」と宮川さん。阿武への愛があふれる漁師めし、ぜひ、味わってみて!
『道の駅阿武町』で、ローカルの豊かさを知るおすすめ商品!
『道の駅阿武町』・田中満介さんの、道の駅を楽しむコンテンツ。
TV:魚が食べたい!〜地魚さがして3000港〜
全国津々浦々の漁港を、魚が大好きなディレクターが訪れ、獲れた魚を見せてもらったり、地元でしか食べられない地魚を料理してもらったり。「一魚一会」の旅が楽しめます。どんなふうに魚を食べたらいいかなどを参考にしています。
YouTube:風まかせ 道の駅シリーズ
この番組に限らないのですが、YouTubeで道の駅を訪ね、地元の特産品を紹介したり、施設やサービスを詳しく説明したり、車中泊の様子をレポートしたりしている番組はチェックします。各地の道の駅に行った気分になれて楽しいです。
Newspaper:はぎ時事新聞
山口県の萩市や阿武町地域のローカルニュースを掲載する週刊の新聞です。地域との関わりを大切にしている道の駅を運営するうえでも、地域で起こる日々の出来事はしっかり知っておかなければいけません。道の駅もよく掲載されます。
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。