著者は映画批評を専門とする学者である。料理本を批評する、という新たなジャンルを開拓した前作『食べたくなる本』でぼくは彼を知り、映画批評家なのに食の、料理本の本? と訝しげな気持ちでページをめくってみると、たちまち彼の世界観に引き込まれ、夢中になって読み耽ったのを覚えている。
今作はアメリカの食、それもLAの食に関する本だという。映画の都・ハリウッドへ映画研究のため家族総出で1年間移住した筆者が体験する画一的な味のするアメリカンフード、そして多種多様な人種が暮らす街LAのコリアンフードやメキシカンフードなどの奥深い食の魅力。筆者が毎日のように味わうLAフードと共に、日々の生活のなかで遭遇する生活習慣や文化の違いから見えてくるのは、食を通じて浮かび上がるアメリカの貧富の差や多様性だ。LAではさまざまな人種が各々のコミュニティで暮らし、祖国の料理をつくり、食べる。そうした単一人種の連なりが多様性を生むいっぽう、画一的なファストフードも大味なトマトケチャップもまた個性であり、そうした貧しい食を包括することも多様性を理解することであると彼は説く。食から昨今の社会問題が浮かび上がってくる。とても稀有な本だと思う。
『LAフード・ダイアリー』
著者:三浦哲哉
出版社:講談社