「おかあさん」を読む。
今回紹介するリトルプレスは、「普通に読める日本語の雑誌」を標榜する『トラベシアVol.3』。
1号は「顔」、2号は「労働」を特集し、今号の特集は「おかあさん」。
『トラベシア』には、発行者の鈴木並木さんが、映画作家、映画監督、看護師、ホステス、音楽家、会社員、イラストレーター、配達ドライバーなど、有名無名を問わないさまざまな顔ぶれに声をかけ、テーマに基づいて、エッセイ、フィクション、コミック、インタビューなどを収めている。
テキスト中心の誌面ながら、それぞれのテキストに呼応するように、ページレイアウトやデザインが施され、読者を飽きさせない。
ハイヒールでキッチンに立つ「おかあさん」にインタビュー。
16歳から2歳までの5人の子どもを持つ、目まぐるしいであろう毎日を、「おかあさん」はどんな風に過ごしているのか、写真とともに紹介されている。
そこには、読む前になんとなく想像する「おかあさん」像ではなく、興味深く、個性的な一人の女性が見える。
earとyearの発音の違いを、英語のネイティブではないにもかかわらず、苦労もなく区別できる姉妹は、幼少の頃の「おかあさん」の読み聞かせにあったことに気づく。
自分でやっているレコードイベントに母娘で来てくれたお客さんに、つい「もう大きな娘さんを誘ってはいけませんよ。仲良し親子の愛の繭は共依存につながり……」と余計な説教を垂れてしまう、いい加減、「おかあさん」の説教を忘れてしまいたい息子。
「あんたほんまぶちゃいくやなあ」が母親の口癖だった女性。美人だった母親に植え付けられた「コンプレックス」とつき合いながら、ホステスという職につき、日々を過ごす。
ガールスカウトのリーダー、保護司でもあり、2人の息子の母でもある女性について、漫画によるレポートとインタビューが掲載されている。栄養士から保護司になった経緯や、その活動。また、男の子2人の子育てのエピソードなど。
22の記事に22人以上の「おかあさん」が登場し、それぞれの姿を垣間見せてくれる。その多様性は予想以上のものだった。
まず、「おかあさん」の特集と聞いて、違和感があった。「おかあさん」という言葉には「女性」を枠にはめ込む価値観がつきまとう。
今回の『トラベシア』に登場するさまざまな「おかあさん」は、たくましく生きる「女性」でもあり、生きにくさを持つ「女性」でもある。
自分自身にある「社会的な役割」についての思い込みや、偏見について改めて考えてみたい。
『トラベシア』編集・発行人から一言
なるべく役に立ちそうもない、ただ読んで楽しいだけの文章を集めた雑誌があったらいいな、と思って創刊しました。毎回たくさんのみなさんの力を借りて、贅沢な遊びをさせてもらっています。創刊号「顔」は完売品切れ、第2号「労働」は好評発売中です。
今月のおすすめリトルプレス
『普通に読める日本語の雑誌 トラベシア Vol.3』
編集人の人選でつくられた、日本語で読むための雑誌。
編集・発行:鈴木並木
2018年6月発行、148×210ミリ(82ページ)、540円