霧の子供たち

連載 | リトルプレスから始まる旅 | 93 霧の子供たち

霧の山里で感じる人の気配。


 今回紹介するリトルプレスは、宮脇慎太郎写真集『霧の子供たち』。


 日本三大秘境の一つとされる徳島県三好市・祖谷の風景とそこに生きる人々を、宮脇さんがカメラで記録した作品集。


 祖谷は、地図上では四国の中心に近い場所。大歩危小歩危に近く、四国を横断するように流れる吉野川水系の一つ、祖谷川が削った峡谷にある集落。


 平家落人伝説で知られ、四国最深部の天空の集落ともいわれている。


 この祖谷に通い続け、撮影した写真を「祖谷の光編」「祖谷の人編」の2部構成にしてまとめている。


 タイトルに「霧」とあるとおり、表紙の写真は、雪の見える谷間が霧に覆われた様子。遠景から近景まで霧によるグラデーションが、光沢を持っているようにさえ見える。


 よく見ると、谷底には道路が走り、山肌の木々には人の手が入っていることを感じさせる。神秘的な風景の中に人の気配がある。


 「祖谷の光編」のページをめくると、晴れた景色の中、電線に積もった雪が落ちて舞う様子が見られる。さらにめくると、曙光に包まれる山々、そして、霧の中の集落が現れる。


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 古くから生活を営む姿は、家紋や墓地などとしても収められている。共に生き、また死と共にある動物たち。切り立った廃村へ続く道(巨大な切り通し)、茅の束、樹齢800年ともいわれる巨樹・鉾杉、神社の境内、祭りの様子。


振り返る落合集落の子どもと百手祭りの的。
振り返る落合集落の子どもと百手祭りの的。

 「祖谷の人編」は、少年たちの化粧と衣装から始まり、祈りを捧げる女性、日々の暮らしの風景、霧の中こちらを見つめる人影、家族の写真、タバコ休憩の男性など、祖谷に暮らす人々の表情が収められている。


 「祖谷の光編」で捉えられた光は、祖谷でしか捉えることのできない美しい光。その美しさは、どこか人の気配を感じさせることから醸すもの。


 「祖谷の人編」で被写体となった祖谷の人たちは、どこか優しい、柔らかさを感じる。


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 これらのことは、写真を撮る宮脇さんそのものを写しているように思える。


 カメラは光を捉えるものだが、撮影者の手によって時間と空間を切り取ることによって、撮影者そのものを写す鏡にカメラがなっていく。


 写真集『霧の子供たち』を見ることで僕は、宮脇慎太郎になり、祖谷を歩き、祖谷の人に会うことできたように思う。


『霧の子供たち』著者から一言 


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 この写真の子どもたちも今は高校生となり、祖谷を出てしまいました。しかしいまだ変わらぬ人々の営みが、この地にはあります。今回、旅先でも手に取りやすいハンディなサイズで、バイリンガル版として作製しました。ぜひこの本をバックパックに突っ込んで、祖谷渓谷を旅してみてください。


今月のおすすめリトルプレス


『霧の子供たち』


『霧の子供たち』


 徳島県三好市・祖谷の風景と、そこに生きる人々を記録した作品集。


著者:宮脇慎太郎
発行:サウダージ・ブックス
アートディレクション:納谷衣美
2019年11月発行、148×210ミリ(108ページ)、2420円

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