一夜、いや2時間限り。最先端のテクノロジーによってつくられた幻想的なひと時が、もたらしたもの。
オリンピック・パラリンピックの開催が間近に迫る東京。スポーツにとどまらない、芸術文化都市としての魅力を伝えようという取り組みが、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京による、「Tokyo Tokyo FESTIVAL」だ。国内外から寄せられた2436件から選抜された13の企画は「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」と名づけられ、順次展開されている。その13企画のうちのひとつが、2019年11月16日の夜に行われた、『Rhizomatiks』企画制作・演出のイベント、「Light and Sound Installation “Coded Field”〜光と音が織りなす都市と人々の饗宴〜」。東京都港区の増上寺と芝公園を舞台に、事前申し込みによって当選した約2000名が参加して行われた、光と音によるパブリックアートプロジェクトだ。

Rhizomatiksとは、テクノロジーとアートの新しい可能性を探求し、誰も見たことのないモノを世の中に発表し続けている、アーティスト集団でありエンジニア集団。今回も、一般的にはなかなか体験する機会に恵まれない、最先端のテクノロジーを取り入れた体験型のインスタレーションを披露した。
当日、敷地内を自由に回遊する参加者が体感したのは、一部のバルーンだけが同色で光ったり、静寂の中で一斉に音が発信されたりするものだった。参加者自身が手にするバルーン型のデバイスから発せられる、光と音によってつくられた幻想的なひと時。

だがその美しさは実は、Rhizo matiksがすべてのデバイスをコントロールすることによって、実現させたものだった。今回取り入れたのは、最先端の位置測位技術。位置測位といえば、地球上の現在位置を人工衛星からの電波で測るGPSが一般的だが、これは常に数メートルの誤差が生じるため、正確とは言い難い。しかし今回、GPSに加え、「みちびき(準天頂衛星システム)」なども併用させることで、より精度の高い位置情報を取得。また増上寺の大殿前を動くロボットには、RTK-GPSを採用。誤差を数センチメートル内に収める技術で、この緻密さで安定的に位置測位が実現できれば、完全自動運転やドローンによる無人配送が可能になると注目を集めている。

とはいえ、技術をはじめとしてこれまでにない新しさを取り入れていく場合、賛否がつきまとう。自動運転であれば、「便利になっていい」「安全は本当に確保されるのか」といった具合だ。けれどもあの夜、Rhizomatiksが、頭で考えるのではなく心で感じるアプローチでもたらしたものは、不安や恐れではなく、喜びや驚き。はじめて目にする美しさに感嘆する参加者の姿こそが、近未来への期待そのもののように見えた。