2022年6月25日、愛知県豊田市にある「トヨタの森」で、小学生やその家族を対象にしたイベントレポート。
野生のシカ肉を食べることが、 温室効果ガスの削減につながる?
「牛がげっぷするの?」と子どもたちからは笑顔も見られたが、実はメタンガスの温室効果はCO2よりもはるかに大きいと言われている。海外からのエサの輸入や糞尿処理も含め、畜産に伴う温室効果ガスの排出は深刻な課題なのだ。
そこで注目したいのが、シカ肉などのジビエ肉。自然のなかで生きる野生動物ではあるが、棲息環境の変化によって、人里に下りてきて畑の野菜を食べてしまうため捕獲されているが、その大半が廃棄されている現状があるという。またCO2排出でみると、獲ったジビエ肉は、飼料を与え、遠くから船やトラックで輸送されて私たちの手もとに届く牛、豚、鶏肉と違い、CO2の排出を幾分抑えることができる。
一方、カーボンニュートラルとは、人間の活動によって排出されるCO2などの温室効果ガスの量を、環境技術を用いたり、ライフスタイルを変えたりすることで減らしつつ、森林保全など環境活動に取り組むことで吸収量を増やし、プラスマイナスゼロにすること。「牛肉や豚肉を減らし、シカ肉を食べる機会を増やすのもその一環です」と國友さんは話しながら、野生動物が暮らす「トヨタの森」の森歩きへと参加者をいざなった。
森を歩き、生き物とふれあう。 シカ肉を食べ、獣害を考える。
シカやイノシシを撃つ狩猟も、昔から受け継がれる生業の一つだ。森歩きを終えた参加者は、豊田市足助地区などで狩猟を行い、そのジビエ肉を提供する山里カフェ『Mui』を営む清水潤子さんの狩猟体験やジビエ肉の取り組みに耳を傾けた。
「シカやイノシシが増えた理由のうち一つ挙げるなら、棲息環境の変化です。手入れがされずに森が荒れることで獣が棲みにくくなると同時に、侵入しやすい里の田畑ではおいしい野菜や果物が食べ放題。高齢化と後継者不足によって生じる耕作放棄地も獣のかっこうの隠れ場所。そんな里に罠を仕掛け、山で銃を撃ってシカやイノシシを仕留めています。けれども、本当は人と獣が棲み分けられる環境を取り戻し、私の仕事がなくなることが夢であり、目標です」と語った。
忘れてならないのは、仕留められたシカやイノシシの約9割が廃棄処分されている事実。「尊い命はきちんといただく。シカ肉も野菜も、残さず食べてくださいね」と子どもたちに語りかけ、清水さんが仕留めたシカの挽き肉でハンバーグを家族みんなでつくり、「トヨタの森」の手入れで出た薪をくべた窯で焼き、「いただきます」と山や里の恵みに感謝しながら、シカ肉ハンバーグや規格外野菜を使ったスープを完食した。
ワークショップで得た気づき。 みんなの「宣言」を実践しよう!
「シカ肉もそうですが、どんな肉や野菜を選ぶかによってCO2などの温室効果ガスの排出を減らすことができます。たとえば」と、インタープリターの小出恭章さんがクイズを出した。「国産の豚肉と、アメリカ産の豚肉。温室効果ガスを減らすにはどちらを選べばよいでしょう?」。
輸送のことを考えて、参加者のほぼ全員が「国産の豚」に手を挙げた。ところが、小出さんはこう解説する。「豚を育てるためにはたくさんのエサが必要で、エサ用トウモロコシはアメリカなどから輸入しています。豚肉1キログラムを生産するのにエサは6キログラムも必要。おや? 船で豚肉を1キログラム運ぶのとエサを6キログラム運ぶのとでは、エサのほうが多くのCO2を排出してしまいます。つまり、アメリカのエサで育ったアメリカ産豚肉を輸入したほうが、カーボンニュートラルな暮らしに近いとも言えるのです」。もちろん単純に試算した結果だが、参加したある家族の父親は、「食材のつくられ方をよく知ってから買わなければという気づきを与えられました」と答えた。
ワークショップの最後には、参加者が一組ずつ「宣言」を発表。小学生の男の子は「猟師になりたい!」と宣言し、会場を和ませた。「トヨタの森」も取り組むSDGs(持続的な開発目標)の目標年は2030年だが、子どもたちが環境活動に従事するのはそれ以降かもしれない。「子どもたちが『宣言』を実践し、SDGsを超えてまさに持続的に活躍できる場を、私たち大人が整えていかなければ」と清水さんは参加した大人たち、さらには読者の皆さんにメッセージを呼びかけた。
豊田市市街地から約8キロ。矢作川と巴川に挟まれた丘陵地帯に広がる「トヨタの森」は、1997年にオープンした、まちのそばの大自然です。総面積約45ヘクタールの広大な敷地は、多種多様な動植物のかっこうの住処であり、コナラやアベマキなどを中心とした雑木林の谷部には水田跡もあり、かつて生活に必要だった薪などを採取していた、いわゆる里山として利用された森です。誰もが自由に散策でき、インタープリターが案内し、生命の尊さや多様性が学べる自然体験プログラムや、大人も子どもも心に残る楽しいイベントも多数開催しています。
公式サイトはこちら。
text by Kentaro Matsui photo by TOYOTA