うまい肉で本能を呼び起こせ!『ドットコミュ』が、山と街をつなぐ。

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自称「ジビエ肉を使ったエンタメ集団」。エンタメと名乗ってこそいるが、彼らの肉は本物だ。ジビエを家庭へ届ける、そして、地球規模で楽しませる──そんな壮大な夢を掲げる『ドットコミュ』の二人に話を聞いた。

元・格闘家の男たちが届ける「本物のジビエ」


「日本でおいしいジビエを食べたことのある人はまだまだ少ない」。そう語るのは、広島を拠点にジビエの加工・販売を行う野村俊介さんと中山浩彰さん。彼らはともに元・格闘家であり、2016年4月に『ドットコミュ』として活動を始めた。二人によれば、おいしいジビエの条件は獲った後の「適切な処理」。そこから加工・販売までいかに品質を落とさず保てるかも重要だ。


野村さんは「『ドットコミュ』には信頼できる仲間たちの“顔の見える”一貫したルートがあります。だから、本当においしいジビエを食卓に届けることができるんです」と言う。


ジビエを仕入れるべく、解体処理場がある東広島市へ向け車を走らせる。30分ほど走ると、景色は山ばかりに。
ジビエを仕入れるべく、解体処理場がある東広島市へ向け車を走らせる。30分ほど走ると、景色は山ばかりに。

ジビエに対して「獣臭い」「硬い」というイメージを持つ人はいまだに多い。しかし、それは「処理がへたな肉」。とどめの刺し方や血抜き、解体などの処理が適切なら、ジビエは本来おいしいものなのだそうだ。


そもそもジビエとは、狩猟で得た鹿や猪、野鳥などの野生の鳥獣の肉を指す。猟で仕留められた、あるいは罠にかかった獣は、資格を持った食肉処理業者の元で解体される(※販売用の肉の場合。個人的に楽しむ場合は、食肉処理の資格がなくても解体できる)。


しかし日本では猟師や食肉処理業者の技術にばらつきがあり、処理の甘いジビエが流通するケースも少なくないそうだ。


『ドットコミュ』で扱うジビエは、自分たちか、もしくは信頼できる友人の猟師が仕留めたもの。彼らは食肉処理の資格も持っているため、獲って解体までが素早く適切に行われる。だからこそ、新鮮かつ良質な肉が手に入る。


一番左が保村晃さん、左から2番目が和泉川健太郎さん。ともに猟師であり食肉処理を担当する『東広島ジビエセンター』のメンバー。
一番左が保村晃さん、左から2番目が和泉川健太郎さん。ともに猟師であり食肉処理を担当する『東広島ジビエセンター』のメンバー。

友人の猟師とは、食肉処理業『東広島ジビエセンター』の代表を務める和泉川健太郎さん。和泉川さんは『ドットコミュ』の二人の狩猟の先輩でもある。


『ドットコミュ』とジビエセンターを同時に立ち上げ、和泉川さんが獲った獲物を『ドットコミュ』が仕入れるというルートを作ったことで、二人は販売に専念し、活動を拡大することができた。


「役割分担ですよね。僕たちも猟に出るけど、どちらかといえば街に出てジビエを『売る人』。和泉川さんたちは山で獲物を獲り、肉を手に入れてくれる『獲る人』かな。僕たちが街で販路を開拓することで、和泉川さんたちが獲った肉も無駄なく活きるんです」と、野村さん。


血抜きや内臓の処理が済んだ獲物の皮を手際よくはいでいく。
血抜きや内臓の処理が済んだ獲物の皮を手際よくはいでいく。

うまいジビエは「滾たぎる」。


二人が狩猟に出合ったのは4年前。野村さんが知り合いに誘われ、中山さんと一緒に狩猟に参加した。中山さんはそこで、狩猟に「人間の原点」を感じたという。


「山の中で獲物を追い、仕留め、さばき、そして食らう。全部が新鮮でした。うまいジビエを食うと体温が上がって『滾る』感覚がする。それに高タンパク・高鉄分・低カロリーで栄養面も申し分ない。『うまいし筋肉にもいいし、最高じゃん』と思って、狩猟にのめりこみました」


こんなおいしいもの、自分たちだけで食べていてはもったいない。そんなシンプルな気持ちから、仲間に振る舞うジビエパーティも開催するようになった。しかし、規模が大きくなるにつれ、壁にぶつかる。


「『個人的に楽しむ』という規模じゃなくなってきたんですよね。ここできっちり食肉処理の資格をとって、ジビエを商売にしようと決意しました」と野村さんは語った。


『ドットコミュ』では1頭単位でジビエを仕入れる。仕入れ後は冷蔵庫で数日〜数週間保存し、最もよい状態で出荷できるよう寝かせておく。
『ドットコミュ』では1頭単位でジビエを仕入れる。仕入れ後は冷蔵庫で数日〜数週間保存し、最もよい状態で出荷できるよう寝かせておく。

転機となった「ジビエ惣菜」。


その後、広島市内に物件を借り、2016年4月に食肉処理室と調理室、店舗を兼ねた活動拠点『ドットコミュ』をオープンした。はじめは飲食店向けのジビエの卸と、ネットショップでの肉の販売から始めた。ただし、一般向けの売れ行きはいまひとつ。


「ジビエは牛や豚の肉に比べて加熱にコツが必要で、生のままだと素人向きの食材ではなかった」と中山さん。それに気づいた二人は、ジビエの惣菜に注力し始めた。


猪リエットを振る舞ってくれる野村さん。
猪リエットを振る舞ってくれる野村さん。

テリーヌとリエットに始まり、生ソーセージやカレーまで……惣菜はすぐに『ドットコミュ』の看板商品となった。特に、広島の人気店のシェフや料理研究家と共同開発したメニューは人気が高い。まわりの人にも助けられながら、『ドットコミュ』のジビエは人気を集めていった。


鉄のフライパンで猪肉を焼きはじめると、あたりにジューシーな脂の香りが漂う。
鉄のフライパンで猪肉を焼きはじめると、あたりにジューシーな脂の香りが漂う。

総合格闘技「修斗」の道場で出会った二人。格闘家歴は15年と、狩猟歴よりも、ずいぶん長い。そんな二人にとって、格闘技と狩猟、何か通じるものはあるのだろうか。


「狩猟も、まさに”闘い〝ですよ。罠にかかった鹿はまだ生きている。とどめを刺そうとすると全力で暴れます。命のやりとりですね」と、中山さん。


私たちが普段食べている肉も、同じように動物を殺し、解体したもののはずだ。しかし、スーパーの精肉売り場に並ぶパック詰めされた肉には、「死」のイメージはどこか希薄だ。その言葉に野村さんは頷いた。


「狩猟を始めて以来、命への感覚は変わりましたね。彼らを殺す以上は、最大限においしい肉としてお客さんへ届けたい。『殺して活かす』ことを考えています」


生物として当たり前の営みのはずが、街で生きていると『命をいただいている』感覚は、なぜか鈍ってしまう。ジビエを通じて、二人は人間の本能を取り戻しているのではないだろうか。


日課の筋トレ「綱登り」。腕の力だけで上り下りする。筋トレは歯磨きと同じで「忘れると気持ち悪い」のだそう。
日課の筋トレ「綱登り」。腕の力だけで上り下りする。筋トレは歯磨きと同じで「忘れると気持ち悪い」のだそう。

単純に自分たちが楽しいから、人を楽しませたいからと始めたことが、いつしか仕事へと変わった二人。『ドットコミュ』という屋号には「ジビエを通して人とつながる」という意味が込められている。猟師や料理人、街の人たち……さまざまな人を巻き込みながら活動を広げてきた二人らしい名前だ。


野村さんは、猟師の世界に正直、閉鎖的な面も感じるという。彼らは山の、自分たちは街の感覚で生きている。ジビエが未だにマイナーな存在である理由は、両者の間にある距離のせいではないかと。


だからこそ二人は山と街という価値観の異なる世界をつなげて、ジビエをもっとポピュラーな存在にしようと奔走している。その原動力は思想めいたものではなく、「人を楽しませたい」という彼らの本能なのだろう。「地球規模で面白いことをしたいんです」と笑う二人から、今後も目が離せない。


「最近忙しくて、久しぶりの綱登りだからきつかった……」と、ひと休みする野村さん。
「最近忙しくて、久しぶりの綱登りだからきつかった……」と、ひと休みする野村さん。

『ドットコミュ』代表・野村俊介さんと中山浩彰さんのおいしいごはん三か条


一 そこに魂がこもっているか?


どこかの工場で大量に作られるコンビニ弁当には魂がない。人の手がかけられて育った素材、作られた料理には魂がある。


二 出来立てが一番。


獲れたて、焼き立て……何でも「出来立て」が一番ウマい。もう一度言いましょう、こめられた魂の鮮度が違う。


三 「整える」食事をせよ。


雑な食事をすれば、体と心が乱れる。体にいいものや顔の見える食材を食べて、自らを整えよ!


山ごはん、海ごはんをおいしくするキーワード


“近いものを合わせる”


赤身の鹿肉には赤い野菜や赤ワインを、広島産のジビエには広島で採れた野菜を合わせる。「近いもの」を合わせると、いっそうごはんはおいしくなる。

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