食材をモザイクアートのように盛り付けた色鮮やかなケータリング料理。 調理音を楽曲にするライブパフォーマンス「EATBEAT!」。斬新な発想で食の風景を彩ってきた堀田さんが考える“ごちそう”とは?
地域の「落ちこぼれ」食材を、「スーパースター」に変えていく。
都会と地方を行き来する、料理人にできること。
20代の頃は普通にレストランのキッチンで働いていました。でも、FAXを送ると食材が届くという毎日のルーティンに飽きてしまったんです。食材が生まれる現場に興味を抱き、地方の生産者の元に通いはじめました。都会と地方を行き来する中で、地方には魅力があるのに埋もれている食材がたくさんあること、そうした食材を見つけて紹介することが自分のやりたいことだと気づき、 独立して「料理開拓人」と名乗って活動するようになりました。
活動のひとつに、調理音をその場で録音し楽曲にするライブパフォーマンス「EATBEAT!」があります。産地で録った音に、野菜を切る音やお客さんが食べ物をかじる「カリッ」という音などをミキシングして加えていく。そうして一体感を高めた後で生産者や素材について紹介すると、お客さんの食いつきが全然違うんです。「楽しい、おいしい」を基点に興味を持って、食材のファンになってくれるんですね。こうしたイベントやケータリングのほか、ベーカリー『foodscape!』『foodscape!STORE』やカフェ『Smørre brød KITCHEN(スモーブローキッチン)』などのお店をプロデュースし、全国で出会った信頼のおける生産者さんの食材を調理して提供しています。
誰も見たことのない、食の風景をつくり出す。
今まで出合った食材の中で印象に残っているのは、兵庫県・淡路島のサメです。サメはほかの魚を捕るため仕掛けた網にかかってしまい、漁師さんを困らせていました。ずっと捨ててきたけれど、どうにか商品化できないか。そう相談を受けて淡路島を訪問しました。サメの身には尿素が含まれていて、生のまま日を超えると強烈なアンモニア臭を発して食べられたものではありません。そ こで、この尿素を取り除く方法を地元の水産加工会社と研究して編み出しました。そうしてサメの身をフライやソテーにして食べてみると、めちゃくちゃおいしかったんです。感動しました。でも、普及するにはまだハードルがあります。生活者に「サメはおいしいもの」と認知してもらえるようにイベントを行い、パッケージを新しくデザインする。漁師さんには、「サメは商品になる」という意識を持って、ほかの魚と同じようにていねいに扱ってもらう。生産者と生活者、両方の意識を同時に変えないと、需要と供給のバランスが成り立ちません。計画を立て、さまざまな人を巻き込み、意識を変えていく。それが僕の仕事ですね。
「ローカルフード」というと、その土地で脈々と受け継がれてきた伝統料理や伝統野菜をイメージするかもしれません。それらはいわば、ローカルフードのスーパースターたち。僕が興味を抱くのはそこではなく、落ちこぼれの食材たちです。お金にならない、知名度がないので都会には流通しないし、何なら地元でもあまり価値を見出されていない。でも、その中には、少し手を加えるだけで”ごちそう“に変身するものがあるんです。落ちこぼれだった食材が、数十年後、数百年後には伝統料理に、ローカルフードのスーパースターになっているかもしれません。そこに「料理開拓人」としておもしろみを感じています。
ありがたいことにさまざまな地域から相談をいただいていますが、受けるかどうかの判断材料はふたつあります。ひとつは、その生産者さんたちと、仕事がなくなってもつき合っていきたいかどうか。すごい技術を持っているとか、無農薬にこだわっているとか、そういうことよりも人間性や信頼性が重要だと思っています。ふたつめは、そこで釣りができるかどうか(笑)。釣りを通してその土地の自然環境や生態系がわかるし、地元の人と釣りをすることで会議室では出てこない素の情報が聞き出せるんです。子どもの頃からの趣味が、仕事にもつながってきました。おもしろいことを考えている人たちと一 緒に、自分自身も楽しみながら、誰も見たことのない食の風景をつくり出す。これからもそんな活動をしていきたいと思っています。
料理開拓人・堀田裕介さんのおいしいごはん三か条
一、その土地の食材を使う。
魚も野菜も果物も、産地で食べるとやっぱりおいしい!地方イベントでは必ずその土地の食材をリサーチ。
二、和やかで気持ちのよい雰囲気をつくる。
「誰と食べるか」「どこで食べるか」が味を左右する。スタッフの接客態度、会場の雰囲気づくりに気を配る。
三、食べるまでの過程を大事にする。
空腹は最高の調味料!料理を食べてもらう前に視覚、聴覚、嗅覚、触覚を目いっぱい刺激してから提供する。
山ごはん、海ごはんをおいしくするキーワード
“裏側を知る”
生産者の情熱や生産方法、地域に語り継がれてきた食文化。「なぜこの土地でこの食が生まれたのか?」という裏側がわかるとおいしさは倍増!