いろいろな野菜が旬を迎える春。徳島県では、春に収穫されるにんじんの栽培が盛んで、この時期、全国で流通するにんじんのおよそ8割が徳島県産だそうです。格別に甘くてやわらかい徳島県の春にんじんについて、JA全農とくしま園芸部の方にお話をうかがいました。
端境期に収穫できるにんじんをつくりたい

徳島県を東西に流れる吉野川。秋から冬にかけて下流域の北側、板野郡を中心に大規模なビニールハウスが一面に並びます。太陽が当たるとキラキラ輝き、まるで銀色の波のようです。このビニールハウスで栽培されているのが、徳島県産「春にんじん」です。
徳島県では、3月から5月にかけて出荷される県産にんじんを「春にんじん」と呼んでいます。そのやわらかさと甘さはばつぐん! 年平均およそ4万トンが生産され、この時期のにんじんとしては日本一の生産量を誇っています。
そもそも徳島県は、北海道、千葉県に次ぐ全国3位のにんじんの生産地。にんじんは一年中店頭に並んでいるので、旬を意識しない人も多いかもしれませんが、夏に種をまいて11月から3月にかけて収穫する「秋冬(しゅうとう)にんじん」と、春に種をまいて7月から10月にかけて収穫する「夏にんじん」と、ふたつの旬があります。その端境期、3月から5月に収穫できるにんじんがつくれないか、という思いから始まったのが「春にんじん」の栽培でした。1957年頃のことです。
しかし秋冬にんじんの種まきを遅らせれば、収穫も自動的に遅くできるという簡単なものではありませんでした。
「露路栽培で種まきを遅くすると、にんじんが小さい苗の状態で冬を迎えます。そうすると暖かくなってくると花が咲いてしまい(春化現象)、にんじんとしては収穫できません。春夏にんじんの種まきを早くしても同じでした」
ビニールハウスで冬の寒さを防いで栽培
にんじんを苗の時期に寒さから守ることができれば、端境期に出荷できるのではないか。そこで思いついたのがビニールハウスの利用でした。ビニールハウスで寒さを避けて育てたところ、花が咲くことを防ぐことでき、無事に収穫することに成功します。
当初は、竹で組んだ枠組みにビニールをかけた中型のビニールハウスで、除草などの作業は地面に這うようにして行っていましたが、「もう少し楽な姿勢で作業がしたい」という生産者の声を受けて、内部で作業できる大きさのハウスを開発。骨組みも頑丈な鉄パイプになりました。ビニールハウスがトンネルのような形なので「トンネルハウス栽培」(以降ハウス栽培)と呼ばれるようになり、現在まで受け継がれています。


ハウス栽培は、収穫時期だけでなく、味の面でも大きな違いを生み出しました。一般的なにんじんに比べて、やわらかくて甘いにんじんができたのです。
「昔から『にんじん十耕』という言葉があります。種まきの前に10回は畑を耕して、土をやわらかくしたものです。今でも8回以上耕す農家さんがほとんどです。ただ徳島の土は粘土質なので、雨が降ると土が固く締まる傾向があります。トンネル栽培は雨が当たらないので、土はやわらかいまま。そのためにんじんがぎゅっと締まらずに育ちます。また乾燥状態で育つために旨みが凝縮され、甘みにつながっています」
現在、春にんじんの品種の主流は「彩誉(あやほまれ)」です。ハウス栽培を始めた当初は、春にんじんに適した品種を見つけるために試行錯誤を繰り返していました。今も、毎年新しい品種を試しており、少しでもおいしい春にんじんを届けようとする努力が続いています。
ビニールハウス内の温度調整に欠かせない「穴あけ」作業
春にんじんの栽培は10月半ばくらいからスタートします。耕した土に種をまき、ビニールハウスで覆います。まず支柱となる鉄パイプを1メートル間隔で立て、そこにビニールを被せますが、これが数人がかりの作業。ビニールをピンと張るにはかなり力が必要で重労働です。




その後、暖かくなってくると行われるのが「穴あけ」と呼ばれる作業です。
「ハウスの間を歩きながら開けていきますが、ここが農家の腕の見せ所。農家さんは自分の経験を頼りに、開ける穴の数や開ける時期を調整していきます」
三寒四温という言葉があるように、2月から3月頃は気温が変化しやすく、急に寒さが戻ってきて、一度開けた穴をふさがなければならないことも、まれにあるそうです。


収穫、そして出荷へ

140日から150日かけてゆっくりと育った春にんじんは、3月から収穫の時期を迎えます。収穫前にビニールハウスを撤去するので、それまで銀色だった畑が一面緑になり、まったく違う風景があらわれます。
ビニールハウスの設営は人力でしたが、収穫は完全に機械化されています。収穫機で青々としげる葉を引っ掛けて抜き、自動的に葉がカットされたにんじんが大きな袋に収穫されていきます。割れているものや生育不良のものは手作業で取り除かれます。


こうして収穫されたにんじんは洗浄、選別され、規格ごとに箱詰めされて消費者の元へ届けられます。
「にんじんは、規格に則って選別・出荷されます。また、毎年出荷の前に生産者が集まり、質やサイズの認識を揃える『目慣らし会』を行い、生産者によって規格が変わらないようにしています」
まず生で。熱を加えればより甘さが際立つ


やわらかさと甘さが特徴の春にんじん。どんな食べ方がおすすめなのだろうか。
「春にんじんは、野菜スティックなど『生』で食べていただき、その味や食感の違いを感じてほしいです。にんじんジュースも、そのおいしさをストレートに味わうことができると思います」
熱を加えればより甘さが引き立つので、「にんじんのきんぴら」や「にんじんしりしり」など、素材を生かした料理もおすすめだという。ジュースをつくった後に出るしぼりかすはカレーに入れてもいいし、小麦粉と混ぜて落とし揚げにしてもおいしくいただくことができます。
「全体に色味がよく、表面はなめらかでツヤがあり、皮に張りがあるものを選んでください」
4月12日は「徳島県にんじんの日」
2013年には、一般社団法人日本記念日協会に、4月12日が「徳島県にんじんの日」として登録されました。
「春にんじんが4月を中心に出荷されることと、4・1・2=よいにんじんの語呂合わせから、この日を記念日として登録していただけました。徳島県にんじん振興協議会とJA全農とくしまでは、『徳島県にんじんの日』を中心に春にんじんの消費拡大と知名度向上を目的に、試食会や生ジュースの試飲会など、いろいろなPR活動を展開していきたいと考えています」
さて、今年の春にんじんの出来はどうだったのだろうか?
「にんじんは収穫の1か月ほど前から大きくなります。3月以降暖かくなり、いいにんじんができることを期待しています。今年も例年通りの約4万トンの収穫を見込んでいます」
徳島県産の春にんじんのシェアは、全国平均で8割ほど。4月から5月は、特に関東地方への出荷が多くなります。知らないうちに徳島県産の春にんじんを食べている人も多いかもしれません。今年の3月から5月、にんじんを買うときには産地に注目! 徳島県産の春にんじんを選んで、生で、ジュースで、料理で、そのおいしさを存分に味わってほしい。
【全農とくしま・にんじんページ】
https://www.zennoh.or.jp/tm/farm/ssi/vegetable/ninjin.html
【料理レシピページ】
・人参のポタージュ
https://www.zennoh.or.jp/tm/farm/pdf/carrot_06.pdf