焼き鯖を使ったスープのラーメンを食べたことがあるだろうか。
鯖の味がしっかりとしつつも優しい、ほかではなかなか味わえない独自の味を提供する「らーめんどんぐり」は、東京郊外の小さな商店街のはずれにあるカウンター10席に満たない小さなラーメン専門店だ。
夫婦の夢だったラーメン店
水色に塗られた外壁とオレンジのノボリとどんぐりのイラストが目印の、女性店主が営む「らーめんどんぐり」は、長崎の名店「らーめん砦」グループの一員。
夫がラーメン好きで独立に向けてラーメン店で修業、店主も飲食店で経験を積んでいて、夢を実現する店の物件を探している最中に夫が病で倒れ、あっという間に悪化し他界。調理のエキスパートではなく幼い子どもを抱えながらも、夫婦の夢だったラーメン店の開業を決意し、フランチャイズについて調べ始めたところ、店主の生まれ故郷長崎の名店「らーめん砦」と出会ったという。
長崎では食べログ1位をキープしている「ラーメン砦」代表の川尻龍二さんが作るラーメンを夫婦で食べたことがあり、普段は意見が合わなかった2人揃って美味しいと思った味だったそうで、ラーメン店のプロデュースもしている川尻さんに事情を話し、ラーメン砦グループの一員としてお店を持つこととなった。
ヘルシーが特徴の「鯖そば」
夫が病気で亡くなったこともあり、とにかくヘルシーなラーメンにしたいと、焼き鯖と根菜を使ったスープ、鶏ムネ肉のチャーシュー、白と赤の玉ねぎスライス・豆苗・オニオン&エシャロットフライ・小ネギのトッピングというヘルシーなオリジナルメニュー「鯖そば」が完成した。
独特な味わいの「鯖そば」はじわりじわりと人気が高まり、地域のニュースや「ラーメンぴあ」「Hanako web版」などでも取り上げられ、テレビ番組「ぶらり途中下車の旅」では太川陽介さんが立ち寄り、漫画「孤独のグルメ」の作者久住昌之さんのコラムにも登場した。
長崎と東京ローカルをつなぐ
長崎県の名店の味に加え、長崎県の陶磁器を代表する波佐見焼の食器を使用し、時には長崎ローカルな菓子を取り寄せるなど、故郷長崎と東京ローカルをつなぐ「らーめんどんぐり」。帰省ができない今、「長崎色」の強化ももくろみ中だという。
コロナ禍以前は、見知らぬお客さん同士が話の花を咲かせている光景もよく見受けられた。夏には冷やしを用意し、鯖を使った「おうちカレー」などのサイドメニューも好評だが、派手なキャンペーンがあるわけでも続々と新商品を発売するわけでない「鯖そば」一種類だけのラーメン店に、コロナ禍でも客足が大きく減少することがなかったのは、「鯖そば」の独特な味わいと地域に根ざしたローカル店の強みだけでなく、店主が作り出すアットホームな空気感も大きな要因だと思う。
創業から1種類のラーメンで勝負してきたが、昨年末の2周年を機に新メニューも登場。機会があればあらためて紹介したい。
■らーめんどんぐり 調布市菊野台2-16-20 公式Instagram