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連載 | 発酵文化人類学

ビール=飲むパン?ムギの栄養ドリンクの起源

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 いかにムギを加工するか=パンづくりの方法論によってユーラシア大陸西部の食文化は多様な発展を遂げた。そしてそれは食べ物に限らず飲料にも波及したのだな。ということで今度はビールの起源を辿ってみよう。

目次

壺で発酵させる「飲むパン」

 ビールの起源は資料が現存している限りでいうと紀元前3000年ほど前の古代シュメール地域の文明まで遡る(おそらく壁画や文字のない、さらに古代から醸造していたのだろうけど)。でね。その時のレシピを調べてみると一度焼き上げたパンを壺のなかで水に浸し、さらにそこにもう一度パン種のようなものを加え発酵させてアルコール度数を高めた「ムギで醸すどぶろく」のようなものであったらしい。

 そんな液体としてされていないもろみにストローを挿してチューチュー吸っていたのがビールの原型だ(ちなみにストローのクオリティが身分の上下の象徴だったそうで、貴族は金ピカのストローでビール飲んでたんだってさ)。これを見るに、古代においてビールは「飲むパン」と言えるのであるよ。このレシピを見る限り、古代のビールは単なる嗜好品ではなく、パンのように栄養たっぷりでかつ酵母の発酵による腐敗作用や整腸作用のある栄養ドリンクとして重宝されたに違いない。

ビール純粋令とレシピの統一

 その後のビールの活躍は目覚ましい。古代エジプト文明ではピラミッド建設のような公共事業の給料となって身分の貴賎を問わず万人に飲まれ、ブドウのような果実の栽培に向いていない寒冷なヨーロッパ北部ではワインのような国民酒へと成長する。古代から中世にいたるまで、ビールのレシピには多種多様なものがあり、ジンのような香草類やスパイスを漬け込んだビールやハチミツや果汁を加えたビール、小麦やライ麦や燕麦などで醸したビールなど土地や文化によってフリースタイル極まりない多様なレシピが存在していたようですぞ。

 そんなビール界に転機が訪れたのが16世紀初頭のドイツ。時のバイエルン国王によって「ビールの原料はホップと大麦と水のみとする」というビール好きには有名な「ビール純粋令」が発布されます。これによってベルギーなど一部の地域を除いてビールのレシピが現代に近いようなかたちに標準化されていくことになったんだね。この法律の目的はビールの酒質向上だけでなく、ビール醸造が儲かるので美味しいパンを焼ける小麦が優先的に使われてしまう事情もあったよう。ムギはヨーロッパにおける大事な主食なわけなので酒の快楽と飢えの恐怖が拮抗していたわけなんだよ(ほんと人間って罪深い……)。

 ちなみにビール純粋令への誇りは本国ドイツだけでなくチェコでもスゴかった。小さなビール蔵のおじさんがいかにチェコのビールがピュアであるかをアツく語っていました。おじさんのビール愛もピュアすぎる……!

 私見だがビール純粋令における最高のイノーべションは「ホップの標準化」だ。腐りやすい麦芽汁に対する強い抗菌作用を持ち、かつ生命力が強く安定的に収穫できる薬草としてホップが選ばれたわけなのだが、このホップこそが苦みやコクや爽快感など、僕たちが「これぞビール!」と感じる風味をつくり出す。近年のアメリカ系クラフトビールにおいてはもはやビールの本体はホップであるとさえ言える。大麦とホップの標準化によって近代ビールの歴史が始まったのであるよ。

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