2025年7月14日(月)、日本関係人口協会の第1回オンラインセミナー「関係人口の現在地と未来〜トップランナー6つの視点から」を開催。250名を超える参加者が集まり、関係人口の今後の在り方についての注目度の高さに改めて気付かされました。
セミナー概要
今回のセミナーは一般社団法人日本関係人口協会の主催で、同協会理事でソトコト編集長の指出一正がキーノートスピーカーを務めました。同協会では今後、2025年いっぱい月1回のペースでオンラインセミナーを開催予定で、小田切徳美氏、高橋博之氏、長岡里奈氏、田中照美氏、山崎亮氏といった関係人口分野のトップランナーたちが順次登壇する予定となっています。
キーノート:関係人口の現在地を読み解く7つのキーワード
指出が今年特に感じているフレッシュな視点として、2025年における関係人口の現在地と今後の方向性について、7つのキーワードを通じて解説しました。
1. まちづくりからまちまもりへ
人口減少が進む中で、地域づくりにおいて「つくる」と「まもる」の併存が重要になってきているという指摘から話は始まりました。これまでの地域活性化では、イノベーションの創出や新しい仕組みづくりに重点が置かれがちでしたが、現在はそれだけでは十分ではないというのが指出の考えです。
地域の人口が減少し、人手不足や新しいことに取り組む余力がない状況では、これまで大切にしてきた伝統文化や人のコミュニティ、地域の息遣いといった豊かな資源を未来に継承していく「まもる」という視点が必要になります。関係人口は、こうした地域を守るために人が入ってくる仕組みとして機能すると考えています。
2. ヤング関係人口
関係人口の裾野を広げるために、若年層への働きかけが重要であるという提案です。大人にとって2〜3年はあっという間に感じられますが、小中高生にとってはその期間で大きく成長する重要な時期です。次の未来をつくる世代に地域の面白さを伝えることで、関係人口の裾野を広げていくことができます。
具体例として、北海道で2500組がキャンセル待ちとなった保育園留学の人気エピソードなどを紹介しました。このヤング関係人口という概念は、年齢にとらわれることなく、気持ちの若さという意味でも解釈できます。
3. さわやかローカル
この10年間で急速に広まったマルシェイベントが象徴する、明るく軽やかなローカル体験を表すキーワードです。公園や駅前で開催されるマルシェは、地域の人々が自分たちで盛り上がりをつくれることを証明してくれました。
マルシェは誰かの占有物にならない「出島」的な性格を持っており、誰もが少しアウェーな感覚を残しながらも参加しやすい場所となっています。関係人口の観点から見ると、単にお客さんとして参加するだけでなく、自分も出店したり地元の友達と一緒に盛り上げたいという気持ちを抱きやすい場所です。
4. ミッドナイトローカル
さわやかローカルが昼間の明るい活動を表すのに対し、ミッドナイトローカルは夜の時間帯を活用した地域活動の提案です。台湾の夜市文化を例に、夜をイベントとして特別視するのではなく、夜の日常をローカルに取り戻すことが重要です。
18時から24時くらいの夜の時間をうまく活用することで、これまで昼間だけを目的に地域を訪れていた人たちが夜も滞在するようになり、宿泊につながる可能性も高まります。神戸市サンキタ広場での平日夜のイベント開催などを具体例として紹介しました。
5. 週末介護Uターン
血縁による地域との関わりを関係人口の文脈で捉え直すという、新しい視点の提案です。週末に実家の両親を見に行く形で地元に戻る人々は増えていますが、これを課題として捉えるのではなく「お題」として前向きに捉えることを提案しています。
指出にとって、この経験は「18歳までの自分に出会える時間」でした。血縁のない関係人口だけでなく、週末介護Uターンで戻ってくる人たちが地元の人々と交流できる機会を作ることの重要性について言及しました。
6. スーパーウェルビーング
移動が人を幸せにするという考えのもと、関係人口的な活動がウェルビーング(幸福度)向上に寄与するという視点です。指出は「ご機嫌な状態」という表現を用いて、短距離、中距離、長距離の移動を織り交ぜることで人の幸福度が高まると説明しました。
関係人口は移動を伴う活動が多いため、移動が人を幸せにするという事実を実感として得られたり、それらを理論的に裏付けることで、スーパーウェルビーングという概念を「移動を伴ったウェルビーング」として確立できる可能性があるのではと考えています。
7. 二拠点思考
実際の二拠点居住だけでなく、「もう一人の自分に出会う」体験としての二拠点的な関わりを提案するキーワードです。国土交通省の多地域居住施策や総務省のふるさと住民登録制度検討といった制度的な後押しもあり、二拠点的な暮らし方は今後さらに進展すると予想しています。
指出は関係人口として様々な地域を訪れる中で、場所によって異なる自分を楽しんでいると語り、関係人口の裾野を広げる方法論として二拠点思考の重要性をより強く認識するようになりました。
Q&Aセッションでの議論
セミナー後半では参加者からの質問に答える時間を設けました。参加者からインバウンド増加による観光公害への対策として時間軸をずらすオフピークインバウンドの重要性が指摘されたほか、血縁のある関係人口を大事にする方法として、県人会だけでなく若い人たちが作る地元愛コミュニティの活用の提案もいただきました。
日本関係人口協会に登録いただいた方には、本セミナーのより詳細な内容をお伝えする記事や動画コンテンツをお届けする予定です。本協会の登録がこれからという方で、この記事に興味を持っていただいた方は、ぜひ登録いただけますと幸いです!
一般社団法人日本関係人口協会について: https://kankeijinko.jp/
第2回オンラインセミナー
日本関係人口協会では、今回のセミナーを皮切りに本格的な活動をスタートします。次回は8月1日(金)18時から、明治大学の小田切徳美先生をゲストに迎えて開催予定です。
第2回セミナー詳細:https://sotokoto-online.jp/learning/26272
まとめ
今回のセミナーでは、関係人口を単なる人口増加の手段としてではなく、地域の持続可能性と住民の幸福度向上を両立させる仕組みとして捉える新たな視点が提示されました。指出が提示した7つのキーワードは、それぞれが独立したアイデアでありながら、全体として関係人口の新しい可能性を示すものでした。250名を超える参加者が集まったことも、この分野への関心の高さを物語っており、今後のシリーズ展開への期待が高まります。
▼ 今後のセミナーの予定
第2回:8月1日(金) 小田切徳美さん(農学(博士)/明治大学農学部 教授)
第3回:8月12日(火)高橋博之さん(株式会社雨風太陽 代表取締役社長)
第4回:9月8日(月)永岡里菜さん(株式会社おてつたび 代表取締役CEO)
第5回:10月15日(水)田中輝美さん(島根県立大学准教授)
第6回:11月10日(月)山崎亮さん(株式会社studio-L代表取締役/コミュニティデザイナー)
▼ 一般社団法人日本関係人口協会について: https://kankeijinko.jp/
※お申し込みには事前登録が必要です。定員に達し次第、受付を終了いたします。
※第2回以降の申込についても、追って当協会ウェブサイトにてご案内いたします。