MENU

Contents

日本のローカルを楽しむ、つなげる。

Follow US

連載 | EMPOWER THE LOCAL | 8

ちょっとずらして、ぐっと近づく。地域とアートでつながる「ずらし旅」

ryu

ryu

  • URLをコピーしました!

都市と地方の間に生まれる新たな関係性を、アートを媒介に再構築する──。今回は、そんな問いかけを実践するプロジェクト「ずらし旅」をご紹介します。本記事ではインタビュー形式で、アーティスト、企画者、企業それぞれの視点から、このプロジェクトが地域にもたらしたものを探っていきます。

JR東海とparamitaが手がけるこの取り組みでは、観光の混雑を避ける「ずらし旅」というスタイルに加えて、地域へのちょっとした応援ができる「エシカル特典」が用意されています。その特典とは、訪れた地域の風景や文化、課題などをもとにアーティストが現地で制作する、唯一無二のデジタルアート作品。旅の記念になるだけでなく、「地域に貢献した証」として受け取ることができるのが特徴です。

「旅をしながら、地域にいいことができる」。そんな新しい観光のかたちが、どんな想いでつくられ、どう広がろうとしているのか。さっそくインタビューしてみました。

申込みについてはこちらをご確認ください。
https://sinra.app/jp/articles/zurashitabi_detail

アーティスト公募の記事(https://note.com/cryptovillage/n/n6ca577dbfc2e

まずは、「ずらし旅」のアーティストとして今回のプロジェクトに参加されたおぐまさんに、アート制作への思いや、地域との関わりについてお話を伺いました。

クリプトヴィレッジ:今回、実際に地域を訪れてみて、さまざまな出会いや出来事があったかと思います。中でも特に印象に残っていることはありましたか?

おぐまさん:水窪と尾鷲、各2日間の滞在をさせて頂きましたが、それぞれの地域ごとの違いや特徴を感じられて、面白かったです。水窪では、地域のカフェや食堂、商店街、神社、民俗資料館、ダムなど多くの場所を訪れ、本当に盛りだくさんな2日間でした。

旅程は飯田線から始まり、「飯田線ものがたり」の著者である太田さんと神川さんも同乗されての道中となりましたが、各駅ごとにまつわる様々なエピソードを語って下さり、飯田線に対する気持ちがひしひしと伝わってきました。商店街にあるスーパー「まきうち」では、たくさんの料理でもてなして下さり、地域への想いを感じながら、外から訪れた人を出迎えてくれる温かさを感じました。

水窪支所では、地域の文化や歴史についてのお話を伺ったり、星の駅「碧(AOI)」では、移住者や外からの視点も含めてのお話も伺えましたが、水窪の魅力について伺うと、何人かの方から共通して、「水窪には、言葉では表せないスピリチュアルのようなものを感じますね。」と仰っていたのが、印象的でした。

伝統的な文化が根強く残っている事も関係しているのかもしれませんが、長く暮らしていく中で、感じる事ができる魅力もある地域なのだと感じ、より興味が深まりました。

また尾鷲では、水産農林課の芝山さんより、「みんなの森」での生物多様性についての取り組みについて、伺いました。シガラ作りや石畳作りなどの伝統技法についてなど、色んなお話を伺いましたが、豊かな水の循環の大切さなど、実際に森の中に入ってその空気を味わう事で、より実感する事ができたと思います。

昔ながらの漁村の風景が残る九鬼町の街並みや、熊野古道センターでは、その歴史や文化についても伺いましたが、それぞれの場所、ひとつひとつのエピソードを語って下さる芝山さんのお話からは、尾鷲の自然や街、文化や歴史への深い愛情が伝わってきました。

クリプトヴィレッジ:地域での出会いや風景が、作品にどのような影響を与えたのか、ぜひ教えてください。

水窪の民族資料館では、門松の一種である「男木」を実際に立てて頂いたり、また、新年に円満を祈願して、サンマを丸い形で焼く「歳取り膳」を見せて頂いたりしました。 男木の傍らには、小さな木でできた鏡餅が飾ってあり、可愛らしかったです。

木のお餅や、丸い形のサンマなど、「何だか面白いな」と感じたものを、メモやスケッチを取りながら巡っていたのですが、地域の中で目にした、そういったものごとが、作品作りの元になっています。自分は東京生まれで、東京近辺で育ってきたので、そうしたローカル地方ならではのちょっとした事に、面白さやユニークさを感じてしまうのかもしれません。

地域を訪れる中で、その場で思いついた事もありますが、東京に戻って色々なエピソードを思い返して整理をしながら、「もし、シカのツノで男木を作ったらどうなるだろう…」「ダムに沈んだ家が、もし歩くことができたら?」など、改めてアイデアを練りながら、思い浮かんだものもあります。

尾鷲では、みんなの森で芝山さんが仰っていた、「石畳は、土や藁をミルフィーユみたいにして重ねていくんですよ。」というお話を伺って、「もし、石畳みたいなミルフィーユがあったら…?」という、空想を広げたり、苔に覆われた、緑の怪獣の様に見える切り株を見た時は、「苔に覆われた色んな動物がいたら、面白いかも…」など、森の中でイメージを膨らませていました。

九鬼の街で、海の道沿いにボートが並んでいる風景も新鮮なものでしたし、熊野古道が、幾つもの宗教が共存している場所、という歴史もとても興味深かったです。「海沿いの車が海に落っこちない様に、手を差し伸べるボートの姿」や、「熊野古道で、神様たちがお茶会をしている様子」などは、そんな風景やエピソードから想像しました。

自然、街並み、歴史など、尾鷲で見聞きするものの中には、新鮮さや面白みを感じる瞬間がたくさんあったので、そこから感じ取ったアイデアを、ユーモアを込めて膨らませていき、制作を進めていきました。

クリプトヴィレッジ:振り返ってみて、今回の取り組みはおぐまさんにとってどんな意味を持つものだったと感じていますか?

おぐまさん:自分はこれまで「空想スケッチ」という企画を、各所で開催させて頂いていました。ご参加頂いた方と対話をしながら、好きなものや思い出、未来の事など、その方の持つイメージを膨らませて、1枚の絵にしてお渡しする、という内容です。

以前より、東京以外のローカル地域への関心を持っていたのですが、何か、その地域の持つ魅力を形にするような、そんな作品制作ができないかと、漠然と考えていました。今まで行ってきた、空想スケッチの企画をアレンジしたような、そんなイメージを持っていたのかもしれません。

そんな折に今回のプロジェクトの公募を知り、有り難い事に、制作に携わらせて頂く事となり、心から嬉しかったです。地域の想いを作品にするプロセスは、実際にその地を訪れて、色んな方々からお話を伺う時間と、持ち帰ったお話を整理し、改めて地域の文化や歴史を調べながら、空想を広げていくという、また今までに無かった様な体験となり、とても新鮮なものでした。

こうした、新しい挑戦をさせて頂いている事は、今後の制作活動にとっても、大きな糧となっていると感じています。また、今回のプロジェクトが、地域貢献やエシカルにも関わっているという事を、リリースされた後に改めて実感したところもあり、自身の作品が、こんな風に社会との繋がりを持たせて頂いている事も、とても有り難いです。

これから地域や環境についてなど、そういった視点でも、もっと知っていきたいという、そんな気持ちになるきっかけにもなりました。水窪も尾鷲も、それぞれの地域ごとの魅力を感じているので、また折に触れて、ぜひ訪れたいです。

クリプトヴィレッジ:最後に、ソトコト読者のみなさんへメッセージをお願いします!

おぐまさん:今回のプロジェクトは、アート作品を通して地域貢献に繋げていく、というものですが、そういった地域や環境、自然や文化などに関心のある方にはもちろん、ローカル地方や訪れた事のない場所を、ゆったりと旅してみたい方にも、気軽に、その地域の魅力や物語を楽しんで貰えるきっかけとなって頂けたら、幸いです。

エシカル特典のアートの一例

続いて、このプロジェクトを企画・主導した、paramita株式会社の大澤哲也さんにお話を伺いました。地域との関わりや、プロジェクトに込めた思いについて聞いてみます。

クリプトヴィレッジ:今回訪れた地域は、paramitaにとってどのような場所でしたか?またそれぞれの地域の魅力についても聞かせてください。

大澤さん:静岡・浜松市天竜区水窪と三重県尾鷲市は、paramitaが推進する「Local Coop」事業の導入地域として、「自然が再生し続ける世界」と「地域経済が持続する未来」の両立について、自治体・住民・企業と共に検討しているエリアとなります。

水窪は面積の96%を森林が占める⼭間の町で、急峻な地形と澄んだ渓流が織りなす景観が魅力的な地域。少⼦高齢化で担い⼿が減少する一⽅、移住者が古民家カフェやセレクトショップを⾏うなど、新旧の知恵が交錯する地域でもあります。広大な森林に囲まれ、独自の文化や固有種の栽培などの産業があるエリアで、私たちはLocal Coopの取り組みとして、生物多様性や文化多様性を回復させ、地域を持続可能にするための取組を検討しています。

一方、尾鷲市は、年間4,000 mm超の降水量と、92%の森林被覆率から成る「水」と「森」の恵みが、リアス海岸の漁業資源につながる独自のエコシステムを育んでいます。山から海までの距離が近く、流域から生まれる恵みを感じやすい特徴があります。人口減少や市場の変化に伴い一次産業の維持が困難になってきている中で、Local Coopの取り組みとして、自然を豊かにして環境価値を創出する新しい一次産業の形を模索しています。

両方の地域共に、過疎化が進む日本のローカルにおいて、文化や景観などの魅力はもちろんですが、そこに住む皆様の魅力や活力を感じる地域だと感じています。

paramitaは、JR東海様との提携により、「移動(消費)」と「支援」を結びつける新たな仕組み(ずらし旅のエシカル特典)を実装し、過疎化・担い手不足が深刻化する地域の課題解決を目指しています。具体的には、ずらし旅という旅行パッケージを選択された際に、付随する体験として「地域貢献」を選択いただくと、旅行代金の一部(500円)が地域に還流する仕組みとなっています。

クリプトヴィレッジ:地域とアーティストの“つなぎ役”として意識された点はありますか?

大澤さん:地域の魅力や課題感をアーティストに理解いただくことを意識しました。
おぐまさんからもお話しされたように、水窪でも尾鷲でも、極力アーティストと地域住民が同じ場を共有しながら、地域の方の口から地域の魅力を伝えてもらうように意識し、そういった「場」を媒介に相互理解を深める機会を設けました

先日水窪で実施したサービスリリースイベントでは、地域の住民の方々からも、おぐまさんのアートを見て昔の光景を懐かしんだり、水窪の文化を語っていただいたりなど、とても親しみを持っていただいていました。

クリプトヴィレッジ:プロジェクトを通じて見えてきた「地域と都市のつながり」には、どんな変化や可能性を感じましたか?

大澤さん:まだまだプロジェクトを開始したばかりですが、広告等も全くしていない中で、既に1日1件以上のペースでお申し込みをいただいております。(2025/6/16時点で26件のお申込み)

これから中長期でこのような選択肢の存在の認知が広がっていくことを通じて、より多くの方にアートを通じて地域の特徴を感じていただき、資金だけではなく将来の地域の関係人口として支えていただく1人になっていただくことを期待しております。

水窪でのおぐまさんのアート展示

最後に、今回のプロジェクトを共同で企画・開発されたJR東海の田中佑輝さんに、取り組みに込めた想いや背景についてお話をうかがいました。

クリプトヴィレッジ:このプロジェクトに関わることになった経緯をお聞かせください。そして、地域や文化への貢献という観点から、どんな想いをもって取り組まれているかもうかがえればと思います。

田中さん:当社グループでは、流通業・不動産業・ホテル業など、様々な領域の事業を展開していますが、中山間地域で地域創生を目指すような事業開発については十分な経験を有しておらず、どのように取組むべきかを模索していました。そうした中で、地域に根ざした事業を実践されているParamita 様の「Local Coop」や「SINRA」などの活動内容を、SNS などの発信を通じて知り、関心を寄せるようになりました。当社沿線である尾鷲や水窪といった地域においても、Local Coop の仕組みを活用した地域創生の取り組みを実践されており、paramita様と連携することで、沿線のエリア価値向上に寄与する新たな取り組みができるのではないかと考え、ご相談させていただいたのが本プロジェクトの出発点です。

paramita様には、企画構想の段階から並走して頂き、時間をかけてコンセプトを構築してきました。その中で浮かんできたのが、当社の強みである東海道新幹線のご利用を通じて、沿線地域の魅力や課題への関心を喚起し、更にツアー料金の一部を地域の課題解決に還元する「エシカルな旅の選択肢」を提供するという構想です。新幹線を利用することが、沿線地域への貢献にもつながるという仕組みを通じて、東海道新幹線の旅に新たな価値と意義を加えることができると考えました。

経営環境が大きく変化している中で、当社グループは、2023年度に、「JR東海グループビジョン2032 -挑戦と実践-」を策定し、沿線自治体や様々な企業との連携を加速させています。今回のプロジェクトのように、外部との連携を通じて、新しい価値を創出するような事業開発にも積極的に取組み始めました。東海道新幹線の収益に依存したビジネスモデルから脱却し、10年先を見据えた成長を遂げるためには、沿線地域を活性化させる分野に積極的に挑戦することが重要だと考えています。

クリプトヴィレッジ:今回の取り組みを通じて、鉄道会社として地域との関係づくりにどう関わることができたと捉えていますか?

田中さん:今回のプロジェクトの共創地域である尾鷲と水窪には、私も実際に訪れて地域の方々と交流させていただきました。水窪ではparamita 様が主催する住民会議も傍聴させていただき、尾鷲では森林再生のワークショップにもご一緒させていただきました。このような地域の取り組みに参加しながら、共に事業を起こしていこうとすることに対して、地域の皆様からあたたかく迎え入れてもらったように感じています。

当社グループでは、沿線地域での関係人口創出を目的とした、conomichi という取組を進めています。今回のプロジェクトも、conomichi の事業を発展させるかたちでの施策としました。特徴的なのは、地域に因んだデジタルアートを関係人口の証とする施策としているところです。このたび、商品としてリリースすることができましたので、今後地域の皆様やお客様に愛される施策として成長していけるように取組んでいきたいと考えています。

単純に事業性だけを見てしまうと、中山間地域での鉄道インフラの持続・発展は困難な課題ですが、このような地域連携の取り組みを通じて、地域に密着して発展していくことが大切だと考えています。

クリプトヴィレッジ:これから先、地域と都市のつながりや、企業と文化の関わり方について、どのような取り組みを展開していきたいとお考えですか?

田中さん:今回リリースした「ずらし旅エシカル特典」では、新幹線に乗ることで地域創生に貢献するとともに、貢献の証となるデジタルアートがもらえるという、新しい体験をご提案しました。まずは、この商品が多くのお客様に手に取って頂けるように、努力していきたいと考えています。多くのお客様に支持される商品となれば、集まった資金で社会課題解決の取組を加速することができますし、将来的には共創地域を増やしていくことも考えられます。

国の政策としても地方創生の重要性が語られるようになって久しいですが、日本の地域には実に魅力的で個性のある文化が各地にあります。鉄道は、地域と都市を繋ぐ機能を担っているインフラであり、地域間、都市間の移動が活性化していくことで、鉄道の持続可能性は高まります。それぞれの地域と連携しながら、その固有の魅力を発信し、実際に現地に訪れるきっかけを作っていきたいと考えています。

プレスリリースおよび「ずらし旅」の申込みはこちら!

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000124080.html

さいごに

旅が、ただの移動ではなく、地域の物語に触れ、未来への関わりを育む行為になっていく。この「ずらし旅」は、そんな新しい旅のかたちを、アートというやわらかな視点からそっと示してくれるものだと思います。

「観光」や「地方創生」といった言葉では語りきれない、ささやかだけれど確かな変化の芽が、旅の中に静かに芽吹いているのかもしれません。そんな一歩一歩が、「都市と地方のあいだに、あたたかな関係性を編み直していく」その兆しのようにも感じられました。

肩の力を抜いて、ほんの少し視点を変えて旅をしてみる。そんな“ずらし方”が、これからの時代には、旅の楽しさや意味を、より深く広げてくれる気がしています。

今回のインタビュイー

おぐまこうきさん

東京都出身。イラストレーター・絵本作家として活動を行う傍ら、教育や保育の現場で子どもと関わる仕事も行っている。ユーモアあふれる作風で、作品を見た人が思わずクスッと笑ってしまうようなゆるやかな世界観が特徴的。(公式ウェブサイト:https://kokioguma.net/

田中佑輝さん

東海旅客鉄道株式会社 事業推進本部 課長代理(沿線事業開発)※掲載記事作成当時の所属・役職

鉄道建築技術者として駅づくりや駅ビル開発に従事する中、2023年7月に社内公募で立ち上がった同部署に着任し、地域と連携した事業開発やまちづくりに取り組む。

大澤哲也さん

株式会社paramita共同代表 兼 三ッ輪ホールディングス取締役経営戦略本部長

欧州系戦略コンサルティングファーム等、コンサルタントとしての11年のキャリアを経て、2015年に三ッ輪グループに入社、2023年6月に株式会社paramitaを設立し、共同代表としてSINRA、Local Coopといったサービスを推進。

ぜひフォローをお願いします!

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね
  • URLをコピーしました!

関連記事