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連載 | 写真で見る日本

旅の終着点 藤原 慶×愛知県名古屋市

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 僕は以前、写真を路上で売って生活するという旅を2年間ほど続けていた。旅の始まりは21歳の夏。大げさに聞こえるかも知れないが、その時の僕は人生に行き詰まっていた。当時抱いていた「音楽で有名になる」という夢は“音痴”という壁に打ち砕かれ、不器用ゆえに続かないバイトを転々としていた頃だ。終いには、バイト先の店長からの「もう明日から来なくていいよ」の一言で心がすっかり折れてしまったのだ。それを機に当時趣味だったカメラとバックパックを持ち「お金がなくなったら家に戻ろう」という軽い気持ちで沖縄県へと旅に出た。

 ある日、那覇市の国際通りを何げなく歩いていたら、一人の青年が路上に写真を広げているのが目に入り、気になって声を掛けてみると「写真を売りながら日本を旅している」とのこと。その自由さと大胆な行動に衝撃を受けた僕は、「ついていっていいですか?」としばらく青年と行動を共にすることに。

 それからというもの、ソロ用の小さなテントにふたりで野宿をしながら沖縄の島を巡り、海の家の人と仲よくなったかと思えばそこでしばらく働かせてもらったり、やんばるの山奥で牧場を営んでいるナイスなおじいちゃんがいるからと、その人に会いに行ってみたり、とにかく刺激的な毎日だった。

 僕ひとりでは躊躇してしまうようなことも、青年はあっけらかんとやってみせる。日常のなかでも、ちょっと勇気を出してみるだけで、「こんなにも違った景色が見えるんだ」ということを教えてくれた。

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 そうして、路上で写真を売って生活をするという術を手に入れた僕は、気づけば2年間も日本のあちこちを旅していた。やがて、23歳になった僕は愛知県名古屋市にたどり着く。きっかけは、友人に紹介してもらったシェアハウスが名古屋にあり、そこにしばらく泊めさせてもらう約束をしていたからだ。

 名古屋駅のほど近く、線路沿いに古民家が立ち並び、その一角にシェアハウスはあった。新旧が入り混じる、不思議なエリアだった。軒先で住民らしき人が何やら準備をしており、挨拶をして話を聞いてみると「今夜、近所の人も交えてバーベキューをする」とのことで、早速、僕もその準備を手伝うことに。やがて夜も更けて宴会が始まった。みんな、初めましての僕を自然と迎え入れてくれて、ほっとして目を上げると、名古屋のビルたちが煌々と光っていて、なんだかふと「こんな街に住めたらいいな」と思ったことを今でも覚えている。

 その時の僕は、旅を続けることに少し疑問を持ち始めていて、「写真をきちんと学びたい」と思うようになっていた。もともと、現実から逃げるように始めた旅だったが、幸運にもカメラを通してたくさんの人や景色に出会うことができ、そこから多くの学びや優しさをもらった。でもだからこそ、いつまでもこうして自由気ままな旅を続けていていいのだろうか、と感じ始めていたのだ。きっとそろそろ現実と向き合わなくちゃいけない。

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 後日、そのことをシェアハウスの方に話したら、「ここに住んで、写真の仕事をはじめる一歩にしてみなよ」と言ってくれたのだ。その言葉がストンと胸に落ち、とてもワクワクした。何よりここで出会った人たちともっと過ごしてみたかった。そうして僕は名古屋にしばらく住み、仕事としても写真を少しずつ撮るようになった。

 東京都内に拠点を移しフォトグラファーとして活動するようになった今でも、名古屋へは仕事や遊びで定期的に訪れている。シェアハウスにいたみんなは、もう引っ越して住んでいないが、今でもつながりは残っているからだ。名古屋へ来る度に当時のことを思い出しては、「あの時の気持ちを忘れないでいよう」と自分に言い聞かせている。

ふじわら・けい●1993年、神奈川県生まれ。カメラとバックパックを持って日本放浪の旅に出たのち、アシスタント勤務を経て、2017年よりフォトグラファーとして活動。さまざまな雑誌や広告撮影など、写真家として多方面で活動を行う。被写体の自然な表情を撮ることを心がけている。著書に四国のフォトガイドブック『旅へんろ』(自費出版)がある。
記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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