おいしいものを食べたり、きれいな風景を眺めたり、かわいい土産物を見つけたり……。そんな“観光”はきっと楽しい。でも、小誌読者なら、さらに一歩踏み込んで、その土地の本当の魅力、価値と出合う旅をしたいはず。ソトコト流「東京宝島 離島歩きガイド」のはじまりです! part1では、大島と利島を紹介します。
東京には11の有人離島があること、ご存じでしたか? いずれもオリジナルな魅力が満載。そんな島々を舞台とした土地や人とつながる旅は、思い出深いものになるはず。しかし、観光のトップシーズンである夏は、島内の宿の予約が取れないほど人気なため、来島者をもてなすために島の人たちは忙しく働き、かつ日々の暮らしもあるわけで……。じゃあ、どうしたらいいの?
まずは訪れる時季。観光のピークを終え、宿の予約も比較的取りやすくなる秋冬こそが実は狙い目なんです。島の人たちも暮らしの傍らで、比較的時間がゆったりと取れるから、タイミングさえ合えば(フィーリングも!)、話をできる余裕も少しはあるだろうから。
あとは心構えも肝心。荒天で船が着かなければ物資は届かないし、そもそも島に入れなかったり、行ったのはいいが島から出られなくなったりすることも。不便ともいえる状況と対峙したときに、「自然のことだし、当たり前だよね!」くらいの気持ちを持つことも大事。島の人の暮らしの場に入らせていただいているという、謙虚な心持ちは特に必須です。
実際この秋冬に、土地と人々へのリスペクトを携え、取材陣は6つの島々をホッピングしてみました! そこで出会えたのが、今回紹介する心優しき島人たち。そしてあまり知られていない、味わい深い島の真の魅力にも触れることができました。
大島
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面積 約91平方キロメートル
周囲 約52キロメートル
人口 約7400人
▶大島へのアクセス 東京・竹芝客船ターミナルより ジェット船:1時間45分 大型客船:往路8時間/復路4時間30分 調布飛行場より 飛行機:25分
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東京の島々の中でも抜群にアクセスしやすいのが大島。東京・竹芝客船ターミナルからジェット船に乗れば1時間45分で到着するし、深夜発の大型船や、そのほか、神奈川県の横浜桟橋や静岡県の熱海港からだって行くことができる(調布飛行場から空路で25分という選択肢も)。
そんな大島といえば、椿の花と江戸時代の噴火で積もった山・三原山が有名。噴火の歴史を学べるフィールドは、2010年に日本ジオパークにも登録され、火口近くまで歩けたり、裏砂漠と呼ばれる、ダイナミックな風景に出合えたりと、まさに地球の活動を体感できるスポットの連続。
そして島と関わりたいという人には島の南側にある「波浮港」というエリアが激オシ! 2016年の小誌特集でも紹介した、ゲストハウスやカフェの機能を併せ持つ『島京梵天』という場を皮切りに、近年個性的な宿が4、5軒ほど相次いで開業。自身、ゲストハウスや、酒屋&角打ちスペースを波浮港でオープンさせた吉本浩二さんも、「気になっている人は、ここにきて相談してくれたら、一緒になにかできるかもしれない。まずは一度遊びに来てください!」。なんて頼もしいお言葉。大島は大地も人も熱かった!
伊豆大島ジオパーク・ジオガイド|西谷香奈さん「大島は“陸”がおすすめ!」
大島には、最初は看護師としてやってきて1年間勤務。自然との関わりはそこから。「手伝って」と誘われて海のガイドをスタートしました。20年はやったかな。陸のガイドはそこから12年。今は陸のガイドのほうが断然おもしろい!(笑)。大島は古い時代の3つの火山からの噴火によって島となったことが始まりで、三原山は今から約240年前の噴火で誕生したものです。伊豆諸島に火山は多いですが、大島の特徴は火山が活発であること。ここ200年ほどは36〜38年という短い周期で噴火しています。粘り気のないタイプであることも大島の溶岩の性質で、噴水のように噴き出すため、火砕流による被害が比較的少ないのも大島らしさでしょうか。溶岩の上を歩いたり、噴火によって焼け野原になった場所が森のように再生していくさまが見られたり、島の自然が感じられる多様なスポットがありますよ。
『高林商店』・『青とサイダー』店主|吉本浩二さん「波浮には未完成のおもしろさがあります。」
都会で働きながらさまざまな出会いを経て、経験を重ねていくうちに、「地域、地元がおもしろいかもしれない」と思えるようになり、戻ってゲストハウス『青とサイダー』を開業したのが2018年。そこからいろいろ動き始めましたね。大きかったのは2019年の大きな台風の被害で宿とともに、お隣の『高林商店』の屋根が飛んでしまったこと! おばあちゃんが営んでいた店は、小さいころから見ていた思い出深い酒屋。そこを引き継ぎ、キッズスペースを設けたり、角打ちコーナーを新設したり、リノベーションしたカタチでやっています。大島全体が衰退していく中で、波浮も同様に元気がなくなったけど、古い建物自体がおもしろいから、それを活用して、という動きがここは活発化しています。地元の人だけでなく、移住者、年齢も関係なく動いていたりすることにワクワクするんですよね!
利島
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面積 約4平方キロメートル
周囲 約8キロメートル
人口 約330人
▶利島へのアクセス 東京・竹芝客船ターミナルより ジェット船:2時間25分 大型客船:往路7時間35分/復路6時間10分 調布飛行場より 飛行機+ヘリ(大島経由)で可能
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11島の中で2番目に小さい島だからか、ここ利島の知名度は低いほうかもしれない(ごめんなさい!)。他方、島には日本で一、二を競う生産量を誇る産物がある。それが「椿油」だ。「え、椿油って大島とか長崎県の五島列島じゃないの?」と思われた方もいるだろう。それはある意味正しい。けれど、それら島々に堂々と張り合う生産量、品質を、この小さな利島は持っている。しかも、利島の椿油はかなり特徴的。まずは、「農業」であること。多くの産地では、防風林や自生した椿を利用するが、ここでは椿を畑や山などに人の手で植えて育てる。さらに完熟した実を用いること、有機栽培であることも利島ならでは。
利島での椿の利用は現在も進化を続けているという。付加価値を高めつつ産業の魅力を磨き、担い手を増やすための取り組みや、ほかの東京の島々と連携した商品開発なども。さらに、葉や花など、油以外の可能性も大学などと研究を深めている。
そして、そんな椿に関してはIターンや、地域おこし協力隊隊員として島に移住した若者らが奮闘しているのも利島のおもしろさ! それほど“観光推し”をしていないのも逆に興味を誘う。椿をキーワードに島を歩くのも楽しいかもしれない。
『利島のおみやげ屋さん モリヤマ』店主|森山恵子さん「島のよさをお土産に。」
もともと島には保育士としてIターン。旦那さんと知り合って結婚し、島で暮らすようになりました。以前は利島にはお土産屋さんがなかったので、島外に行ったりするときには、大島などでなにかを買って持っていくのが普通。観光客の方も島のお土産を購入できなかったりして「島で買えたらいいなあ」と思っていたんですが、「じゃあ、自分でやっちゃえ!」と始めたのがこの店です(笑)。椿油を使ったリップクリームやオリジナルのタオルのほか、島の友人がつくったキーホルダーやストラップなど、利島にこだわった商品を扱っています。店をやり始めて「こういうお店欲しかったんだよね」って島の年配の方が言ってくれたのがうれしかったなあ。いずれはささやかですけど、カフェスペースもつくりたい。島の人や観光客のみなさんが、一息つける場を提供したいです。
『利島農業協同組合』職員 利島村地域おこし協力隊隊員|加藤大樹さん、佐々木知美さん「利島の椿をもっと売り出したい!」
求人を探していたら、たまたま『利島農業協同組合』を見つけて。300人ほどの島で、全国有数の椿油の生産量を誇っていると伺って、勉強したいという思いで入りました。後継者や生産性の問題など、前に勤めていた農業法人でも経験していたので何か貢献できることもあるんじゃないかなって。島に暮らして8年。今は組合の理事や『利島村農業委員会』の会長をやらせていただいています。エッジの利いた東京の離島それぞれの産品を掛け合わせ、新商品もつくりたいですね。(加藤さん)
2020年から地域おこし協力隊隊員として利島に来ました。ECサイトやSNSの運用が主担当で、集客の部分を含め、まだまだ課題はたくさん。勉強して島の椿産業にもっと貢献できるようがんばっている途中です。島の椿油は自分でも使っていて、私は髪のカラーが抜けにくくなりました!(佐々木さん)
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photographs by Yuki Inui & Yusuke Abe text by Yuki Inui & Mari Kubota illustrations by Hitohisa Isogai
記事は雑誌ソトコト2022年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
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