2011年3月11日に東日本大震災があった東北の“いま”を伝えるコーナーです。東北で生まれているソーシャルグッドな
プロジェクトや地域で活動する人々を紹介します。
2011年3月の東日本大震災で津波被害を受けた『のぞみ福祉作業所』は、同年5月にプレハブの仮設住宅で活動を再開。『世田谷ライオンズクラブ』から紙漉き機械の寄贈があり、職員と利用者が一緒に紙漉きを学び始めた。ほのぼのとした絵柄の素朴な手漉きハガキを制作・販売し、復興支援の追い風もあり、売り上げは右肩上がりに。手ごたえを感じていたところ、障害のある人のアートをデザインを通して社会に発信している『エイブルアート・カンパニー』による、被災地の福祉施設の仕事を復興するプロジェクトの支援先に選ばれた。
商品開発やブランディングのサポートに入ったのは、デザイナーの前川雄一さん。「当初僕に求められていたのは、より売れるようにするためのかっこいいデザインでした。でも、それだけでは意味がないと思い、未来を見据えたブランディングを行いたいと考えました」と前川さんは振り返る。すでに売れていたので、「今のままでもいいのでは」と作業所メンバーたちから反発もあったが……。「きれいで均一な紙をつくるのでなく、紙そのものの魅力で勝負すべきだという前川さんの熱意に心を動かされ、方向性を転換することにしました」と、『のぞみ福祉作業所』主任の田中青志さんは話す。紙の研究を重ね、「NOZOMI PAPER®」としてブランド化した。
「NOZOMI PAPER®」の原料は、全国から送られてくる牛乳パック。そのほか、古新聞や段ボールなどもリサイクルして使用する。「捨てられるものを、もう一度価値のあるものに変えることができるようになったと思います。紙そのものの魅力はもちろんですが、その紙ができるまでの過程やストーリーも伝えていきたい」と前川さんは話す。
「『NOZOMI PAPER®』を気に入ってくださる方々と、さまざまなコラボレーションが生まれています。そのご縁をつなぐのが私たちの役割。でも多くの人を引き付けるのは、やはり『のぞみ福祉作業所』のみなさんの人間力ですね」と話すのは前川亜希子さん。夫の雄一さんと共に、「福祉とあそぶ」をテーマにし『HUMORABO』というユニットで、『NOZOMI PAPER Factory』をサポートしている。
「『NOZOMI PAPER®』をつくるようになって、作業所メンバーは生き生きと仕事をし、やりがいを感じています。コミュニケーション力もアップしました。その好循環を組織内や地域に発信していきたいです」と田中さん。コロナ禍でストップしていたイベントなども再開する予定だ。
photographs by Ami Harita
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。