雪深い山間部に位置する秋田県大仙市南外地域は、人口約3000人。隣町までのバスは2時間に1本、車で30分。スーパーやコンビニが一軒もないこの地域では、買い物をするにも一苦労です。住民の前に立ちはだかった「買い物問題」を解決するために誕生した小さなスーパーマーケットが「南外さいかい市」です。
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買い物する場所がなくなり「南外さいかい市」を 立ち上げた地元のお父さん・お母さんたち
秋田県の中央南部に位置する大仙市南外地域。「平成の大合併」で近隣の市町村と合併した「旧南外村」では現在、人口減少と高齢化が進んでいます。唯一あった地元スーパーが平成25年に閉店して以降、買い物に不便を感じる地域住民が急増。特に、車を持たない高齢の方は、生鮮食品を買うのに一苦労です。
この状況を打開が、地元の元気なお父さん・お母さんたち。「地域のことは自分たちでなんとかしよう」と、2019年にミニスーパーと移動販売車をスタートさせました。この場所で地域の人が「再会」するようにという願いを込めて、店名は「南外さいかい市」といいます。
地元で採れた野菜や生鮮食品、手づくりクッキーや生活雑貨などを販売し、必要なものはリクエストすれば、要望にこたえてくれる地域密着型のお店です。
2020年、高齢者の「見守り」も兼ねる移動販売車が誕生。 地域の欠かせない役割も担う「南外さいかい市」
ミニスーパーの営業が軌道に乗り出した翌年2020年、南外さいかい市の新たな試みとして移動販売車をスタートさせました。地域を数か所のルートに分けて、お店に来ることが難しい高齢者の方を中心に商品を届けます。
保健師や看護師資格を持つスタッフが同行し、一人暮らしの見守りを兼ねた移動販売車は、南外地域の民謡を流しながら巡回。外で待っている高齢者の姿もあり、地域にも少しずつ根付いてきました。
「コロナで息子が帰って来られなくなって、買い物が不安だった」、「免許を返納したので冬には買い物ができなくて」など、利用者の不安を解消すべく、今日もたくさんの食材を積んで移動販売車が走ります。
少ない報酬でも「南外さいかい市」が成り立つワケは、 みんなの「地域愛」と「楽しい」という気持ち
南外さいかい市は、地域住民でNPO法人を立ち上げ活動しています。市や国の補助金を利用し、市内の数社からの援助も受け経営をしてきました。移動販売車では、店舗と同じ価格で販売し、高齢者の負担にならないようにしています。
南外さいかい市で働いている方のほとんどは地域の60代以上のお父さん・お母さん。市や国の補助金を活用しているとはいえ、人件費はほとんど見込めません。スタッフのお給料は4時間働いて500円、時給に換算すると125円です。
このような状況でも、「家に一人でいるよりも、みんなで集まると楽しいから」と、人との繋がりを求めてこの場所に集まります。この場所が、スタッフにとっても生きがいとなっているかもしれません。
「南外さいかい市」の評判は市外にも。 県外からの観光客のみなさんもぜひ寄り道を
「これから先どのくらい続けられるかわからないけど、やれるところまでみんなでやっていく」と、スタッフの皆さんは話してくれました。地域に欠かせない場所で、楽しいことが生まれる拠点となりつつある南外さいかい市。
スタッフの温かい雰囲気やサービスが好評で、最近では市外からのお客さんも増えてきました。南外さいかい市の周辺には、松木田温泉ふるさと館や岩倉温泉、「南外民族資料交流館」などあり、のんびり過ごすには最適です。美しい田園風景と人とのつながりを体験しに訪れてみてはいかがでしょうか。
【南外さいかい市】
住 所/秋田県大仙市南外松木田44−2
電 話/080-5189-8293
営業時間/10:00〜18:00
定休日/火曜日
文・撮影 髙橋蕗子