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特集 | 地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。

山陰地方の食文化や手仕事を伝え走る、観光列車「あめつち」。 【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第5回 鳥取県・島根県編]】

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鳥取駅から出雲市駅まで、週末を中心に1日1往復している観光列車「あめつち」は、旅を味わうようにゆっくりと山陰地方を横断し、その車体は思わずハッと見入ってしまう紺碧(こんぺき)色が印象的です。これから誘われる山陰の旅へのワクワク感とドキドキ感に胸が高鳴っているのでしょうか、乗車するお客さまはみな、笑顔が輝いています。

始発の鳥取駅で発車を待つ「あめつち」。山陰の美しい空と海を表現した紺碧色が鮮やかです。車両の先頭や側面を飾る2種類のエンブレムは、神話の世界をイメージさせるモチーフがデザインされています。

「あめつち」は、2018年に開催された「山陰デスティネーションキャンペーン」に合わせ、鳥取県と島根県を結ぶ初の観光列車として運行を開始。今年7月、5周年を迎えました。列車のコンセプトは「ネイティブ・ジャパニーズ」。雄大な自然があり、神話が息づき、古い文化や伝統を大切にする--そんな日本のルーツを感じさせる山陰の魅力を、車窓の風景やインテリアなどを通し「五感」で満喫できる列車です。

コンセプトワークと総合ディレクション、監修は島根県出雲市出身の映画監督・錦織良成さん、車両デザインの色彩を担当したのはスタジオジブリ作品の多くで美術監督を務めてきた島根県松江市出身の吉田昇さん、テーマソングは出雲市出身のシンガーソングライター・浜田真理子さんが手がけています。

車窓に広がるのは、日本海や大山、中海、宍道湖など、山陰を代表する風景。鳥取県がテーマの1号車の天井には青と黄、島根県がテーマの2号車には緑と赤色の因州和紙が使われるなど、それぞれの地域の多彩な伝統工芸品が車内デザインに取り入れられています。

さらに「あめつち」のオリジナルのお弁当やスイーツ(すべて要予約)からは、豊かな山陰の歴史や食文化、そこに息づく人々の思いを感じることができます。

左は『アベ鳥取堂』の「あめつち御膳」。「元祖かに寿し」をはじめ、あご(飛魚)の梅しそ巻きフライ、鳥取牛の時雨煮、ハタハタ寿司、鳥取県産鶏の南蛮漬けなどバラエティ豊か。右は『大江ノ郷自然牧場』の「大江ノ郷スイーツセット」。大江ノ郷ぷりんと大江ノ郷バターロールケーキ、3種類の焼き菓子(八頭ばうむ、大江ノ郷バウムクーヘン、プティフィナンシェ〈キャラメル味とショコラ味〉)が入っています。
左の折り詰めは、島根県の日本酒とともに楽しめる『一文字家』の「山陰の酒と肴」。山陰の名産品を郷土色豊かな料理に仕上げています。右の「松江の和菓子詰合せ」には『彩雲堂』銘菓が3種類入っています。松江の伝統的な和菓子を味わえます。

駅弁には地元の食文化が詰まっている――『アベ鳥取堂』の「あめつち御膳」

車内でいただける「お食事」はスイーツを含めて全4種類。その中でもお腹をしっかりと満たしてくれるのが「あめつち御膳」(お茶付き)です。1910年創業で、1910年に鳥取県で創業し、1943年から駅弁の製造販売を手掛ける、鳥取県を代表する駅弁屋『アベ鳥取堂』がつくっています。鳥取牛のしぐれ煮やあご(飛魚)ちくわ、とうふちくわ、炙りハタハタ寿し、元祖かに寿しなど鳥取県産の食材や名産品、郷土料理を取り入れた12種類の料理が詰められています。

特に、「元祖かに寿し」はカニの身の赤と錦糸卵の黄色が華やかで『アベ鳥取堂』を象徴する駅弁です。発売は昭和27年(1952年)。当時は、保存や流通の技術がないため、おいしくて安価でしたが県外へは流通していなかった鳥取のカニ。そのカニを使った「かに寿し」を駅弁として出したところ、大人気の商品となり、今もその味を受け継いでいます。

「駅弁はただお腹を満たすだけではなく、日本各地にある食文化を食べていただくもの。鳥取の駅弁屋として鳥取の味を訪れた方々に食べていただきたいという思いでつくってきました」と語る『アベ鳥取堂』社長の阿部正昭さんの言葉からは、駅弁屋としての誇りが感じられます。

「『あめつち』は、鳥取駅から出雲市駅、とローカルからローカルを繋ぐ観光列車。地元のいいものを紹介している列車の中で食べるお弁当をつくることができるのはとても光栄です。お弁当を通して、鳥取県にはおいしい食材や料理がまだまだあることを感じて、味わってもらいたいです」

『アベ鳥取堂』社長の阿部正昭さん。伝統の味を守りながらも、新しい駅弁の開発にも情熱的に取り組んでいます。「駅弁」への愛情があふれていました。
『アベ鳥取堂』を代表する2つの駅弁。左は昭和27年(1952年)に発売され、全国的にも人気を博した「元祖かに寿し」。右は、川がにを使った鳥取の郷土料理「ずがにめし」にヒントを得た「かにめし」。カニの姿をしたパッケージは、環境にやさしい素材を使っています。

観光で地域を盛り上げたい――『大江ノ郷自然牧場」の「大江ノ郷スイーツセット」

1994年に創業した『大江ノ郷自然牧場(おおえのさとしぜんぼくじょう)』は、鳥取県・八頭町(やずちょう)で平飼い養鶏場を営んでいます。養鶏場に隣接して卵の直売所とカフェがあり、そこで販売されているスイーツは大人気。山深い場所にもかかわらず、年間36万人が訪れる(2019年)人気の観光スポットです。本来、店舗と鳥取空港、オンラインのみで販売しているスイーツを「あめつち」で味わうことができます。

「『あめつち』で販売するお話をいただいた時は、本当にうれしかったです。弊社のスイーツを、山陰を旅するお客さまに食べていただけるのは、またとない機会だと思いました」と語るのは、広報チームリーダーを務める髙木寛子さんです。

セットの内容は、プリンやロールケーキなど『大江ノ郷自然牧場』の人気商品を集めています。どの商品にも『大江ノ郷自然牧場』自慢の「天美卵(てんびらん)」を使用。ほかの素材も鳥取県産や国産、有機栽培にこだわっていて、食品添加物無添加です。パッケージも「あめつち」のイメージカラーに揃えた新しいデザインにしました。

「八頭町で平飼い養鶏ができているのは、地域の方々に受け入れていただけたから。カフェや宿泊施設(2019年オープン)をつくったのは、観光で地域を活性化させ恩返ししたい、という気持ちからです。『あめつち』で『大江ノ郷自然牧場』や八頭町について知っていただき、『このまちを訪れてみたい』と思っていただけたらうれしいです」

『大江ノ郷自然牧場』で広報を務める髙木寛子さん。「緑に囲まれて、夜は満天の星。夏はホタルが普通に飛び交います。この自然が天美卵を育んでいます」。
併設されたカフェ『ココガーデン』のパンケーキ。自慢の卵を使ったふわふわ食感がリピーターを呼びます。

島根の味覚で、心も満たす――『一文字家』の「山陰の酒と肴(さかな)」

いろいろな味わいを少しずつ、ゆっくりと食を楽しめるのが、彩りも華やかな10種類の肴と島根県の銘酒「豊の秋 純米吟醸 花かんざし」がセットになった「山陰の酒と肴」です。

肴の折り詰めをつくっているのは、1901年、島根県松江市で料理旅館として創業した『一文字家』。1908年の松江駅の開業とともに始めた駅弁の事業も115年の歴史があります。社長の景山直観さんは「駅弁は、お腹だけでなく心も満たしてくれる存在。旅の思い出として心に刻まれていると感じています」と語ります。

島根牛や宍道湖のしじみ、日本海産のあご(飛魚)、出雲そば、甘えび、大山鶏など、山陰の名産品を素材に、地元の味噌や醤油などを使い、地域の人々が馴れ親しんだ味に仕上げています。奇をてらったものではないのですが、何度食べても食べ飽きない、そんな味です。その時に一番おいしいものをお届けしたいから、季節によって料理の内容は少し変わっています。

「『あめつち』は山陰の魅力が集められた観光列車という印象です。その中で食べていただくお弁当を作ることができたのは、駅弁をつくるものにとってはとてもうれしいこと。旅に出て、じっくりと風景や地域の空気を味わい、土地の人と触れ合い、そしておいしいものを食べて頂ければ、思い出の場所としてまた来たくなると思います。『山陰の酒と肴』もそんな旅の一部になってほしいです」

『一文字家』社長の景山直観さん。「奥出雲はいい米ができ、その米を使った麹で味噌や醤油がつくられてきました。そうした発酵食品を使い、地元の味を大切にしています」
『一文字家』の駅弁から景山さんおすすめの2つを選んでいただいた。左は、かにの脚の身をたっぷりと入れた「かに寿し」。右は、島根県産コシヒカリのご飯の上に、島根牛を奥出雲の天然醸造みそと、地元酒蔵の酒で甘辛く炊いたものをのせた「島根牛 みそ玉丼」。真ん中のとろとろ卵を崩しながら食べると味の変化を楽しめます。

茶の湯文化が息づく松江の和菓子--『彩雲堂』の「松江の和菓子詰合せ」

松江市は、松江藩の城下町として栄えてきました。不昧(ふまい)公として市民に親しまれている松平治郷(はるさと)公が、松江に茶の湯を広めた伝統は今も受け継がれ、家庭で抹茶を嗜む習慣が根付き、多くの和菓子屋があります。『彩雲堂』は1874年創業で、不昧公が好んでいた和菓子「若草」を、文献などを参考に復活させた老舗としても知られています。「あめつち」車内でも、松江の歴史や文化に想いを馳せ味わえる「松江の和菓子詰合せ」が用意されています。

「松江に息づく茶の湯の文化を、和菓子を通してお客さまに伝えられればと思います」と語るのは、『彩雲堂』営業部部長の原大輔さんです。詰め合わせをつくるにあたっては、車内で食べやすいものを、と考えたそうです。「『若草』と、ほんのり塩味の特製餡を使った山陰伝統の薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)『朝汐』。そして宍道湖の夕景をイメージしたほうじ茶の羊羹『宍道湖夕景』。この3種類で構成しました」。

実は「あめつち」の運行時間では、宍道湖の夕景を見ることができません。そこで、お菓子でその光景を想像してもらいたい、そんな意図も「宍道湖夕景」には込められています。「『彩雲堂』から宍道湖までは歩いて行けますし、近くに夕景スポットがあります。車内で和菓子を食べたお客さまが、『本物を見てみたい』と再び訪れていただくことを願って、職人と試行錯誤しつくりました」。

『彩雲堂』で営業を担う原大輔さん。Iターンで松江に来て8年になります。「松江は静かで落ち着いた土地柄。食べ物も好みに合っています」と語るように、松江の暮らしが気に入っています。
『彩雲堂』の和菓子。手前の「伯耆坊」は、求肥をあんこで包んだ素朴な味わいです。鳥取県の名峰・大山に住む天狗の名前にちなんでいます。奥は「若草」。独自製法のふっくらとした求肥に、砂糖を混ぜた薄緑色の寒梅粉(餅を焼いて粉にしたもの)をまぶしてあります。

バラエティ豊かな、山陰を愛する人たちの力

「鳥取県と島根県の多くの方々に協力していただいて実現した観光列車だと思います」と『西日本旅客鉄道 中国統括本部 山陰支社(以下、JR西日本山陰支社)』の山陰地域振興本部地域プロモーション課で「あめつち」を担当する佐々木祥子さんは語ります。

「協力していただいた方々には山陰にある伝統や文化、自然、食などを”いいもの”という視点で掘り起こす『山陰いいもの探県隊』(※)の隊員も多く、食を担っていただいている『アベ鳥取堂』さん、『一文字家』さんも隊員です。山陰を愛する人たちの気持ちが『あめつち』には生かされています」

※『山陰いいもの探県隊』については、こちらの記事をチェック

JR西日本山陰支社の佐々木祥子さん。「山陰いいもの探県隊」の担当を経て、2022年10月から「あめつち」を担当しています。「『探県隊』で培った地域の方々との関係を、『あめつち』を盛り上げるために生かしていきたいです」と抱負を語ります。
「あめつち」の車両を彩る山陰の手仕事の数々。右上/石見神楽(島根県)の刺繍で、神楽衣装を象徴する龍や渦巻き、日本海の荒波や千鳥などを表現しています。右下/鳥取県・智頭町の智頭杉を使った壁面装飾。左上/車両の天井を飾る因州和紙。鳥取県の伝統工芸品です。左下/車内は落ち着いた雰囲気で、窓に向き合う展望席もあります。石州瓦(島根県)のタイルがテーブルを彩っています。

予約した食事を提供したり、販売カウンターで両県のお土産物や「あめつち」オリジナルグッズを販売するアテンダントも、同じ気持ちで臨んでいます。アテンダントの大橋春奈さんは、「あめつち」に乗って良かった、楽しかったと感じていただけるように、笑顔での接客を心がけています。

「『ずっと乗りたかったんですよ』とうれしそうにお話しされるお客さまもいらっしゃって、あらためてこの列車の素晴らしさを感じることができます。降車の際に、『楽しかったよ』『また乗ります』と声をかけていただけると、大変うれしい気持ちになります」

同じくアテンダントの杉田里美さんは「まずお客さまが、安全・安心・快適にご乗車いただけるよう、スタッフ間でしっかりと連携しています」と乗車時の心がけを語ります。

「山陰の空と海をイメージした車体の紺碧色が美しい列車です。車内にも山陰の伝統工芸品がたくさんあり、一つひとつこだわってつくっています。車内だけでも見応えがあります。一人旅でもグループ旅でも、一緒に乗車した方々みんなで楽しめる、そんな列車になっています」

アテンダントの大橋春奈さん(右)と杉田里美さん。二人とも鳥取県の出身で、地元を走る観光列車に誇りをもってお仕事をされています。
アテンダントは、心を込めてお客さまにお弁当をお出しします。列車の旅を楽しんでいただくための大切な仕事のひとつです。

地域との連携を深め、多くの観光客を山陰へ

2023年7月1日、「あめつち」は運行開始5周年を迎えました。5周年に向けて、運転士や車掌、アテンダント、そして佐々木さんをはじめとしたJ R西日本山陰支社のメンバーら「あめつち」にかかわる人々が集まり、周年行事だけではなく、これからの「あめつち」について話し合いを重ねてきました。

「これまではシニア層が多かったのですが、ファミリーや20代、30代の友人同士でのご利用も増やしたいと思っています。車内でのお子さま向けのクイズ企画やどじょうすくいの披露など、少しずつ試しています。5月には大阪駅でPRイベントも行いました。5周年が『あめつち』をもっと知っていただくきっかけになれば」と佐々木さん。さらに観光協会や地域との連携を深めて、車内での楽しみも増やしていきたいと語ります。

「旧暦の神有月(出雲では神無月に全国から神様が集まるのでこう言います)等、季節に合わせたイベントを、地域の事業者様と一緒にできたらと考えています。お客さまへのアンケートでも景色、食事、車両、音楽、どれもとても好評をいただいています。これからも、地域の方々の力を借りて、『あめつち』、そして山陰の魅力をしっかりと発信し、多くの方々に山陰に足を運んでほしいです」

車内には「あめつち」をより楽しんでいただくための仕掛けがあります。左上・右上/車掌が配っているのは「神様おみくじ」。開くと神様の名前とどんな神様なのかが解説されています。左下/おみくじの余白には車内に置かれている乗車記念スタンプを押すことができます。右下/運行区間の見どころを紹介している「車窓手帖」(右)と、車内の伝統工芸品の紹介のほか、山陰地方の魅力をまとめた「あめつち手帖」は、旅を深めてくれます。
日本海や宍道湖、田園地帯や大山など、車窓には次々と山陰の豊かな風景が現れていきます。

Information
「あめつち」運行5周年を迎える2023年は、さまざまな企画が実施されます。7月1日(土)の5周年記念セレモニーのほか、6月、7月、8月は普段は運行していない松江-出雲横田(木次線)、鳥取-城崎温泉(山陰本線)、鳥取-津山(因美線)の運行を行いました。また車内でのお楽しみ企画として、5周年記念乗車証(先着2,500名)や記念ノベルティ(先着1,000名)をプレゼント。車内では、お子さま向けに記念クイズも実施します。アテンダントの制服もリニューアル。車体と同じ「紺碧色」を基調に、日本の伝統的な模様をあしらっています。スカーフリングには、「あめつち」のエンブレムと同じデザインを用いています。

「あめつち」の詳細はこちら

JR西日本山陰支社・佐伯祥一支社長からのメッセージ

山陰エリアには「あめつち」のほか、「ゲゲゲの鬼太郎列車」、「石見神楽ラッピング列車」など、地域の特色を反映した列車が多くあります。山陰本線と伯備線を走る特急「やくも」は、国鉄色等懐かしさを感じられる塗装でリバイバル運転しており、地域と連携したグッズの開発も行っております。2024年の春には新型やくも号の運行が始まります。これらの取り組みを通じて地域の魅力を発信し、ご利用層も拡大することで、交流人口・関係人口の拡大に繋げていきます。

魅力的で持続可能な地域づくりを。JR西日本が取り組んでいる、地域との共生とは?

JR西日本グループでは、2010年頃から「地域との共生」を経営ビジョンの一角に掲げ、西日本エリア各地で、地域ブランドの磨き上げ、観光や地域ビジネスでの活性化、その他地域が元気になるプロジェクトに、自治体や地域のみなさんと一緒に日々取り組んでいます。そんな地域とJR西日本の二人三脚での「地域共生」の歩みをクローズアップしていきます。

【第4回 鳥取県・島根県編】はこちらから。
今までに公開した【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ】の一覧はこちら
ぜひ他の地域の事例も読んでみてくださいね!

photographs by Kiyoshi Nakamura
text by Reiko Hisashima

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