【sponsored by 公益財団法人東京観光財団】
『(公財)東京観光財団』が実施する『Nature Tokyo Experience』の支援を受けて、東京都福生市に2019年10月にオープンした「The TINY INN」。タイニーハウスを活用した小さな宿泊施設で、敷地内にはフードトラックが集結した「Delta EAST」もあり、新しい福生の旅をクリエイトしている。そんな「The TINY INN」を企画・運営するNPO法人『FLAG』副理事の佐藤竜馬さんと『ソトコト』編集長の指出一正が、これからの旅やスモールビジネスについて語り合いました。
東京でありながら東京でないエキゾチックなまち、福生。
指出一正(以下、指出) 福生、久しぶりに来ました。ここ数年間は『ソトコト』の取材で全国の中山間地を訪れる機会が圧倒的に多かったのですが、最近は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、足元である東京を改めて見つめ直そうとしていたところ、福生のまちづくりで活躍されている佐藤さんとお話ができる機会が得られ、とてもうれしいです。
佐藤竜馬(以下、佐藤) ありがとうございます。ご存知のように、福生は「基地のまち」です。僕は福生に生まれ、父が暮らしていた米軍ハウスの魅力を聞かされながら育ったのですが、あまりこのまちを好きになれず、誇りも持てませんでした。
指出 なぜですか? とてもいいまちなのに。
佐藤 田舎だから(笑)。人からどこに住んでいるか聞かれても、「立川のほう」とごまかしたりして。都心の会社で広告デザインやマーケティングの仕事を長く続けていましたが、東日本大震災で価値観が大きく揺さぶられました。地域に目を向け、福生についても調べるようになったのです。アメリカのカウンターカルチャーに憧れた僕らの父親世代は、穿いているだけで不良とされたジーパンを穿き、ジョン・レノンのように髪を伸ばし、米軍ハウスに暮らしてロックやアートに夢中になり、資本主義社会に逆行しながら「ラブ&ピースだぜ」と粋がって生きていました。それが僕の生まれた1970年代の「福生らしさ」ですが、果たしてそこに自由はあったのかどうか。
指出 僕は群馬県高崎市の高校に通いながら、大瀧詠一の「福生ストラット」を聴いたり、吉田秋生の『河よりも長くゆるやかに』を読んだりして福生に憧れを抱いていました。大学進学で上京し、高円寺で一人暮らしを始めたとき、横田基地沿いを走る国道16号線で写真を撮りたくて遊びに来たのが初めての福生。東京でありながら東京でないようなエキゾチックな感覚が味わえて、しかも親しみを感じるまちという印象でした。
佐藤 基地があり、アメリカ兵がまちを歩き、ディープなライブハウスに明かりが灯るという独自の文化を形成したまち。レコード盤に例えるなら、売れる曲が入ったA面ではなく、歌い手のこだわりの曲が入ったB面のようなまち。それは福生のよさでもあるのですが、そのイメージが今なおアップデートできない壁としてあるのも事実です。
「The TINY INN」は、旅行者と福生の関係案内所。
指出 そんな福生で、NPO法人『FLAG』を立ち上げ、仲間とともにまちづくりを始められたわけですが、福生の「アップデートできない壁」をどうやって乗り越えたのですか?
佐藤 2017年にアメリカのポートランドを旅したときに衝撃を受けました。僕らの父親世代に影響を与えたヒッピーの、その子どもたちが元気に暮らし、好きなビジネスに挑戦する姿がまちを輝かせていたのです。福生にも彼らのように好きなことをスモールビジネスとして挑戦したいと思う若い人たちはいるのに、今一つ輝きを放てないのはなぜだろうと考えたとき、若い人たちを支えるべきファンダー(資金提供者)とうまく共存できていないことが最大の課題だと気づいたのです。両者が仲良くなれる方法を探っていたところ、『カーライフサービス多摩車両』代表取締役の猪股浩行さんと出会い、トレーラーハウスを使った飲食店が集まる「Delta EAST」や、宿泊施設「The TINY INN」の構想を挙げ、「福生をアップデートしたい」と話したら、「おもしろそうじゃん」と共感してくださって。まさにファンダーとして資金提供してくださろうとしたのですが、社内的にゴーサインが出ず。2年ほど経った頃、『Nature Tokyo Experience』という『(公財)東京観光財団』の支援事業を知り、改めて猪股さんにお声がけして、『カーライフサービス多摩車両』が応募し、採択されました。
僕が立ち上げたNPO法人『FLAG』は、ソーシャル・デザインのコンサルタントファームで、まちづくりや都市計画、アーバンデザイン、地域活性化、地域ブランディング、エリアプロデュース、エリアマネジメント業務の企画プロデュース、そしてデザインに携わっています。
指出 そうして生まれたのが「The TINY INN」。
佐藤 はい。連泊し、まちを回遊しながら、まちと一体となって暮らすように泊まれるホテルが福生にはありませんでした。ないなら、自分たちでつくろうと。もしかしたら、そういう機能を昔は米軍ハウスが担っていたのかもしれません。週末、友達が暮らしている米軍ハウスに遊びに来て、「福生って、おもしろいまちだね」と気に入り、移住してくるような。「The TINY INN」もそういう役割を果たせたらと考えています。
指出 旅でいちばんワクワクするのは、思いがけない人との出会い。パッケージ化された旅行では訪れたまちの人に出会うチャンスはほとんどありませんが、「The TINY INN」や「Delta EAST」は、旅行者と福生が関係を築ける関係案内所としてあり、関係案内人として佐藤さんや仲間が迎えてくれる。ただ泊まるだけではなく、ご飯を食べるだけでもない、「福生とのおもしろい関わり」がここで見つかりそうです。
若い人たちのまちづくりやスモールビジネスを応援。
指出 「The TINY INN」や「Delta EAST」の運営もそうかもしれませんが、福生で仕事を生み出していくことはNPO法人『FLAG』の活動の柱の一つだと思います。その際に心がけている点は何ですか?
佐藤 バランスを取ることです。スモールビジネスを始めようとやる気にあふれた若い人たちに向かって、功成り名遂げた先輩方は「俺らの時代は」とバブル期の武勇伝を話し、走り始めた若い人たちをスタックさせてしまう。アドバイスしてくれる気持ちはうれしいので無下にはできないので……。そういうバランス。
指出 僕も関係人口を迎え入れる地方の先輩方に、「若い人たちが新しく見つけたことを応援してあげてください」と言っています。若い人が地域でおいしいパン屋を見つけたことを楽しげに自慢している横で、「そんなの昔からあるよ」と地方の先輩が水を差すと、若者の気持ちは一気に削がれてしまいますから。パン屋を見つけたのは若者の新発見なので、その視点を応援してほしいのです。
佐藤 まだ実現できていませんが、『カーライフサービス多摩車両』の新規事業部門として「LOCAL FOUNDATION(仮称)」を設け、スモールビジネスに投資するような事業を始めたいと考えています。若い人たちのクリエイティビティとビジネスをうまく合致させるための資金を提供したいです。「The TINY INN」もそうですが、事業を継続的に支援する助成金はビジネスの初動に弾みをつけてもらえますから。
指出 まちづくりやスモールビジネスに挑戦する若い人たちは孤軍奮闘するケースも少なくないので、まちの先輩方からのサポートは力になるはず。最後に、佐藤さんが考えている次の一手を聞かせてください。
佐藤 まちをおもしろくしたいという熱いマインドを持った行政職員を育成する「福生未来会議」というプログラムを開催しました。今は一時停止中ですが、その「福生未来会議」の市民版のイベントをオンラインか、できればオープンエアの「Delta EAST」でソーシャルディスタンスを保ちながら開催したいと考えています。
指出 パブリックスペースは変化の源泉です。老若男女、多様な市民が集まることで場の体験値が上がり、地域全体が変わっていきます。「The TINY INN」を含む「Delta EAST」はまさに地元の企業とNPOがタッグを組み、(公財)東京観光財団が後押しすることで、福生の暮らしや文化が新しく変化していくきっかけや仕掛けをつくることができた好例だと思います。この素敵な三角地帯から福生がよりおもしろいまちになっていくことを期待しています。
佐藤 感度が高い若者だけではなく、近所のおばさんやおじさんがふらっと立ち寄ってくれるのも福生らしさ。オープンしてまだ1年半ほどですが、もっとおもしろい場になるよう展開していきたいです。
NATURE TOKYO EXPERIENCE
豊かな山々に囲まれた多摩、青空と海が広がる島々。日本の中心都市の顔とはちがった、“東京の自然”という今までにない魅力を感じることができる多摩・島しょエリアに着目し、体験型・交流型の新たなツーリズムを開発する事業を応援するプロジェクト。