台湾の人気移住先の今。

連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中 | 23 台湾の人気移住先の今。

台湾人がなぜここに移住するのか?


 前号では日本同様、年々盛り上がる台湾の地方カルチャーの動向やアフター・コロナの日本人の台湾微住のススメについて、3人のキーパーソンの紹介をもとにお話しした。


 今回は出版社『裏路make paths』の編集者であり、ムック本『地味手帖』の著者でもある董淨瑋さんとのお話を通して、今彼女が注目している台東のおもしろさと移住地としての人気の理由を考察していこうと思う。


台東
編集者の董淨瑋さん。一人で定期出版するムック本『地味手帖』は現在5号まで発行。

「台湾の地方カルチャーを語る上で台東を無視することはできません。2019年を皮切りにスタートした台湾政府による地方創生の施策だけに限らず、それ以前から民間のアーティスト団体や、個人、店舗などがここ台東で続々とおもしろい展開を生み出しています。その影響がさらなる吸収力となり、ここ3、4年における台湾国内の移住先の上位に常に台東の名があります」、と董さん。


 台東はその名の通り台湾東部に位置し、平原から高山地帯、海洋から離島と自然豊かなまち。台湾屈指の米どころである池上地区をはじめ、関山地区や鹿野地区など良質な農業環境に恵まれ、自然農法を目指す新規就農者や、台北でお店や食品ブランドを営むオーナーたちを魅了し、台東へと移住する人たちが年々増えているそうだ。


 董さんは台東の魅力を違う角度からも話す。「台東への移住者は農業関連ばかりではありません。海岸線に位置する都蘭地区では、数年前よりアーティストやクリエイターがこの地域のゆったりとした空気感に注目し、2013年に台湾で初の原住民文化をテーマにした音楽フェス『阿米斯音樂節(Amis Music Festival)』を開催しました。さらに昨年2020年には台東の原住民文化をさらに発信しようとブランド『都蘭國(A''tolan Style)』を立ち上げ、年末には半月にわたりライフスタイル・フェス『都蘭生活節』を開催。アーティストやつくり手にとっても台東は絶好の地なのです」。


 これまでの都市部での「消費する」暮らしから、地方で自ら「つくる」暮らしへとシフトしようとする人々にとって台東はもってこいの場所なのだろう。


台東
『台東移住計画』のポスター。台北から少なくとも半日はかかる台東。もしかすると日本へ行くより遠いかもしれない。

地域における移住者たちのムードづくり。


 実際にどんな人が移住してどんな事を起こしているのか。董さんに、より人に注目した具体例を伺った。


「台東の北部にある長浜地区はここ1、2年でちょっとした移住者のまちになっています。そのキーパーソンがこの地域で初めて独立系ブックストア『書粥』をオープンした高耀威さん。彼はこれまで台湾の各地に移り住み、地元の人たちを巻き込みながら地域に入り込んでいます。このブックストアの運営方法は独特で、高さんは台南と台東の二拠点生活のため、彼のいない半月は地元で店長を募集し、地域の住民と書店の共同運営をしています。携わる人たちが増えることで、長浜地区のPRにもつながっています」


台東
ブックストア『書粥』の店内。近所の人がおしゃべりにやってくる憩いの場でもある。

 続けて董さんは台東へ移住した人たちによる地域資源を活用した活動も注目されていると話す。「まずは8年前から台東市内に拠点を構える『津和堂』。創設者のさんは台東の多民族文化と食文化に魅了され、台北から移住。2017年からスタートした食のフェス『台東慢食節』をはじめ、『慢食城』という考えを掲げ、日々台東の食とライフスタイルの魅力を発信しています。次に『邸Tai Dan』の創設者・劉誥洋さんと陳怡萍さんのお二人。古い砂糖工場の一角をリノベーションしたコワーキングスペースを運営しています。その運営の中で『台東移住計画』と題した移住説明会を台北や高雄で開催。移住希望者の地元での雇用のマッチングを行っています」。


 台東の魅力は何か。私自身も台東へのイメージはここ数年で“遠くてコテコテの田舎まち”の印象から変化している。そして地域をより魅力化させるうえで、目にこそは見えないが地域のムードづくりが大事だと思っている。そのムードは地元住民だけの一方的な地元自慢とは違い、外からやってきた移住者たちがさまざまな着想から“着火”させていけるもの。その狼煙を見て、また新たな移住者を巻き込む循環ができていくのだろう。


 台東は台湾の中でも魅力的な大型施設が多いわけでもなく、交通の便もよくない。しかし上記の移住者たちを中心に台東の土着性を活かし魅力的な地域が持つ特有のムードを生み出したことで、地域の不便さをもポジティブに変えてしまう地域になったと思える。台東に移住をした人たちは、このまちに一度来ると離れたくなくなると口を揃える。さらにそこに海を越えて日本からも微住者がこの地に加わると……コロナ後の台日系カルチャーが一層楽しみだ。

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