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特集 | 地域のデザイン2020

新潟の「ゆか里」を、全国の「浮き星」に。『hickory03travelers』の仕事。

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地元企業とのコラボや美術館のショップ運営など、デザインと制作と販売を行う『hickory03travelers』。なかでもエポックメイキングな仕事となったのが、新潟の伝統菓子をリ・デザインした「浮き星」だ。「浮き星」がどうやって全国区のスイーツに生まれ変わったのか。代表の迫一成さんに尋ねました。

目次

「売らなきゃ!」という、使命感から「浮き星」が誕生。

 迫一成さんが代表を務める『hickory03travelers』が販売する「浮き星」は、もともとは「ゆか」という、「ああ、お湯を注いだら浮いてくるお菓子でしょ?」と新潟県人なら懐かしそうに思い出す、伝統の砂糖菓子だ。新潟市の老舗菓子店『明治屋』も1900年の創業当時から製造・販売してきた菓子で、和菓子店やスーパーで広く売られていた。そのゆか里を、なぜ『hickory03travelers』が浮き星という名前で売っているのか?

 迫さんがゆか里に出合ったのは2012年、「水と土の芸術祭」のショップ運営に携わったとき。ショップで販売する新潟の土産物を探していたところ、スタッフがゆか里を提案してきたのだ。「新潟にこんなお菓子があるんだ」と迫さんは気に入り、芸術祭が終わった後は『hickory03travelers』でも販売することにした。

新潟市の上古町商店街にある『hickor y03travelers』。
新潟市の上古町商店街にある『hickory03travelers』。

 ゆか里はそれなりに売れたが、パッケージが古めかしい。見せ方を変えたら若い人にもっと売れる可能性を感じた迫さんは、製造元の『明治屋』代表の小林幹生さんにパッケージデザインのリニューアルを提案した。しかし、小林さんからは、「パッケージはお金をかけて変えたばかりなんですよ。売れ行きはそんなに変わらないけど」と、やんわりと断られた。迫さんはそのまま売り続けた。

ゆか里

 「金平糖みたいでかわいい!」と、ゆか里はイベントでよく売れた。本来はお湯を注いで食べるのだが、そのまま口に入れて食べる人が多かった。迫さんはゆか里を『hickory03travelers』オリジナルのデザインで売ろうと、透明のビニール袋に、単色ではなく色をミックスして詰め、新潟のシンボルであるハクチョウのイラストのシールを貼った。「僕らはお湯を注ぐことしか頭にないから、色をミックスすれば味が混ざってよくないと思ったけど、迫さんは『見た目がかわいいから』と。売れるならとミックスにしましたよ」と話す小林さんとの交流が始まり、会話を重ねるなかで、小林さんが76歳であること、後継者がいないこと、ゆか里は小林さんしかつくっていないことを迫さんは知った。「どうすれば後継ぎはできるのですか」と尋ねると、「ゆか里が売れたら」と小林さんは笑う。「売れたら給料が出せるから」。

オリジナル商品やコラボ商品などを販売する『hickory03travelers』。新潟のお土産にもぴったり。
オリジナル商品やコラボ商品などを販売する『hickory03travelers』。新潟のお土産にもぴったり。

 ゆか里は明治時代から新潟で愛されてきた菓子だが、時代の移ろいとともに和菓子店でもスーパーでも見かけなくなっていった。福岡県出身で新潟大学に入学して以来10年以上も新潟県内に住む迫さんでさえゆか里は知らなかった。「ゆか里が売れたら」という小林さんの言葉を聞き流すことなく、「売らなきゃ」「残さなきゃ」という強い思いに駆られた迫さんは、県内だけでなく全国に向けて販売しようと決意。家に戻り、ゆか里本来の食べ方で味わってみた。湯飲みにゆか里を入れ、お湯を注ぐ。お湯の表面を見つめながら待っていると、ぷか、ぷか、と星形の粒が浮いてくる。「浮いてくる!」と迫さんは子どものように声を上げた。「やっぱりこの商品にとって“浮いてくる”というのは、楽しい価値なんだと改めて意識しました」という迫さんの頭に、「浮き星」という商品名がぷかっと浮かんだ。

ハクチョウのシールが貼られた袋入りの浮き星。柚子、いちご、ミントなどカラフルな味わいが楽しめる。
ハクチョウのシールが貼られた袋入りの浮き星。柚子、いちご、ミントなどカラフルな味わいが楽しめる。

 透明な袋だけでなく、缶入りもデザインして、東京で開催された中量生産品や手工業品の展示会「ててて見本市」に出展したところ、「2万個も注文を受けましたよ」と、迫さんは小林さんに喜びを伝えた。注文は年々増え続け、今では年に10万個も売れるヒット商品に。味と色は8種類に増え、食べ方もお湯を注ぐ以外に、そのまま食べたり、ソーダを注いだり、アイスやヨーグルトにトッピングしたりと提案している。「ものは、ゆか里と同じです。『明治屋』がつくったものを仕入れ、浮き星としてパッケージし直し、検品もして、『hickory03travelers』で販売したり、全国のショップに卸したりしています」と迫さん。浮き星をデザインするうえで大切にしたことを尋ねると、「デザインも大切ですが、僕の勝手な使命感で『絶対に売らなきゃ』ということばかり考えていました」と答えた。

缶入りの浮き星。お土産やプレゼントに。冬は雪だるま柄、夏はハクチョウ柄を販売。
缶入りの浮き星。お土産やプレゼントに。冬は雪だるま柄、夏はハクチョウ柄を販売。

 浮き星がヒット商品になったことで『明治屋』はフル回転。給料も払えるようになり、今は後継者がゆか里をつくっている。「“つくる後継者”はもちろん、“食べる後継者”が全国に生まれたことがうれしいです」と迫さんは微笑んだ。

リアル店舗と流通を持っているのが僕らの強み。

 新潟市の地下街のチャレンジショップでTシャツの製造・販売から始めた『hickory03travelers』。「お金が貯まったら地上へ出よう」と100万円を貯め、「のんびりとした雰囲気が好き」という上古町商店街で空き店舗対策の助成金を活用して店舗を持った。イベントを開催するとテレビ局が取材に来たり、ガイドブックに掲載されたり、若者が訪れる商店街に。「あの頃は“まちづくりの人”でした」と笑う迫さんは今、上古町商店街振興組合の副理事長も務める。

 地元企業とコラボレーションして新商品をデザインしたり、障害者就労支援施設と「熊と森の水」というリネンウォーターを開発したり、「水と土の芸術祭」のショップや新潟市美術館ミュージアムショップ『ルルル』の企画・運営に携わるなど、地域に根ざした商品開発やデザイン、店舗の運営にも力を注ぐなか、愛媛県の地域法人『無茶々園』のコスメティックブランド「yaetoco」のデザインを担当し、ヒット商品に。「その仕事で流通の大切さを知りました。新潟だけで商売するのではなく、全国に売り出そうと」。東京の展示会に出展してバイヤーに売り込み、卸先を増やしていった。「そうして築いた流通のノウハウを、浮き星に投入したのです」と迫さん。「一般的なデザイン会社はデザイン料をもらって終わりですが、売り場や流通を持っていれば、自分たちが開発した商品を継続的に販売できます。それが『hickory03travelers』の強みであり、浮き星がその代表例です」。

 卸先は現在200社ほど。年間の卸の売り上げはデザイン料の倍になる。「インターネットの時代ですが、リアルな売り場は大事です」と迫さん。今後も流通を広げつつ、「『hickory03travelers』でしか買えない地方の価値ある商品も開発したい」と笑顔で意気込む。

『hickory03travelers』のメンバー。もともとは酒屋だった建物を買い取って店舗にしている。
『hickory03travelers』のメンバー。もともとは酒屋だった建物を買い取って店舗にしている。

WHAT”S “YUKARI”

「ゆか里」とは?

『明治屋』3代目・81歳の小林さん(右)と、後継者で娘婿の川崎明広さん(左)。ゆか里は『明治屋』創業以来の看板商品。砂糖が贅沢品だった戦後は訪問客に振る舞ったり、結婚式の引き出物に使われたりした。日本が豊かになってからは菓子の種類が増えたため、ゆか里の存在感も薄くなった。それでも、小林さんはゆか里をつくり続けた。「後継者が見つからなかったら私の代で終わるつもりでした」と小林さん。迫さんと出会ったことで売り上げがアップし、後継者を迎えることができた。

 『明治屋』3代目・81歳の小林さん(右)と、後継者で娘婿の川崎明広さん(左)。ゆか里は『明治屋』創業以来の看板商品。砂糖が贅沢品だった戦後は訪問客に振る舞ったり、結婚式の引き出物に使われたりした。日本が豊かになってからは菓子の種類が増えたため、ゆか里の存在感も薄くなった。それでも、小林さんはゆか里をつくり続けた。「後継者が見つからなかったら私の代で終わるつもりでした」と小林さん。迫さんと出会ったことで売り上げがアップし、後継者を迎えることができた。

HOW TO EAT

食べ方

「柚子の香り」から名づけられたゆか里(柚香里とも)。高知産の柚子の皮を砂糖漬けにした自家製の蜜をかけてつくる。湯飲みにたっぷりと入れよう。

 「柚子の香り」から名づけられたゆか里(柚香里とも)。高知産の柚子の皮を砂糖漬けにした自家製の蜜をかけてつくる。湯飲みにたっぷりと入れよう。

熱いお湯を注ぐ。「『お茶を引く』というのは商売が暇だという意味で縁起が悪いので、お茶ではなくお湯を注ぐようになりました」と小林さん。

 熱いお湯を注ぐ。「『お茶を引く』というのは商売が暇だという意味で縁起が悪いので、お茶ではなくお湯を注ぐようになりました」と小林さん。

しばらく待つと、「ぷか、ぷか」と1粒ずつ浮き上がってくる。誰もが笑顔になる瞬間だ。ゆか里は柚子の香りを楽しみながら甘い飲み物として味わう。

 しばらく待つと、「ぷか、ぷか」と1粒ずつ浮き上がってくる。誰もが笑顔になる瞬間だ。ゆか里は柚子の香りを楽しみながら甘い飲み物として味わう。

HOW TO MAKE

つくり方

金平糖はザラメに砂糖蜜をかけて大きくしていくが、ゆか里は小粒のあられに砂糖蜜をかけてつくる。最初の蜜をくっつかないようにかけるのが肝心。

 金平糖はザラメに砂糖蜜をかけて大きくしていくが、ゆか里は小粒のあられに砂糖蜜をかけてつくる。最初の蜜をくっつかないようにかけるのが肝心。

「ドラ」と呼ばれる大釜を回転させながら砂糖蜜をかけ、粒を大きくしていく。斜めに傾いたドラが回転するたびにザーッと音を立てて攪拌される。

 「ドラ」と呼ばれる大釜を回転させながら砂糖蜜をかけ、粒を大きくしていく。斜めに傾いたドラが回転するたびにザーッと音を立てて攪拌される。

数時間、砂糖蜜をかけ続けると粒が大きくなり、星の光のような「トゲ」ができてくる。この後、それぞれのフレーバーを回しかけて仕上げていく。

 数時間、砂糖蜜をかけ続けると粒が大きくなり、星の光のような「トゲ」ができてくる。この後、それぞれのフレーバーを回しかけて仕上げていく。

PACKAGING DESIGN

浮き星のデザイン

 イラストレーターや紙箱作家とのコラボパッケージや、新潟県内の地域をイメージしたデザインなども展開している。掲載商品は各648円(税込み)。

あんも

 新潟市出身で埼玉県在住のイラストレーター。前世はウニで、好きな食べ物は鶏の半身揚げだとか。柚子や牛の顔を擬人化して描いているのがユーモラス。

いちごベース (いちご、ミルク)

いちごベース
(いちご、ミルク)

ミントベース (ミント、シュガー)

ミントベース
(ミント、シュガー)

ミルク

ミルク

柚子ベース (柚子、シュガー)

柚子ベース
(柚子、シュガー)

ヘロシナキャメラ

 新潟市出身で東京都在住のアーティスト・イラストレーター。アクリル絵の具や水彩絵の具を使ったユニークなイラストが特徴。上古町商店街の地図も迫さんたちと一緒につくった。

ミントベース (ミント、シュガー)

ミントベース
(ミント、シュガー)

カフェオレベース (コーヒー、ミルク)

カフェオレベース
(コーヒー、ミルク)

ミルク

ミルク

抹茶ベース (抹茶、柚子、シュガー)

抹茶ベース
(抹茶、柚子、シュガー)

Akane Bon Bon

 長野県在住の紙箱作家・グラフィックデザイナー。紙で箱などの暮らしの道具を手作りするかたわら、パッケージや印刷媒体のデザインも手がけている。『hickory03travelers』で展覧会も行った。

カフェオレベース (コーヒー、ミルク)

カフェオレベース
(コーヒー、ミルク)

いちごベース (いちご、ミルク)

いちごベース
(いちご、ミルク)

柚子ベース (柚子、シュガー)

柚子ベース
(柚子、シュガー)

ミルク

ミルク

hickory03travelers

 以前、『hickory03travelers』のメンバーだったイラストレーターが描いたオリジナル缶。イラストにはそれぞれ、新潟県全域、新潟市、長岡市を中心とする中越地方の風物をちりばめた3パターンがある。

ミックスミックス (抹茶、いちご、柚子、コーヒー、シュガー)

ミックスミックス
(抹茶、いちご、柚子、コーヒー、シュガー)

ミックス16 (いちご、ミルク、ミント、柚子)

ミックス16
(いちご、ミルク、ミント、柚子)

浮き星ミックス (いちご、柚子、シュガー)

浮き星ミックス
(いちご、柚子、シュガー)

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