川沿いの小さな町の公営塾「黎明学舎」
新潟県東蒲原郡阿賀町。阿賀野川と常浪川が合流する町の中心地では、晴れた日の早朝、一面に川霧が立ち込めます。適度な湿度に恵まれた風土により、町には古くから糀や味噌、日本酒など、発酵食文化が栄えてきました。
その町中に新潟県立阿賀黎明高等学校があり、高校の向かいに旧セミナーハウスを活用した公営塾「黎明学舎」があります。
「黎明学舎」は阿賀町が2016年に設置した公営塾で、地域おこし協力隊制度を活用し、遠くは九州・福岡から地域の学びの場づくりに携わりたいとやってきた、4名のスタッフで運営しています。
学校が終わってからの16時から20時半までオープンし、宿題のフォローや学習習慣づくりのサポートの他、「テラコヤ」と題して、様々な職業・立場の人から話を聞く機会や、地元食材を使ったかき氷シロップづくりとかき氷屋台の実践、特産の自然薯を活かした「むかごジェラート」の商品開発などを行う「サンカク」などの活動を行っています。
学校は再休校、学習のオンライン化にも対応中
2020年春、例年より2週間ほど早く咲いた桜の中、新年度がスタートしました。2,3年生は、臨時休校明け、約1か月ぶりの登校。黎明学舎の生徒にも再会することができました。
黎明学舎では今年度から新教材として「論理的思考力・判断力・表現力」を磨く国語教材や、AI(人工知能)を活用したタブレット数学教材を使い始め、学習習慣をつけると共に学ぶ楽しさを大切にして活動していました。
ところが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全国に発令された緊急事態宣言を受け、5月6日まで高校も黎明学舎も休校することになってしまいました。4月24日現在、私たち公営塾スタッフは、オンライン会議システム等を活用した授業運営について検討、試験運用を始めています。
まず休校期間中に出されている学校の宿題についてその解説を動画に撮り、YouTubeチャンネル「黎明学舎」を開設し、アップロードしました。
次に、この春入学した高校1年生を主な対象とし、英語と数学の基礎を動画で復習する計画を立てています。具体的には、1コマ50分の中で動画教材を視聴し、確認テストを実施、さらにスタッフが分からない箇所を解説するという3ステップで「反転授業」を行います。
また、普段の通塾時に行っている学習前と後の生徒との個人面談も、オンライン会議システムの「小部屋機能」を活用して行っていく予定です。ひとりひとりとの対話の時間を設け、それぞれが今感じていることなどを共有していく他、普段対話の機会の少ない違う学年の生徒と話す機会を作っていく予定です。
対話による「双方向の学び」を深めること
ただ授業を再現すること、は重要ではありません。それよりも、ワークショップのように対話による双方向の学びを行い、生徒とスタッフ、または生徒同士で教え合う・話し合う場をオンライン上でつくることが重要だと考えます。対話を重ねることで、お互いが自分の向かうべき課題に気づき、それが次の行動につながっていきます。生徒がこれから自己実現に向けて進路選択をしていく際にも、この対話による学びは有効な手段であると考えられます。
「黎明学舎」では、昨年度から既にオンライン会議システムを用いて生徒が会いたい大人と生徒を繋げて対話をする取り組みを行ってきました。その中で、生徒にとって自分の理想の未来をより具体的に思い描くことができたり、また何のために働くのかについて自分の言葉で語ることができた、という実践例があります。(実践例のゲスト:美容師・プロダンサー・ペン画アーティストなど)
「機会」と「対話」を増やし地域での「実験」へ
「機会」「対話」「実験」のサイクルを何度も何度も回していくこと。それが黎明学舎の目指す探究的学びのスタイルです。「テラコヤ」やオンライン上での多様な他者との出会いを通して機会を得ること。その機会を対話によって振り返り、考え、発見すること。あるいは誰かに誘われ、巻き込まれてまず実験的にやってみること。やってみた後にまた対話し、新たな興味・関心が生まれること。そんな風にサイクルが回り始め、実験・実践したい!と思ったとき、その舞台は地域社会、つまり阿賀町になります。
今春、高校生と地域の大人たちの学びの橋渡しをする地域団体「阿賀黎明探究パートナーズ」が設立されました。「阿賀黎明探究パートナーズ」では、高校生を活動の中心に据え、地域の魅力と課題を発見・探究する取り組みにメンバーも伴走し・ともに探究していく仕組みです。生徒にとっては、リアルな場で地域の大人と関わり合い、地域の文化などを知っていく機会となり、ここでも様々な対話、そして実験・実践がなされていく予定です。
(今後の予定は黎明学舎twitterにて広報予定 @reimeigakusya)
地域の大人たちとともに、「機会」「対話」「実験」のサイクルを回していくこと。そんな双方向の学びのエコシステムを持った地域社会が、新型コロナウイルスの長く暗いトンネルの先に待っているような予感がしています。
