世界最大規模のニューヨークブックフェアの裏側からブックセラーたちの世界を捉えたドキュメンタリー『ブックセラーズ』。業界で名を知られるブックディーラー、書店主、コレクターや伝説の人物まで、本を探し、本を売り、本を愛する個性豊かな人々が登場。さらに、ビル・ゲイツが史上最高額で競り落としたレオナルド・ダ・ヴィンチのレスター手稿、「不思議の国のアリス」のオリジナル原稿、「若草物語」のルイザ・メイ・オルコットが偽名で執筆したパルプ小説といった希少本も多数紹介する。
ニューヨーク派の作家フラン・レボウィッツが辛辣ながらユーモアあふれる語り口でガイド役を務め、『カフェ・ソサエティ』などの女優、パーカー・ポージーが製作総指揮とナレーションを担当している話題作だ。
4月23日(金)より全国順次公開中。
※緊急事態宣言により上映館に一部変更あり。東京はキネカ大森、アップリンク渋谷で上映中、その他の地域は映画公式サイトをご確認ください。
今回、雑誌『ソトコト』や本ウェブサイトでもブックレビューを担当し、2021年3月に『ぼくにはこれしかなかった。』(木楽舎)を上梓した日本の「ブックセラー」である岩手・盛岡の新刊・古書店「BOOKNERD」の店主早坂大輔さんが感じたこの映画の魅力とは。
本を売る人間はつねに、どのような形でも現れ続ける。(文:早坂大輔)
ウディ・アレンの『マンハッタン』という映画のオープニング。ウディ自身のナレーションでニューヨークという街をさまざまに形容するシーンがある。
ロマンチックでたくさんの人間が偶像視する街。常に黒と白の存在で、ガーシュインの曲でもある街。ぼくがはじめてニューヨークの街に降り立ったときに思い出したのは、あのオープニングのナレーションのことだ。そして誰もがすぐに魅せられ、首ったけになってしまうくらい、やっぱりニューヨークという街はロマンチックで偶像的で、街全体がガーシュインの曲だった。
この映画はニューヨークを舞台にした映画だ。それもニューヨークに今も数多く存在する古書店についての、本を売る人間たちが主人公の映画なのだという。ニューヨークは本の街だ。それもとびきり個性的な古書店が各地に点在し、本を愛する人々のために今日も灯を点しつづけているが、書店の数は全盛期であった70年前にくらべ約5分の1までに減少してしまった。地価の高騰、店主の高齢化、大型書店やインターネットの台頭など、さまざまな要因でたくさんのすばらしい書店がその灯を消してしまっている。映画の中に登場するブックセラーたちもほとんどが高齢で、日々の業務の肉体的なハードさや業界の将来を嘆くものも多いが、ここ数年でその状況は変わりつつある。若い人間たちが次々と独立系書店を開業し、ユニークで斬新な手法で街に新しい文化の風を運んでいるのだ。
ひとつの時代が終わり、新しい時代が幕を開けるその瞬間、人は恐れおののき、嘆き、悲しみ、古いものにしがみつこうとする。その過渡期に何度も本はつねに人間に寄り添い、生き続けてきたように思う。本は古くて新しい。「紙は霊魂の蓄電器である」と映画の中でも語られていたように、本には紙やインクの匂いのほかに魔法のようなものがある。その魔法は過去と未来をつなぐ。かつて生きた人間の経験や叡智を、今を生きるわたしたちの現代の生活のなかに本が注ぎ込む。それはつまり、本を売り、本を買い求め、本を読むという行為はすなわち知性や文化を継承するという行為に他ならない。だから本を売る人間はつねに、どのような形でも現れ続ける。それは永遠に、人間たちが考えることをやめない限り、現れ、続いていくとぼくは信じたい。
『ブックセラーズ』映画公式サイト
http://moviola.jp/booksellers/
『ブックセラーズ』
原題:THE BOOKSELLERS|アメリカ映画 | 2019年 | 99分
監督:D.W.ヤング 製作総指揮&ナレーション:パーカー・ポージー
字幕翻訳:齋藤敦子 配給・宣伝:ムヴィオラ、ミモザフィルムズ