自由なブライダル事業を実現するために、東京から長崎県五島へ移住したmarieさん。仕事、育児、食、生活費など、五島に5年以上住み、彼女が感じた離島移住のリアルとは?また、カフェ・ゲストハウスの運営を経て、ついに始まったブライダル事業への想いを伺う。
marieさんが五島で感じた離島移住のリアル
東京のアパレル企業で働きながら、プライベートで友人のブライダル企画やドレスづくりに携わっていたmarieさん。「自分も何かをつくる仕事がしたい」と思っていたところに、五島の地域おこし協力隊の募集に出会う。五島なら、自由な結婚式をつくることができ、さらにそれが町おこしにもつながるのではと考え、離島への移住を決意した。
marieさんが五島に移住してから約5年半。良いことも悪いことも経験したからこそ話せる、離島移住のリアルについてお話を伺った。
五島の自然
――五島の自然の中で、好きな景色や場所はありますか?
「観光客があまり知らない、でもすごく綺麗な貝殻が拾える海があって、高崎海岸というんですが、そこが大好きです。」
――高い建物がないと、景色もひらけて見えそうですね。
「五島に来た時に、太陽が地平線から昇ってくるのを初めてちゃんと見ました。都会に住んでいたら、太陽がどこから昇ってどこに沈むかは知っていても、実際に毎日見てはいないですよね。ふとした瞬間に美しい景色に癒されることも多いです。」
――自然と近いことで、怖さを感じることもあるのでしょうか。
「今年は大きい台風が2つ連続で来て、地元の人たちはすごい早さで板を打ちつけたりと対処しているのですが、経験したことのない私たちはどうしたらいいか分からなくて。都会のように鉄骨の建物も少ないので、家屋倒壊した家もありました。地元の人たちが手助けしてくれたので私は大丈夫でしたが、誰かの助けがないと怖いなと感じています。」
五島の食
――五島の中でも特においしいものってなんですか?
「一番は魚介類です。鮮度の良いお魚が安く手に入るし、むしろ釣れます。特においしいと言われているのが、アオリイカ。関東ではなかなか食べられません。肉厚で甘くて、とてもおいしいです。」
「あとは、私が好きなのがハガツオという魚。身がピンク色で、生臭さが一切なくておいしいです!関東の方にはまず出回らないですね、ダメになるのが早いので。毎年ハガツオの時期になると、五島にいて良かったなと思います。」
――スーパーでも五島の旬の食材が並んでいるのでしょうか。
「本当に旬のものしか売っていないので、片寄るんですよ。でも、その分季節をより感じるようになりました。大きいスーパーに行けば大体のものは手に入りますが、あえて高いお金を出して、違うシーズンの物や他県から仕入れたものを買わなくても、旬のものだけで充分豊かな食卓になります。」
――確かに、都会にいると季節関係なく、何でも売っていますもんね。
「あ、これって今が旬なんだとか。例えばとうがんって冬の瓜って書くんですが、きっと冬の食べ物だろうと思っていたら、夏の食べ物だったり。五島に来てから知ることも多いです。」
五島での生活費
生活費は、「トータルすると東京で暮らしていた時よりは安い」とmarieさんは言う。食費、家賃、光熱費について、一つ一つお話を伺った。
食費
「地元のものに関しては、基本的に安く手に入ります。ただ、気候に左右されやすくて、台風などで野菜がダメになってしまうと、価格が2倍、3倍になることも。外的要因に左右されやすいですが、自分で魚を釣ったり、畑で野菜を育てたりすることもできます。」
家賃
「僻地にいけば激安な物件もありますが、すぐ住めるような設備が整っていないことも多いです。とはいえ、東京に比べたら家賃はやっぱり安いと思います。東京は6万円だと安いと感じましたが、五島は家賃6万円も払ったら、広くて綺麗な家に住めるんです。ちゃんとしたお風呂もあって、お手洗いも別であって。3万円でも普通の広さのところに住めます。」
――家探しも難しいと聞きましたが。
「移住者が増えているので、空き家はあってもすぐに住める家は埋まってしまっている状況で。最近見つけてる人は、やっぱり自分の足で歩いて探していますね。」
光熱費
「電気、水道は普通ですが、ガスは高いです。都市ガスがなくて、プロパンガスを使うからだそうです。ガソリンに関しては、輸送してくるので本土より数十円高く、満タンに入れると結構違ってきます。」
――車以外の交通手段もあるんでしょうか。
「車はないと生活できないですね。バスも出てるには出てるんですが、本数も少ないし、学生の通学や、高齢の方の通院の時間に合わせているので、日常的に使うのは難しいです。」
五島の育児環境
――育児環境はどうでしょうか。
「子育てしている人たちからは、『恵まれている』って話をよく聞きます。学校もあるし、保育園も待機児童がいないらしいです。ただ、教育面ではちょっと苦労することは聞いていて。塾は少ないですし、何か専門的な分野を学びたければ、島を出ないといけないですね。」
離島ならではの人間関係
――五島にいて人間関係の良さを感じたことはありますか?
「人との距離が近いから見ていてくれて、褒めてくれる人、認めてくれる人がいるのは良いところだと思います。関東で仕事をしていると、仕事するのが当たり前で、誰も褒めてくれないこともあると思うんです。」
――逆に人との距離が近いことで、悪い面を感じたことは?
「すぐ噂がたったり、移住者として目立って誹謗中傷されたりすることも。だから嫌になることもありましたが、それでもここにいようと思うのは、やっぱりご縁が大きいです。事業を広げるきっかけが縁でつながっていったので、そう簡単には離れられないなと思います。」
――人との距離が近いからこそ、人とのつながりも生まれやすいのかもしれないですね。
人生のハレの日を祝いたいーmarieさんの仕事への想い
遠回りしながら辿り着いたブライダル事業
ブライダル事業を立ち上げるために五島に移住したmarieさんだったが、すぐにやりたいことができるわけではなかった。地域おこし協力隊の活動、ショップ&カフェ「te to ba」、ゲストハウス「ta bi to 」の運営を経て、ついに2020年、ブライダル事業を開始する。
五島での仕事について、今のmarieさんの想いを伺った。
ブライダル事業を始めてみて
――ついに始まったブライダル事業だと思いますが、これまでの道のりはどうでしたか?
「いきなり『結婚式やりたい』と言っても誰にも相手にされなくて、ずっと言い続けてはいましたが、すぐには実行できなくて。でも協力隊の活動等を通して仲間を増やしたことで、やりたいと言った時に協力してもらえるようになりました。」
「いまだにカフェや宿は遠回りが多いのですが、それでも『気軽に立ち寄れる場所(カフェ)』と、『外から来た人が滞在できる場所(ゲストハウス)』がつくりたかったんです。それをつくることで自分自身も今まで出会えなかった仲間や、出会いたい人に出会える場所になるといいな、とういう想いを込めて。このご時世で、なかなか稼働できてはいないんですけどね。」
――遠回りしながらも、着実にやりたいことに向かって進んでいるのが印象的です。ブライダルのお仕事は、やってみてどうでしたか?
「やって良かったなと思います、ものすごく大変なんですけど。いろんな人生のイベントがある中で、結婚式って人生を背負うので、すごいプレッシャーだし、花嫁・花婿さまは、主人公なので想いを爆発するように募らせている方も多くて。それをコントロールするのは難しいですが、できるだけ良い気持ちですべてを終わらせられるように、全力でやっています。島の人にも『参加できてよかった』と言ってもらえたのがすごく嬉しかったですね。」
――特にこだわっていることを教えてください。
「100%に近いくらい、五島のものを使うことにこだわっています。人もそう。五島のもの、一個一個に意味を持たせるようにしていますね。」
――確かに、島の人たちの協力が印象的でした。引き出物を渡す代わりに、ウェディングマルシェを開くのも面白いですね。
「引き出物はもらっても荷物になったりするので、島のカレー屋さんや、パン屋さん、ベーグル屋さん、コーヒー屋さんに来てもらって、公園でマルシェを開催しました。みんなが好きなものを選べるように。ライブ演奏もしましたが、公園でやっているので、結婚式に参加していない人たちも参加できるんです。お金を出せばマルシェで買い物ができて、ライブに招待されていない人もそこにいて。アットホームな感じでやっています。」
ブライダルだけじゃない、人生のハレの日を祝う事業を
――ブライダル事業を通して、何か心境の変化はありましたか?
「最近はブライダルだけでなく、七五三の写真を取らせていただくこともあって。ハレの日は結婚式だけじゃないんですよね、わかりやすいのが結婚式っていうだけで。これからは人の物語を紡ぐことをしていきたいです。」
――それは、やっていくうちに思いが変わったのでしょうか。
「やっていくうちにだったと思います。最初は、東京で結婚式を挙げようとしている友人たちのジレンマを見て、あんな一生に一度のハレの日に、制約ばかりで楽しくないじゃんって思いがありました。でも、ハレの日は一生に一度じゃないなと、いろんな人たちと出会って感じて。人生でハレの日が一回だけなんて、悲しいじゃないですか。結婚式だけがハレの日じゃなくて、家族の中にはいっぱいハレの日があるので、その瞬間のお手伝いをできたらなと思っています。」
――五島での人とのつながりの中で感じた変化だったんですね。
「はい。お祭りのようなハレの日も残すような取り組みができたらいいなと思っています。また他にも、大漁旗が大好きで、そういった伝統文化も自分なりに残す努力をしていきたいです。大漁旗はリメイクしてお店のクッションカバーにも使っていますが、大漁旗はもともと縁起物で、大漁を祈願して人に贈るものです。しかしその文化が廃れ始めていてもったいないと思っています。この文化を絶やしたくない・・・と小さな大漁旗を贈ることができないかな?と模索しています。」
――これから挑戦したいことを教えてください。
「これからは仲間づくりを密にしていきたいです。誰でもいいわけではなく、目標を一緒に作れる人と出会っていきたいと思っています。実はもう一軒物件を手に入れていて、そこで何をするかちょうど話しているんですね。島には宿やカフェがたくさんできているので、じゃあ私たちが必要とされるのはどんなことだろう?と考えながら準備を始めています。」
五島への移住・事業を考えている人へ
事業を進めるうちに、ブライダル事業だけでなく『人生のハレの日を祝いたい』と思うようになったmarieさん。真剣に、でも生き生きとした表情で、これからやりたいことを話してくれた。これからも自分たちの想いを起点に、できることを考え続けていくという。
最後に、五島への移住や事業を考えている人に伝えたいことを伺った。
「五島に住んでみると、思いのほか栄えています。住んでみないとわからないことも多いです。みんなここに住んで、ここにちょうどいいやり方をみつけながらビジネスや生活をしているので。ビジネスを始めようとしている人は特に、五島で何が必要とされているか、じっくり考えてから来てほしいと思います。」
五島で様々な事業を展開してきたmarieさんだからこそ、その場所にあったビジネスを考えることの大切さを知っているのかもしれない。