田舎暮らしにお金は必要?妻子を連れて自給自足。移住した先に待ち受けていたものとは?

田舎暮らしにお金は必要?妻子を連れて自給自足。移住した先に待ち受けていたものとは?

田舎暮らしのきっかけは、人それぞれ。千葉県南房総市に移住した森田啓之さんの場合、「フォルケホイスコーレ」をつくることが夢だった。フォルケホイスコーレとはいったい何なのか? 妻の敏恵さん、娘の紗蘭(さら)ちゃんとともに移住し、夢に向かって歩み始めた森田さんに話を聞いた。

中学不登校の経験とフォルケホイスコーレとの出会い


森田さん夫妻
自ら建てたアースバッグハウスの前に立つ、森田啓之さんと敏恵さん。

森田さんの両親は自営業で、森田さんが8歳のとき経営難に陥った。「あの頃から家庭内が荒れ始めた」と森田さんはいう。


家庭環境に問題があり学校の先生ともうまくいかず、中学2年生から不登校になって家に引きこもるようになった森田さん。16歳のとき、両親の勧めで北海道にある「瀬棚フォルケホイスコーレ」に入塾し、1年過ごすことに。入塾に抵抗はなかったのだろうか?


森田さん「2泊3日くらいの体験入塾をしたとき、スタッフの人たちがみんなよくて、ありのままの自分を受け入れてくれた。『よかったらこない?』ていわれて、家にいてもやることないし、行ってみようと思った」


フォルケホイスコーレはデンマークで生まれた全寮制の学校で、テストや成績表がなく対話を重視し、スタッフも一緒に共同生活を送るのが特徴だ。瀬棚フォルケホイスコーレではどんな生活を送っていたのだろうか?


森田さん「そこは酪農をやっていて、牛の乳搾りをやったり、農作業をやったり、山を切り崩して山小屋を建てたり。15~20歳くらいまでの人たちが一緒に暮らしていました。1棟に5人の生徒とスタッフの夫婦が家庭的な家の暮らしのように一緒に住んでいた」


海外に出て、勉強の必要性を痛感


フォルケホイスコーレを卒業した森田さんはアルバイトでお金を貯め、ワーキングホリデー制度を利用して1年間オーストラリアで過ごした。その後もアルバイトをしながら1人旅を楽しむ。「英語は全く話せなかったし、歴史も勉強していないのでなぜインド人が英語を話すのかもわからず、勉強の必要性を感じた」という森田さん。その後大検(大学入学資格検定)予備校に通い、資格を得た。
※2005年度から大検は高認(高等学校卒業程度認定試験)に移行


アースバッグハウス建築の様子
専用の袋に土を入れて積み上げていくアースバッグ建築で宿泊施設を建てる森田さん。(c)海土里

森田さん「大検の資格を取ったのは23歳。そこから大学に4年行ってどうなるのか? 迷ったけどそこまで勉強をしたいとも思わなかったし、自分なりに勉強をやり切った」


24歳のときに知人が飲食店をオープンすることになり、店長として働くことに。「自分の店を持ちたいと思ったけど、借金してまでの勇気が出なかった」と森田さんはいう。


会社を立ち上げ、結婚。毎月赤字で仮面鬱(うつ)に


両親が住み込みでマンションの管理人をすることになり、森田さんは空いた実家に戻って実家のローンを払いながらシェアハウスを始めた。仕事では営業職に就き、成績もよくトップセールスマンに躍り出る。お金も仲間も増え、33歳で会社を立ち上げ同年結婚。社員3人からスタートして10人まで増やし、順調に進んでいたのだが……。好調な日々は数年で終わり、毎月多額の赤字が続くようになってしまった。


朝7時から仕事をして、終電で帰宅するが眠れない日々。


「疲れていないから眠れないのかなと思って、夜中に帰って来てから走ってたんだよ。おかしいしょ?」と森田さんが笑う。


体調を崩し、不眠でボロボロになった森田さんは、妻の勧めで心療内科を受診した。そこで「仮面鬱」と診断された。


森田さん「この時改めて自分の人生はフォルケにあったと再確認。フォルケのような暮らしがしたいと思った」


フォルケホイスコーレで仲間たちと一緒に
フォルケホイスコーレで過ごしていたときの森田さんと仲間たち。(c)海土里

それまでの暴飲暴食をやめて食生活を改善し、自給自足の暮らし方を実践している人たちを家族で訪ねていくようになったという。


アースバッグハウスをセルフビルド


自分で家を建てることを、セルフビルドという。森田さんは「内装など簡単な作業なら自分でできる」と思っていたが、自分で家を建て、自給自足的な暮らしを堪能している人たちを訪ねるうちに、自分もセルフビルドで家を建てられるかもしれないと考え始めた。


森田さん「田舎暮らしはしたいけど、十分なお金がないとできないと思い込んでいた。実際に移住した方と会って話を聞くうちに、それは違うと感じるようになった。家を売却したお金を元手に田舎暮らしを始める挑戦をしようと思った」


家の売却までの1年半、森田さんは建築現場で仕事をしながら、木工や建築の勉強をしてワークショップにも参加した。


完成したアースバッグハウス
完成したアースバッグハウス。(c)海土里

家が売れて、ローンも完済。手元に残ったお金で理想の土地を購入し、そこにあった築40年の家を自分でリフォームした。宿泊用の施設を建てるために国民金融公庫からお金を借り、自ら先頭に立って仲間とともに建てた。その工法は「アースバッグ建築」。土を詰めた専用の土嚢(どのう)袋を積み上げて建てるので、曲線が美しい。森田さんは、アースバッグ建築に興味のある人たちを募集し、総勢30人の仲間と一緒に造り上げたのだ。完成したときの貯金残高は3000円だったという。


お金がなくても生きていける


ドラム缶風呂とニワトリ
ドラム缶風呂がある敷地内を自由に歩き回るニワトリたち。卵もニワトリも、貴重な食料だ。

虫が嫌いで、都会生活が好きだった敏恵さんは、当時幼稚園児だった紗蘭ちゃんが「パパと一緒に家を造りたい!」という言葉に心を動かされ、移住への道を選んだという。


森田さん「今まではお金がないと生きていけないと思い込んでいたけど、そうではないことが分かった。地域での助け合いや物々交換、手間返しという文化をこの土地で学んだ。自分たちの時間が増えて、24時間365日夫婦一緒にいられる。けんかもするけど、食べ物はあるし、生きていける」


自家製ソーセージを作る森田さん
狩猟や解体を行い、自家製ソーセージを作る森田さん。(c)海土里

直近の目標は、海の家で使われていた廃材を使い、雨でもテントを張れる場を造ることだ。近くに土地を見つけたら、敏恵さんのために家を建てる。家が建ったら現在の家にボランティアが寝泊まりできるようにして、アースバッグでお風呂ドームを建設する。


森田さん「宿泊施設はビジネスであり、やりたいことの一つ。最終的には、不登校の人たちを受け入れる自給自足の学校をここでやりたい。フォルケをつくるという夢がずっとあったから」


南房総にフォルケホイスコーレができる日は、そう遠くない未来かもしれない。


アースバッグハウス海土里~umidori~
住所:千葉県南房総市白浜町滝口324-1
ブログ:https://umidori324.jp/

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