1999年に創刊されて以来、「エコロジー」、「スローライフ」、「ロハス」などのさまざまなキーワードとともに、新しい社会観を発信してきた雑誌『ソトコト』。
編集長の指出一正が、2019年2月に奈良県・高取町で講演を行いました。
テーマは「関係人口」。
「関係人口」とは、観光以上、移住未満の人々のこと。“第三の人口”とも呼ばれています。
指出が奈良県の例をもとに、地域にどう変化がもたらされていったのかを語りました。
地域に生まれる新しい人の流れを支えていこう
『ソトコト』という雑誌で編集長をしている指出です。『ソトコト』はローカルとソーシャルをテーマにしていて、僕は「まちを幸せにしたい」と思っています。そこで提案しているのが「関係人口」という言葉です。
2016年に発行した僕の著書『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ社)でも、この言葉について徹底的に書きました。これからは移住でも定住でもない、観光でもない新しい人の流れが生まれ、それを支えていくことが地域のアイデアになると提唱しました。
また、著書で「観光案内所」のアップデートについても書きました。従来の「観光案内所」のかわりに、まちや地域につくらなければいけないのは、人と人との関係を案内する「関係案内所」なんです。
「土曜や日曜だけでも人が来てくれたらいいな」と思っている地域がたくさんあると分かり、あるサイトをつくりました。まちづくりとまちしごとの求人サイト「イタ」です。
例えば、「週末などに農産物の直売のお手伝いをしてくれる人」などの募集をしています。もちろん時間給はあるけれども、「地元のおばあちゃんとのお茶を飲む時間もありますよ」とか「お酒を飲む楽しさもあります」といった“別の報酬”も書いてあるんです。ここから新しい“自分の地域”を発見してもらおうと思ってつくりました。
村が大好きになった都会の若者は、自発的に動く
僕は奈良県の東南部、奥大和というエリアで、地域をおもしろくしていく活動の仲間の一人に入れてもらっています。
その一つが、人口900人くらいの下北山村で開催している「むらコトアカデミー」です。釣り好きの僕は、ルアーフィッシングのメッカとして知られるこの村が大好きで、26年くらい前からほぼ毎年通っています(笑)。
都会からやってきた受講生の皆さんが、下北山村の風景を見つけ、笑顔になります。自分の土地を見つけた満足感です。新しい場所と出会った喜びは「自分がこの場所を見つけた」という自信につながるんですよね。
下北山村が大好きになった20〜30代の若い人たちは、村のことを真剣に考えるようになりました。東京・日本橋にある『まほろば館』では、受講生や卒業生の皆さんが、定期的に下北山村や奥大和を応援するイベントを開いてくれています。自発的に、勝手にです(笑)。
そうすると少しずつ熱波が広がっていきます。地元でゲストハウスをつくった方がいて、都会の若い人たちが泊まりやすくなったんです。さらに、村内で廃園になっていた幼稚園をリノベーションして、都会からの若い人たちがそこに滞在して仕事ができるようなコワーキングスペース『SHIMOKITAYAMA BIYORI(びより)』もつくられました。『BIYORI』では、若い人たちが村長を囲み、村の未来を語り合いながらご飯を食べる時間が設けられるようになりました。
「スナック」の活動が、交流や発信の拠点に!
また、主に名古屋の学生たちが受講している「奥大和アカデミー」のお話もさせてください。奈良県・天川村の洞川(どろがわ)地区の皆さんに迎えていただき、2泊3日のインターンシップを行いました。村の皆さんがあくまで日常的にやっていることを見せてくれて、参加者は「等身大で接することができる地域に出会えた」と感じたようです。
彼らは「村の皆さんが喜んでくれて、かつ自分たちも楽しいこと」を企画・実行することになりました。その夜に開いてくれたのが、なんと「スナック」! 名古屋の女の子たちがママになりました。実に80名以上の人がやってきて「こういう場所がなかったからうれしい!」と喜んでくれました。
たまたま洞川温泉にカップルで泊まりに来ていた男性が、ママにこう言ったんですね。「今日は彼女の誕生日で、そのお祝いで洞川温泉に来ました」と。その話を聞いた村の皆さんと参加者はサプライズプレゼントを用意して渡しました。そう、バースデーケーキです。
でも、ただのケーキではありません。なんと、豆腐です。コンビニは近くにないので、おいしい豆腐をつくっている豆腐屋さんにお願いして一丁分けてもらい、3本のろうそくをさして、バースデーソングをみんなで歌ったんです。
お祝いされた女性はこう言いました。「こんなにすてきな皆さんがいることが分かって本当によかったです」。これは「関係人口」の階段を登り始めた兆候です。風景だけではなく、その地域にいる人たちが見えたんですよね。
この「スナック」はその後も定期的に天川村で開かれるようになりました。ほかに京都、岡崎、新城、日本橋でも開かれ、ママたちが目を輝かせながら天川村の話をしています。
地域に関わる人を増やしたほうが、きっとまちはおもしろくなる。そう思いながら活動させてもらっています。ご清聴ありがとうございました。