「強い農林水産業」と「美しく活力ある農山漁村」の実現に向け、農山漁村の地域資源を引き出すことで地域の活性化や所得向上を目的にした取組が日本各地でおこなわれています。農林水産省では、その優良な事例を「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」として選定し、全国へ発信しながら他地域への展開を図っています。第12回となる令和7年度は、「全国454件」の応募の中から「30件(27団体と3名)」が選定されました。その中から、今回紹介する特別賞は審査にあたった9名の有識者懇談会委員がそれぞれ選出し、命名した賞です。ソトコトオンラインでは、各受賞者を取材し、取組の内容やこれからの目標について伺いました。
高校生が主役の地域活性化賞
(林良博座長―国立科学博物館顧問、東京大学名誉教授)
『東洋大学附属姫路高等学校 地域活性部 PROJECT TOYO』

部活を通じて高校生たちが主体的に地域活性化に関わる
地域活性部 PROJECT TOYOでは、耕作放棄地の再生や自然との共生、地域資源の発掘に生徒たち自身が取り組み、「やってみよう」という挑戦の姿勢を大切にして活動しています。失敗することもありますが、その一つ一つを学びに変えながら、地域活性化に向けて粘り強く取り組んでいます。
高校生たちは、第1次産業から第3次産業までの流れに主体的に関わることで、農業の実践を通した学びに加え、工業文化と伝統文化の継承や、耕作放棄地を活用した環境保全型農業について理解を深めることができています。また、栽培した野菜や果物を活用した商品開発、地域の方々との協働作業を通して、企画力や課題解決力、コミュニケーション力を育み、世代間交流の大切さも実感しています。さらに、害獣の地域資源化や加工商品の特産品化といった取り組みは、持続可能な社会の実現に向けた実践的な学びとなり、これは社会とつながる教育活動と言えます。
地域の魅力をPRすることで生徒たちの地域愛も増していく
地域の課題であった耕作放棄地を借り入れ、環境保全型農業を目指して実行したことを皮切りに、栽培した米や野菜を使って商品開発を行ったり、地元の方々との世代間交流が生まれ、地域活性化につながる取り組みとして話題を呼びました。観光客からも好評を得るなど、地域の魅力を発信するPRの役割も果たしています。 販売体験では、生徒自身が特産品をPRすることで地域の名産品として認知され、兵庫県と姫路市のふるさと納税返礼品にも採択されるなど、高校生の力を全国に発信する機会にもなりました。活動を通して生徒たちの地域愛は一層深まり、将来農業に携わりたいと考える生徒や農学部へ進学する生徒も増えました。農家の方々から栽培技術が若者へと受け継がれるなど、地域が持つ人の力とつながりの強さを実感しています。

持続可能な社会を目指し捕獲した害獣を利用した伝統工芸品を製作
また、害獣を地域資源として有効活用することで、鹿の付加価値を高め、捕獲後に山中で廃棄されるケースの減少や、狩猟者の捕獲意欲向上にもつながりました。こうした取り組みに対して、同様の獣害に悩む他地域や多くの販売店から多数の問い合わせがあり、循環型社会について考えるきっかけとなっています。さらに、鹿革製品の開発を通して、生徒が伝統工芸品である姫革細工に興味を持ち、革製品の廃材を活用したカーペット製作など、持続可能な社会を目指す取り組みにも発展しました。 今後も高校生が主体となり「農業は面白い」「地域には可能性がある」というメッセージを発信していく予定です。将来的には、この活動をきっかけに若者が地域に残り、あるいは戻ってくる流れを生み出したいと考えています。このプロジェクトが、高校生一人ひとりの夢の芽を育てると同時に、地域の未来を照らす希望のモデルとなることを目指しています。
農泊賞
(藤井大介委員―(株)大田原ツーリズム代表取締役社長、(株)ファーム・アンド・ファーム・カンパニー代表取締役社長)
『一般社団法人そらの郷』

教育旅行やインバウンドツアーで地域住民と来訪者の交流を図る
そらの郷は、四国の中央に位置する「にし阿波~剣山・吉野川観光圏」(美馬市・三好市・つるぎ町・東みよし町)にあります。にし阿波は県内屈指の観光地域であると共に、素朴で温かみのある、古き良き暮らしが今もなお息づく地域です。一般社団法人そらの郷は、官民連携で世界に通用する観光地域づくりを目指し、旅行商品の企画・開発・販売や、積極的な教育旅行、インバウンド誘致を展開しています。一般社団法人そらの郷では、世界農業遺産に認定された「にし阿波地域の傾斜地農耕システム」による伝統農法や食文化、歴史資源を活用し、官民連携で地域の持続可能な観光地域づくりを推進しており、地域住民との交流や農泊体験、伝統農法体験など多様なプログラムで来訪者の満足度を高め、交流人口の増加に貢献しています。
「温かなおもてなしの心」が、何よりの魅力
小規模農家が大半を占める当地域において、単に農作物を作って売るだけではなく、収穫や調理などを「体験コンテンツ」として付加価値化したことで、農業所得の確保や地産地消につながっています。さらに活動を通じ、普通だと思っていた農村の日常が、都市部や海外の方にとっては「かけがえのない価値」であると再発見できました。
また、何よりも受け入れ家庭をはじめとする地域住民の方の「温かなおもてなしの心」が、来訪者の心をひきつけている要因であり、事業を推進する上での大きな原動力となっています。教育旅行の離村式で地域住民と来訪者が涙を流して別れたり、地元住民が歌う民謡に感動する外国人の姿があったり。心のこもったおもてなしは世代や国籍を超えて伝わるものであり、こういった体験は来訪者だけでなく、地域住民にとっても生きがいや、地域への誇りを感じさせるものになっています。

地域住民も来訪者も愛着を持つ観光地づくりを目指して
今後は、海外からの教育旅行「訪日教育旅行」の受け入れを拡大するため、海外向けのプロモーションに取り組んでいきたいと考えています。それに伴い、ハラールやヴィーガンなど食の多様性に対応する研修を実施し、受入体制を整えていきます。
また、伝統農法の観光コンテンツ化をさらに推進し、農業者の所得向上を図ると共に、にし阿波に訪れる人が地域に愛着を持つ「住んでよし訪れてよしの観光地域づくり」に取り組んでいきたいです。
体験でつなぐ海の恵み賞
(三國清三委員―(株)ソシエテミクニ代表取締役)
『株式会社日本バイオテック』

沖縄から世界へ!SDGs食材・海ぶどうの輸出販売
私たちは、沖縄・糸満の地域資源である海ぶどうを世界の食材にすることを目指し、体験型の海ぶどう農園「海ん道〜うみんち〜」の運営や、食品「ふくらむぷちぷち海ぶどう」の海外への輸出販売などを行っています。
職場は女性・高齢者・就労支援誰でも活躍できる環境で、六次産業推進による売り上げ向上や雇用の創出をはかり、持続可能な沖縄水産業のモデルケースを作っています。今回、この取り組みが全国の農林漁村の活性化の一例として共有されることで、同じ志を持つ地域の方々と共に成長していきたいと考えております。

糸満の海水で育った海ぶどうは「今まで食べたことがない」と好評
海ぶどうは、苗の生産から収穫まで循環型の生産が可能なSDGs食材です。海ぶどうを生産することで、地域の方々との共生共栄・持続可能な社会を作ることができ、また、世界の人々の喜びと幸せに貢献し、自然と共生した美ら島づくりを目指しています。
糸満は手付かずの自然に溢れています。海ん道を訪れた方々に「こんな素晴らしいビーチが那覇の近くにあったんだ!」「また来たい」と言っていただくたびに、地域の持つ力を実感します。そんな糸満の自然のめぐみである海水を活かして、陸上養殖で生産した海ぶどうもまた、「これまで味わったことがない海ぶどう」だと評判です。そういったお声をいただくたび、またいいものを作って、喜んでいただけるように頑張ろう!と思えます。
“おきなわからおおきなわ”に。海ぶどうを世界へ輸出し、糸満の地域活性化を目指す
生産した海ぶどうは現在、世界18カ国で食され、フランスではミシュラン掲載店舗でも使っていただいております。今後は「おきなわからおおきなわに」「海ぶどうを世界の食材に」を目標に、美ら海から生まれ大切に育てた宝物「海ぶどう」をより多くの世界の食卓へ運んで、感動を届けていきたいです。 そして、自然・食材・人間が持つ可能性をつなぎ、地域社会の活性化、観光資源の創造を果たしていきたいです。同じ思いを持つ仲間(シンカ)たちと「海ん道」を世界から人が訪れる南海の楽園として築き上げていきたいです。
郷土のお宝味覚牽引賞
(向笠千恵子委員―フードジャーナリスト、食文化研究家、郷土料理研究家)
『株式会社あぐりてらす阿知須』

一度途絶えかけた山口県南部の郷土料理「寒漬」を次世代へ繋ぐ
あぐりてらす阿知須では、特産漬物「寒漬」を生産、販売しています。寒漬とは寒干しだいこんを塩抜きし、刻み、調味液で漬けたもので、コリコリとした食感と独特の風味が特徴です。私たちはこの先人が残してくれた特産品の良さを発信し、次の世代に繋いでいきたいと考えています。
寒漬は、生産者の廃業や高齢化によって、一度、学校給食への提供が途絶えてしまいました。それを私たちの手で復活させ、子どもたちに郷土の味を伝えることができたのは、とてもやりがいを感じる出来事でした。
地域の方々がリピート購入するほど愛される
我々の寒漬は非常に強固なリピーターさんに支えていただいています。地元のお祭りで提供していただいたり、手土産としてご購入いただいたり。商工会や地域づくり協議会などにも度々ご購入いただけていることが、とてもありがたくモチベーションになっています。
また、学校から寒漬の作り方を伝える出前授業を毎年行っております。一度なくなりかけたことが、地域の方々も特産品の価値を見直すきっかけになったのかもしれません。
阿知須の気候だから作ることができる寒漬を、もっと広めたい

原料大根を天日に干した風景は毎年、新聞やテレビで報道され、それもスタッフのモチベーションの向上につながっています。また普段、私たちは農業部と加工部に分かれて作業しているのですが、大根を壺から上げる作業は従業員総出で行います。それが一体感の向上につながっていると感じています。 寒漬の天日干しは、カビが生えない低い温度と、逆に凍らない温度、また、乾燥させる適度な風が必要です。阿知須で寒漬が生まれたのは、そういった気候条件がピッタリ合ったからこそです。現在は山口市南部と宇部市西部という非常に限られた地域での商圏となっていますが、今後は商品をさらに改良し、知名度を向上させ、より多くの方々に知って、味わっていただける商品に育てていきたいです。












