ジャパンホイスコーレDay

連載 | ソーシャル系大学案内 | 55 ジャパンホイスコーレDay

「ホイスコーレ」の礎となる民衆の啓蒙の精神が、 日本の若い世代にも届き始めている。

 デンマークのフォルケホイスコーレの歴史は古い。デンマーク最初のホイスコーレは、シュレスヴィヒ地方レディングに1844年に設立された。民衆の啓蒙を進めた思想家N.F.S.グルントヴィの構想をもとに、各地の農民たちが自らつくり、自ら運営する民主的な学校がフォルケホイスコーレである。現在もデンマーク国内に約70のホイスコーレがあり、日本からも多くの留学生が訪問してきた。
 ジャパンホイスコーレDayは、ホイスコーレの理念に共感し、日本にホイスコーレを設立しようとしている団体や留学経験者、デンマーク在住者、ホイスコーレに詳しい研究者をつなぎ、その価値を確認しようとするプログラム。数回のオンライン企画会議を経て合計12セッション、25名の登壇者を迎えるイベントとなった。

「経験者が語るホイスコーレ!」は、伏見碧さん、遠藤美智子さん、杉山旬さんという3名の留学経験者によるパネルセッション。ひとりになりたくてもなれない寄宿舎生活では、否応なしに人と関わる。背景の異なる人たちと生活を共にすると、掃除の仕方に文句が出るなど、些細な摩擦だらけだという。しかし、こうした生活のなか、価値観の異なる人に出会い続けることで、自分のことが初めてわかったという。「これこそが対話なのでは?」とのコメントに、参加者からも深い同意が寄せられた。
「あなたを突き動かす忘れられない経験」は、『ニアカリ』代表の岡田恵利子さんと、『ラーンネット・グローバルスクール』代表の炭谷俊樹さんによるオルタナティブ教育についてのセッション。子どもを連れて留学したデンマークでの経験をもとに、神戸市灘区六甲山町にラーンネット・グローバルスクールを設立し、『第3の教育』(角川書店刊)を著した炭谷さんは、子どもの好奇心が動くのを待つことが、「爆発力のある知の探究」へつながると語ってくれた。

「日本の制度で考えるホイスコーレ」では、陸前高田で『Change Maker’s College』を運営する岡田勝太さんが、オルタナティブスクール経営の困難さを語った。短期プログラムの実施も可能だが、岡田さんたちが目指しているのは、生き方と向き合い、自分と対話する経験を重ねること。時間がかかるため、短期間で成果を問われる補助金もなかなか申請しづらいと話し、経営と場の価値の追求を両立させようとする岡田さんの姿が印象的だった。ほかにも『Actwish LLC』共同代表のソーレン・クローンマンさん、「Cultural Translator」のニールセン北村朋子さん、『Nordfyns Højskole』職員代表理事のヤーンセン・モモヨさんなど、デンマークからの登壇者によるセッションも大盛況だった。

 日本にも各地でユニークな活動を続けるホイスコーレがある。ジャパンホイスコーレDayはその活動につながる、次世代が集う場になった。「人間の生全体へと拡大されるべき」とグルントヴィが考えた民衆の啓蒙の精神は、ホイスコーレをつくろうと動き出す日本の若者にまで届こうとしている。


参考文献 一般社団法人IFAS ジャパンホイスコーレDay

さかぐち・みどり●明治学院大学社会学部教授。2000年、東京大学大学院博士課程単位取得退学。研究領域は生涯学習論。共著に『ポストリベラリズム』、共訳書にアーリー・ラッセル・ホックシールド『タイム・バインド』など。
写真・文●坂口 緑


記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。


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