ここまで書けば、見知らぬ風景を求めて貪欲に生きる写真家のようにも聞こえるが、あくまで藤岡が大切にしているのは、それぞれの場所で“生活をすること”だ。生きるために撮るのではなく、暮らしながら、その生活を切りとっている。
改めて冒頭の写真集に戻ろう。大家のおばあちゃんが1階に住む、昭和の古いアパート。花瓶に挿さった枯れかけの花。キッチンにあるつくりかけのサンドウィッチ。藤岡が下宿していた当時の写真に、その頃の生活について綴ったエッセイも添えられている。珍しいものが写っているわけではない。だけど、フィクションのようにも感じられる写真を眺めているうちに、作者の人生に次第に引き込まれていくのだ。現在は広島県東広島市の小さな村で地域の人たちと関わりながら暮らしている藤岡。出すたびに評価されてきた写真家の原点を堪能したい。