福島県・昭和村。山々に囲まれ一年のほとんどの間、雪に閉ざされる小さな村に、「からむし」という植物から糸を編む女性たちがいる。茎を湿らしながら細かく裂き、よってつないで糸を績む。糸は町で売られ貴重な収入源となってきた。『からむしを績む』は、織姫と呼ばれる伝統継承者、哲学者、写真家が紡ぐ物語だ。
以前、からむしで織られた布に触れたことがある。折り重ねた時間と込められた願いの深さが、静かに、けれど雄弁に語りかけてくる美しい布だった。
先日、亡くなった祖父の遺品整理をしている際、その時の感覚がよみがえった。なんてことのない物に、過ごした日々の思い出が重なり、整理をする手が止まった。心の豊かさとは、他者からしたらなんてことのない物事から、自分だけの物語を紡いでいく過程で、育まれていくものなのかもしれない。自分だけの物語は、困った時に助けてくれる「お守り」になる。心が温かくなるような感覚を、からむしを巡る物語からも感じた。