ソーシャルでエシカルな関心をもつ人を惹きつける、街の中に広がる学びの場「ソーシャル系大学」。2012年に連載を開始して以来、計59回にわたり、全国の40か所以上の「大学」を訪問してきた。最終回は、宮城県角田市の『かく大學』を取り上げる。コロナ禍のさなかに発足し、第2期目を迎えた大学が、感染症対策をとりつつ、オンラインとオフライン併用のハイブリッド方式で開催した「最終報告会」の様子を報告する。
たのしく、自由に地域の課題と向き合って、 オモイからカタチを象る『かく大學』の学びは続く。
外あそび親子サークル『やろっこひなっこ』を主宰する橋本鮎子さんのトークのあと、5名の修了生が発表した。「無気力な若者の問題について考える無気力な若者」を報告した佐藤賢至さんは、自らを実験台に、ふとやりたいと思ったことを片っ端からやってみる、という半年の体験を緊張しながら話してくれた。
「Gyufun Project」を報告した齋藤瑞穂さんは、移動中に目にした牛糞の山をヒントに、子どもたちと一緒に、カブトムシの幼虫を育てる講座企画を発表した。
第1期生の黒須大輝さんからも、『かく大學』修了後に関わった活動についての報告があった。高校生活と両立させながら、若者による政治参加のチャンネルとなる青年議会の実現に向けて、他県の事例を学び、地域の活動にもますます参加するようになったという。
関東エリアからオンラインで参加した第2期生の加藤詠理さんは、角田市出身。母校が廃校になったことをきっかけに角田市の人口問題を考え、統計資料とヒアリングデータを駆使して、移住者同士をつなげるコミュニティの提案を「移住のすゝめ」と題して報告した。
最後に、『かく大學○○部映画研究部』を報告した佐々木翼さんは、群馬県前橋市で展開されている地域活動『前橋○○部』と、恵比寿ガーデンプレイスでの野外上映会をヒントに、大好きな映画を誰かと一緒に見て、感想を共有する上映会を実施し、その様子を報告。あるときはお寺の境内で、またあるときはAmazonの「Prime Videoウォッチパーティ」機能を使って、『かく大學』の学生同士がつながる部活動が立ち上がったという。
角田市の黑須貫市長と永井哲教育長もフルで参加した報告会は、市内外のゲストがオンラインとオフラインで集まる、熱気あふれるものだった。全国で地域づくり学校を運営し、『かく大學』教授でもある尾野寛明さんからは、「修了してから半年くらいの何もしない時間が大事」という、印象的なひと言があった。答えのない課題に取り組む『かく大學』は、若い世代にとってははじめの一歩を踏み出す勇気になるような、中堅世代にとっては凝り固まった思考を柔らかくしてくれるような、思いがけない刺激が与えられる場となっている。2022年夏には、『第3期かく大學』の開校が予定されている。
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角田市生涯学習課:www.city.kakuda.lg.jp/soshiki/22
開催地
かく大學(宮城県角田市教育委員会生涯学習課)
〒981-1505 宮城県角田市角田字牛舘10『角田市市民センター』内
文●坂口 緑 写真提供●角田市教育委員会
さかぐち・みどり●明治学院大学社会学部教授。2000年、東京大学大学院博士課程単位取得退学。
研究領域は生涯学習論。共著に『ポストリベラリズム』、共訳書にアーリー・ラッセル・ホックシールド『タイム・バインド』など。
記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。